首輪と鞍と手綱
「お待たせ〜〜! それじゃあ行こうか。一匹分だけ先に貰ってきたから、これでしばらく食べ放題だぞ〜〜!」
俺の言葉に全員揃って拍手して立ち上がる。
「じゃあ戻ろう。それじゃあまたな」
出てきたガンスさんにハスフェル達も笑顔で手を振り、俺達は揃って外に出た。
「ええと、オリゴー君とカルン君の従魔達の首輪と手綱と鞍だけでも、先に頼んでおくべきじゃあないか?」
日が暮れたとは言っても、まだ時間も早いし今日は雪も降っていないので、まだまだ街は賑やかでほとんどの店が開いているし人通りもそれなりにある。
冒険者ギルドを出たところで、通行人が首輪の無いシンリンオオカミ達を遠巻きに見ているのを見て思わずそう言ったよ。
俺のビアンカは特に大きいから、通行人達が怖がるのも無理は無い。
紋章は付いているけれど遠目に見た時に大型の従魔に首輪が無いのは、テイムしたばかりなのだという事情を知らなければそりゃあ怖いだろう。
「ああ、確かにそうだな。シンリンオオカミ達には既製品の首輪でいいからとりあえず付けておくべきだな。じゃあ帰る前に先に店へ行くか」
ハスフェルの言葉に俺達は無言で頷き合い、とりあえず大急ぎで適当な紐を取り出して三匹の首に巻きつけておいた。
「確かに、臨時の紐で良いから街へ入る前に首輪は付けておくべきでしたね」
アーケル君達も、周囲の視線に今更ながら気が付いたみたいで苦笑いしながらそう言っていた。
前回リナさん達が揃って手綱や鞍を頼んだのだという、皮細工の装備品を専門に扱う店へ向かった。
「ああ、これで良いんじゃあないか?」
広いその店に入ったところでワゴンに並んでいた大小の首輪を見て思わずそう呟く。かなり大きなサイズまで取り揃えてあるので、探せばビアンカサイズの物も色々ありそうだ。
「女の子だから、ビアンカには明るい色がいいよな」
そう言いながら一番大きなサイズを見ていると、首を伸ばしたビアンカがピンク色の首輪を鼻先で突いた。
「綺麗な色だけど、これはどう? 私には小さいかしらね?」
「これか? ああ、真っ白なビアンカにはよく似合いそうだ。ちょっと当ててみるからじっとしていてくれよな」
言われたピンクの首輪を手にした俺は、腕を伸ばしてビアンカの首に当ててみる。
「おお、ビアンカは毛深いから案外首は細いんだな。これならもう一回り小さいのでも大丈夫みたいだぞ」
パッと見た感じマックスと同じくらいの大きさに見えるけれども、マックスよりも首周りのサイズは細そうだ。
「いらっしゃい。おお、こりゃあまた豪勢な従魔だなあ」
俺達が店に入って来たのに気付いて店の奥から出てきたドワーフの爺さんが、ビアンカを見上げて感心したように笑っている。
「じいちゃん! こいつらにも手綱と鞍を頼みたいんだ。どれくらいで出来る?」
アーケル君の言葉に、じいちゃんと呼ばれたそのドワーフは笑顔になった。
「おお、言っていた兄貴達の従魔用だな。もちろん用意してあるぞ。どれどれ、サイズを見るからちょっとじっとしていてくれよな」
メジャーを手にした爺さんの言葉に、オリゴー君とカルン君が揃ってそれぞれの従魔の横に立つ。
踏み台に乗った爺さんが、手早くサイズを計るのを俺達も目を輝かせて見つめていた。
「うん、大体予想通りだな。これならもうあのままで使えるんじゃあないか?」
ブツブツと呟きながらうんうんと頷いた爺さんは、そのまま一旦店の奥へ下がってすぐに大きな木箱を台車に載せて戻って来た。
「ほれ、鞍はこれで良かろう。ベルトの取り付け方を説明するからしっかり聞いておけよ」
何本ものベルトを取り出して説明を始めるのを見て、俺達は一旦下がって見物する事にした。
どうやら、リナさん達がここで自分達用の鞍や手綱を注文した時に、彼らの分も話をして準備を頼んでいたみたいで、馬用の鞍に若干の変更を加えて用意してあった二つの鞍は、あっという間にパールとネージュの背中に乗せられてベルトの微調整も済んでしまった。爺さん仕事早い!
それから既製品の首輪をいくつか試してサイズを合わせ、それに手綱を取り付ければ準備完了だ。
ビアンカ用には、見ていた二番目の大きさのピンクの首輪がサイズぴったりだったので、もうそのまま装着させてもらったよ。
うん、真っ白な毛皮にピンクの首輪も可愛いねえ。
それぞれに代金を払った俺達は、すっかり真っ暗になった外に出た。
「これでパールとネージュの装備は完了だな。ビアンカの首輪も手に入ったし、それじゃあお城へ戻って夕食は焼肉パーティーといこうじゃないか!」
俺の言葉にまたしても拍手喝采になり、それぞれの従魔に飛び乗った俺達は、相変わらずの周囲の注目を集めつつゆっくりと一列になって進んで行ったのだった。
「じゃあ、明日からってどうする? 予定していた雪スライムはもう全員分集まっちゃったから、あとはもう順番にテイムするだけだし」
俺の言葉に、すぐ後ろを進んでいたハスフェルが笑っている。
「そりゃあお前さん。せっかくそれだけの見事な装備を手に入れたんだから、早く実戦で使ってやらないと勿体なかろう。じゃあ、天気が良ければ庭の地下洞窟へ入ってみるか」
「ああ、いいですねえ。あそこの地下洞窟はアイテムが出やすいんですよ。収納袋は高く売れますし、出来ればもう少し性能の良いのが欲しいんですよ」
ランドルさんの言葉に、リナさん達も笑って頷いている。
収納の能力を持たない彼らにとっては、収納袋は必須アイテムだ。
それに、性能の良い収納袋を複数持つのは、郊外でジェムや素材を集めるのなら絶対に必要だからな。
「ふっふ〜〜ん。待ってました〜〜〜〜! 来てくれればいっぱい出すよ〜〜〜!」
マックスの頭の上に座っていたシャムエル様の得意げな言葉に、俺はもう笑うしかない。
そうだよな。確か以前にそんな事言っていたなあ。
だけど、収納袋なら俺もちょっとくらいは持ってみたい。
だって、これこそ異世界ならではのマジックアイテムだもんな!