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謎の気配の正体は……

「じゃあ、目を閉じてくれる。ケン」

「いやいや、待てって! 何、当然のように俺を行かせようとしているんだよ!」

 慌てて顔の前で手を振ったが、シャムエル様に手を抑えられた。

「だって、聞いていたでしょう? ハスフェルやギイでは、向こうが怖がっちゃって逆効果なんだよ。ケンの気配なら、恐らく油断するだろうから、問題の幻獣が何処にいるかだけ確認してくれれば良いからさ」

「いや、だからさ! もし俺が行って向こうが攻撃してきたらどうするんだよ! 今の話で言うと、ハスフェル達は無理でも、俺だったら勝てると思うんじゃね?」

「ああ、まあそれは確かに……」

 いや、そこは大丈夫だって否定して欲しかったよ。

「ねえ、安全対策は?」

 シャムエル様が振り返ってハスフェル達に聞いている。


 うう、不安しかないぞ。


「万一の時は俺がガードしてやるから心配するな。ああそれから、もしも火の気配を感じたらロックアイスを放って即座に下がれ。良いな?」

 真顔のハスフェルに言われて、仕方なしに頷いた。

 結局、どう転んでも俺が行かなきゃならないのは確定事項かよ。


 本気で泣きそうだけど、ここは仲間を信じて行くしかない……のか?

 やっぱりどう考えても納得出来ないが、ここで俺が抵抗したところで無駄に時間が過ぎるだけで意味は無いだろう。

 肩に乗ったシャムエル様が俺の目に短い手を伸ばそうとするので、諦めた俺は横を向いて目を閉じた。

「はい、お願いします」

「あ、うん、じっとしててね。第二の目、鑑識眼の第三段階を解放する。その眼を持って真実を見極めよ」

 何度も聞いた、神様っぽい声だ。

 真剣な様子でそう言って、俺の閉じた瞼を叩いた。

「それからこっちもだね。第二の耳、識別の第三段階を解放する。その耳を以って真実を正しく聞き分けよ」

 同じくそう言って、俺の耳に手を当てる。

「第二の口、言語の第三段階を解放する。その口を以って真実を正しき言葉で語れ」

 最後にそう言って俺の唇を叩いた。

「はい、これで言葉は聞こえるし、姿も見えて話しも出来るはずだよ。いってらっしゃい!」

 シャムエル様は軽くそう言って俺の頬を叩いて消えてしまった。

 うう、他人事だと思って……。


 大きなため息を一つ吐いて、ハスフェルからランプを受け取り一番火を強くしてもらう。

「じゃあ、行ってくるよ。本当に何かあったら助けてくれよな」

「任せろ」

 笑って腕を叩かれて、とにかく俺は広場へ入って行った。


 羽ばたく音がして、ファルコとプティラがそれぞれ火の入ったランタンを咥えて舞い上がった。

 左右に別れて背の高い石筍の上に留まり、上からも照らしてくれたのだ。

「おお、明るくなったよ。ありがとうな」

 上には異常は無い。右から正面、左へとゆっくりと視線を動かして行くが、今の所異変は感じない。

『どうだ? 何か見えるか?』

 頭の中に、ハスフェルの心配そうな声が聞こえる。

 あ、そうか。念話で繋がってるから、危険が分かるのか?

