謎の称号?
「ほら、こっちだ」
冒険者ギルドマスターのガンスさんについて行き、以前解体を頼んだ奥の部屋に通される。
「おお、魔獣使いの兄さんか」
振り返ったガタイの良いマッチョなスタッフさんに、ガンスさんが笑顔で頷く。
「肉が欲しいらしいから、出来ている岩豚一匹分だけ先に渡してやってくれるか」
「おう、了解っす。おおい、解体済みの岩豚の肉を持ってきてくれ」
マッチョマンの大声に、別室になっている奥から返事が聞こえて巨大な肉の塊を担いだスタッフさん達が出てきた。
「ああ、ありがとうございます」
「その前に、すまんがギルドカードを出してくれるか」
広い机の上に積み上がった肉の塊を収納しようとしたところで、何故かギルドマスターからストップが入る。
「ああ、はい。何か手続きが要りましたっけ?」
確か以前はそのままもらったような気がするけど、何か手続きがあったかな?
まあ、ギルドマスターにギルドカードを出せと言われて断る理由もない。素直に収納していた自分のギルドカードを取り出して渡した。
「さっき、聞こうかと思ったんだが、まあ、あそこは他の冒険者達の耳目があるのでなあ」
俺をガン見していたガンスさんは、受け取ったギルドカードをまじまじと見てから俺にそのギルドカードを見せた。
「なあ、ここにある、これは何だ? この前見た時には、こんな文字は無かったぞ」
真顔で突っ込まれて、俺は無言で焦ったよ。
だって、見せられたギルドカードの裏には、メタルマスターの文字の下にスノーマスターの文字が燦然と輝いていたのだから。
「え、ええと……何でしょうねえ」
冷や汗をダラダラ流しながら必死で誤魔化そうとしている俺をジト目で見て、ガンスさんは無言で扉を見た。
すると何も言わないのにマッチョなスタッフさんの一人が、ささっと扉に駆け寄って扉の前に立ちはだかる。
今の俺は、左肩にファルコを留まらせているだけで他の従魔達は全員受付横で待ってもらっている。当然ハスフェル達もそっちで待っているので、もう実質俺一人。目の前にいるのはマッチョなスタッフさん達とガンスさん。はい、絶体絶命です。
「うん? これは、何なんだ?」
目の前にギルドカードを出されてしまい、俺は諦めのため息を吐いた。
うん、嘘は良くないよな。ここは素直に白状しておこう。
「ええと、あまり騒ぎになりたくなかったので黙っていたので、出来れば今から言うのは他言無用に願います。実は、こんなのを外で見つけてテイムしたんですよ」
鞄の口を開けて中を覗き込む。とりあえずテニスボールサイズになったアワユキに、代表して出てきてもらう事にした。
「お、お前さん……そいつは何だ?」
初めて見る雪スライムを前に真顔のガンスさんだけでなく、部屋にいたマッチョマン達までが一斉に集まってきてアワユキをガン見する。
「えへへ。そんなに見つめられたら恥ずかしいでしゅ」
妙に可愛らしい声でそう言ったアワユキは、ビヨンと伸び上がった後に俺の腕にくっついて一瞬で裏側に隠れてしまった。
「なんか、雪の中にいる珍しいスライムみたいですよ。多分、その称号は、こいつを捕まえたから手に入ったのかと」
「つまり、さっき登録した時に見せていた色付きのスライムは、囮か」
「ま、まあ、囮というか、身代わりと言いますか……」
これって虚偽の申告になるのだろうか。
ちょっと内心ビビりつつガンスさんを見ていると、大きなため息を吐いたガンスさんはいきなり笑い出した。
「全くお前さんは話題に事欠かない奴だなあ。確かにそんな珍しいのをホイホイ見せていたら、好事家の目に留まって売れだの譲れだのって騒ぎになるだろうな。ここは王都から来る貴族の使いの者達も多いので、その程度の用心は必要だな」
「でしょう! 俺は信頼出来る友人以外には、絶対に従魔は譲らないって決めているんです。なので、売れだの勝手に譲れだの言われても、絶対に応じませんからね!」
これだけは絶対に譲れない部分なので、ここは大きな声で主張しておく。
「了解だ。それならまあ、そういう事にしておこう。お前らもいいな! 他言無用だぞ!」
「う〜〜っす!」
ガンスさんの言葉に、部屋にいたマッチョマン達が揃って返事をする。
「ありがとうございます!」
ギルドカード返してもらいながら、俺は笑顔でお礼を言っておいた。まあ、これで秘密は保たれたんだと思って良いんだよな?
「まあ、もしもその称号が何か聞かれたら、自分にもよく分からん称号が勝手に付いたんだ。って言っておけ」
笑ったガンスさんの言葉に、肉を収納していた俺は思わず振り返る。
「ええ、そんな事ってあるんですか?」
「たまにあるぞ。例えばあいつは、解体マスターって謎の称号を持ってる」
「俺も持ってるぞ」
笑ったマッチョ二人が、そう言いながらギルドカードを見せてくれた。
「うん。確かに裏面に解体マスターって書いてあるなあ」
「ある日突然その称号が書かれていたんだ。だけど、意味が分からん」
「確かになあ。そりゃあここで獲物をずっと解体していたのは事実だけど、俺達だけに出る理由が分からん」
「ついでに言うと、別に何か変わった自覚も無いよなあ」
うんうんとそう言いながら頷き合っているマッチョ二人を見て、俺は無言で右肩を横目で見た。
「ええ、せっかくの称号なのに〜〜」
なぜか悔しそうなシャムエル様の言葉に俺は首を傾げる。
「称号に効果ってあるの?」
「いや。別に無いけどさあ。何か欲しい?」
逆に聞かれてしまい、思わず考える。
「解体マスターなら、解体の腕が上がるとか?」
「いや、こいつらの解体の腕前は既に達人だよ。無駄な肉は一欠片たりとも残さないぞ」
俺の呟きが聞こえたらしいガンスさんに、横から突っ込まれて思わず吹き出す。
「あはは、確かにそうですよね。ああそうか。要はそういう事でしょう? 達人の域に達したから称号が手に入ったって事だ!」
「ああ、言われてみれば確かにそうだな。成る程、俺達の腕が創造神様に認められたと思っておけばいいな」
「ああ、その考えは良いな。じゃあそう思っておくか」
笑ったマッチョ二人の言葉に、シャムエル様は嬉しそうにうんうんと頷いている。
目の前にそのあなた達を認めた創造神様がいて、嬉しそうにあなた達を見ていますよ〜〜〜!
そう言いたくなるのをグッと堪えて、俺は机の上に積み上がっていた肉をありったけ全部収納した。
「よし、これで全部ですね。ありがとうございます。じゃあ、また後日残りをいただきに来ますね」
「おう、この時期に郊外へ狩りに行くのなら、天気の急変には気をつけてな。まあ、従魔達がいればお前さんなら大丈夫だろうがな」
笑ったガンスさんの言葉に俺も頷く。
「確かにそうですよね。気をつけます。それじゃあ、ありがとうございました。残りもよろしくお願いします!」
こっちに手を振るマッチョマン達にも声をかけてから、俺はガンスさんと一緒に受付へ戻ったのだった。
はあ、雪スライムの一件も、なんとかあれで誤魔化せたみたいだな。よし!