『おう、聞こえるぞ。何かあったらこれで言えば良いんだな?』

 頭の中で話しかける。

『ああ、それで良いぞ。決して無理はするなよ』

 そんなの絶対しないって。

 剣は抜いたところで役に立つとは思えない。諦めていつぞやのように手ぶらで広場の中に入って行った。



「うわあ、これ絶対無理だろう。この石筍、どんだけデカいんだよ」

 近くへ行くと、石筍や鍾乳石の大きさに圧倒された。

「ギリシャの、なんとかって石造りの有名な神殿みたいだな」

 小さく呟いて周りを見る。

「揺らぎ無し、気配は……多分無し」


 必死になって周りを探ったが、特に何も感じない。

 そのまま慎重に、ゆっくりと奥へ進んで行く。

 慎重に、少し進んでは立ち止まり気配を探る。しかし、一向になんの気配も感じなかった。


『どうなってるんだ? 全く何も感じないし見えないぞ』

 頭の中でハスフェルに話し掛ける。

『もう少し進んでくれるか。その先の赤い石柱にさっき僅かだが揺らぎを感じたんだ』

「赤い石柱? ああ、あれだな」

 ハスフェルに言われて周りを見回して見つけた赤い石柱に向かってゆっくりと進む。


『クルナ』

 不意に、頭の中に聞きなれない声が響いた。

「うわあ、びっくりした。ええと、これって目的の幻獣の声か?」

 思わず声に出してそう呟き、慌てて辺りを見回す。

『クルナトイッテイル』

 妙に頭に響く、まるで機械で変化させた音声みたいな声だ。

「なあ、そんなに警戒しないでくれよ。何があったのか知らないけど、お前は本来こんな所にいるはずが無いって聞いたぞ」

 とにかく話しかけながら必死で辺りを探る。


 あ、見つけたかも……。


 ハスフェルが言った、赤い石柱の右奥に、奇妙な歪みを発見した。

 しかし、何故そんな風に思ったのかは分からないが、その歪みは小さく震えていて、何だかとても弱っているみたいに感じたんだ。

 背後でハスフェルが動く気配を感じた俺は、思わず彼に呼び掛けた。

『待ってくれ。弱って怯えているみたいに感じたんだ。頼むから手荒な事はしないでやってくれ』

『弱っていると感じた?』

 明らかに不審そうな声が聞こえる。

『うん。だからちょっと待ってくれ』

 ランプをかざして、右手を上げて石柱に近付いて行く。

『サクラをゆっくりこっちへ寄越してくれるか?』

『何をする気だ?』

 また、ハスフェルの不審そうな声が頭の中に聞こえる。

『サクラとアクアには、万能薬を持たせているんだ。今こそ出番だろう?』

『分かった、充分警戒しろよ』

 少し下がってサクラが来るのを待つ。


 今の足元は、靴が浸かるくらいの水浸しの場所だ。

 その水の中を、肉球マークが音も無くゆっくりと側に来た。

 屈んで右手で抱き上げてやる。

「なあ、聞こえているんだろう? もしも怪我をしているんなら、こいつが万能薬を持っているんだ。絶対に治してやるから出て来てくれないか?」

『バンノウヤクダト?』

 明らかに、気配が変わった。

「サクラ、以前渡したあの瓶に入れたのを一本だけ出してくれないか?」

「コレだね、ハイどうぞ」

 サクラが出してくれたのは、掌に収まるサイズの小さな香水瓶だ。中は満杯まで透明の万能薬が入っている。

 街の食器屋で見つけて何本か買っておいたんだ。こうしておけば、取り出した万能薬も蒸発しないだろう、多分。

 しかし、それっきり黙り込んでしまって声が聞こえなくなった。


「なあ、要らないのか?」

 見えるように瓶を差し出しながら、もう一度言ってやる。

『ホシイ……デモ……ウゴケナイ……』

 思わず振り返ると、ハスフェルも驚いた顔をしている。ギイもその横で同じく驚いた顔で赤い石柱を見つめている。

「持って行くぞ。頼むから急に攻撃したりしないでくれよな」

 瓶を差し出したまま、ゆっくりと揺らぎに近づいて行く。


 もう、手を伸ばせば石柱に触れる場所まで来てしまった。

 揺らぎは全く動かない。もしかして、本当に死にかけているのかもしれない。

「なあ、万能薬って、上からかけてやればいいんだよな。それとも飲ませた方が効くとか?」

 また不意に右肩に現れたシャムエル様に小さな声でそう聞く。

「蓋を取って、そのまま下に零してやって」

 つまり、この下にいるって事だな。

 深呼吸を一つして、いつでも逃げられるように少し屈んでランプを持った左手で蓋を抜く。

 言われた通りにそのまま下に向かって全部零した。


 細い糸状になって落ちていった万能薬が、地面に届く前に途中で吸い込まれるように消えていった。

 その直後、目の前に毛の塊が現れた。


 やや薄いピンク色のその毛の塊は、ふわふわで丸い。

 端っこからぴょこんと顔が出て来た。


 ナニコレ超可愛いいぞー!

 よっしゃー! 新たなるもふもふ来ましたー!

 思わず脳内で俺がガッツポーズで叫んだのも無理はないだろう。


 目の前に起き上がって、俺を見上げて座ったのは、以前のマックスより少し小さい程度の生き物で、ふわふわの毛に覆われたそれは、キツネと猫と犬を全部足して可愛いところだけ集めたみたいな姿をしていた。

 とにかく全体に丸くてふわふわだ。猫のような丸みを帯びた顔に猫の倍近くある大きな三角の耳、そして尻尾はもうこれ以上ないぐらいにふわふわの毛に覆われていた。俺の知る普通の狐の尻尾の倍以上は確実にある。

 だが、目の前のそれが普通の生物じゃない証拠に、その小さな額の真ん中には大きな真っ赤な石が埋め込まれていたのだ。


「カーバンクル。まさかとは思っていたけど……どうしてこんな子がこっち側にいるんだよ」

 シャムエル様の呟きに、俺はまた気が遠くなったよ。


 まさかの幻獣の正体は、カーバンクル。

 どうすりゃ良いんだ? この後始末?

 もしかして、またしてもパーティーメンバー追加ですか?

 うん、この子ならもふもふだから、大歓迎だけどね!

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