まさかの伝説のスライム登場?
「よし、ミルクが温まったぞ。じゃあ食べようか」
全員が手持ちのマイカップを取り出して並べてくれたので、こぼさないように気をつけながらカップに半分くらいまでミルクを入れていく。
「ここに濃いめに淹れたコーヒーを注げば完成っと。はいどうぞ」
順番にコーヒーもたっぷりと注いでやれば出来上がりだ。うん、もうこの人数の量の見積りもぴったりになった。我ながらちょっと満足。
空になった片手鍋と机に少しこぼれたミルクは、待ち構えていたスライム達があっという間に綺麗にしてくれる。
いつもの杯を手に、山盛りの料理の数々を見て目を輝かせるシャムエル様を見て小さく吹き出した俺は、手を伸ばしてシャムエル様を右肩に乗せてやる。
「他に欲しいものがあったら自己申告してくれよな。チキンカツはどれくらいいる?」
まずは自分用に、大きめのチキンカツを一枚と、いつもの鶏ハム入り野菜サンドとタマゴサンドを取る。
それからランドルさんが出してくれた辛そうなスパイスが振られた串焼きを一本取る。
「それ、一個だけもらえる?」
「おう、いいぞ。後は?」
「ねえ、その、紙みたいなので包んであるのは何?」
頬を叩かれて反対側を見ると、多分春巻きと思われる料理が山盛りになっていた。しかもその隣にあるのは、野菜がたっぷり入った生春巻きっぽい。おお、小さいけど海老が入ってる。
「へえ、春巻きと生春巻きだ。こんなのもあるんだ。じゃあ俺も貰おう」
「それ、半分ずつください!」
嬉々としたシャムエル様の言葉に頷き、揚げ春巻きと生春巻きを二切れずつもらう。どちらも俺が知っている春巻きと生春巻きよりもかなり大きくて、倍くらいは余裕であるよ。まあ、包む方も大きいみたいだから、たくさんの具を包みたくなる気持ちは分かる気がする。
お椀にコーンスープもたっぷりと入れてから席に戻った。
「ええと、今日は狩りに外へ来ています。昼食の色々盛り合わせです。少しですがどうぞ」
敷布を敷いた上に料理を並べ、マイカップとコーンスープの入ったお椀も並べて手を合わせた。
いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でてから順番に料理を撫でていき、最後にコーンスープの入ったお椀を嬉しそうに持ち上げて消えていった。
「いつもながら、手だけなのに嬉しそうにはしゃいでるのが分かるって面白いよなあ」
小さくそう呟いて笑った俺は、目を輝かせてお椀とお皿を手に待ち構えているシャムエル様に、まずは料理を取り分けてやった。
「ふっふ〜〜ん。コーンスープは、美味しいなあ」
ベタベタになった毛皮にも知らん顔で、お椀に上半身を突っ込んだシャムル様が、ご機嫌でコーンスープを爆食中だ。
「火傷するなよ」
笑った俺は、お椀からはみ出すみたいにして踏ん張っているシャムエル様の下半身を左手で捕まえてやりながら、右手で野菜サンドを食べている。
だって、放っておいたらお椀の中にそのまま頭からダイブしそうな勢いだったんだからさあ。さすがに止めたよ。溺れるって。
次は、コーンスープは平たいお皿に入れてやろう。それなら中に座っても尻と後ろ脚が汚れるくらいですみそうだもんな。
あ、でもそれだと尻尾も間違いなくぐちゃぐちゃになるから駄目かな?
そんな事をのんびりと考えていると、どうやらコーンスープに満足したらしいシャムエル様がお椀の中から出てきた。
「このコーンスープも最高だね。じゃあ次はこれ〜〜〜!」
前脚で顔の辺りと体を軽く撫でると、あっという間に綺麗になる体。浄化の術だって分かっていてもびっくりするよ。
もう大丈夫そうなので手を離し、俺も自分の分を食べるのに専念した。
新作の揚げ春巻きも、生春巻きも美味しかったよ。
生春巻きに入っていた小さな海老は、ハスフェルに聞いてみたところ川海老らしい。ってか、この辺りでは川海老しか無いんだって。
まあ、そうだよな。魚は売っているのをたまに見るけど、海老はこの世界に来てからごくたまに小さいのを見るくらいで、そもそも市場では一度もお目にかかった事が無い。
「エビフライ食べたいなあ。海沿いの街へ行けばあるのかなあ」
地図を思い出しながらそう呟き、生春巻きを口に放り込んだ。
「それで、さっき言ってた雪の好きなスライムの情報を早く!」
生春巻きを飲み込んだところで、俺はチキンカツを齧っているシャムエル様の尻尾をそっと突っついた。
「あはは、了解了解。ええとね、これもレアな子だから、見つけるのはちょっと大変かもね」
顔を上げたシャムエル様は、俺を見てニンマリと笑う。
「見つけるのが大変って事は……何処か見つけるのが難しい所にいるのか?」
俺も切ったチキンカツを食べながら少し考えてそう言ったが、笑ったシャムエル様は首を振る。
「ブッブ〜〜〜残念でした〜〜違いま〜〜〜す」
ドヤ顔でそう言われてちょっとムカっときたぞ。
「ええ、じゃあ何処にいるんだよ?」
すると、またしてもドヤ顔になるシャムエル様。
「雪スライムっていうんだけど、全部で十種類いるよ。特に何処にいるって場所は決まっていないね。ただ、出現率は決して高く無いんだけど、今日みたいな冬の良いお天気の日だと出現率が上がるんだよね。ちなみに春から秋の間は、そもそも出現しません。雪スライムが出てくるのは、文字通り冬の雪が降る期間だけだからね」
「へえ、そりゃあ確かにレアだなあ。よし、是非見つけてテイムしよう。それで、何処に行けば見つけられるんだ?」
「実を言うとこの近くにもいるよ。見える範囲に……ええと、一匹いるね」
ぐるっと周囲を見回したシャムエル様がまたしてもドヤ顔になる。
「ええ、テントの中にいても分かるのかよ。外は見えないだろうが」
思わず突っ込むと、シャムエル様は吹き出して大笑いしている。
「もちろん私には分かるよ。そうだねえ。だけど外に出たとしても多分、ケンやハスフェル達には見つけられないと思うなあ。あれは動く速さが桁違いだからね。猫科の従魔達やファルコなら、なんとか頑張れば見つかる……かな?」
「ええ、俺はともかく、ハスフェル達でも駄目?」
俺の呟きに、聞こえたらしいハスフェルとギイが驚いたようにこっちを振り返る。
「駄目だと思うよ。今の彼らは、あくまでも人としての範囲しか見えていないからねえ」
しみじみとそう言われて、俺は思わずハスフェル達を見る。
オーレを飲んでいた二人は無言で顔を見合わせて首を傾げる。
『おい、一体なんの話だ?』
『何が俺達でも無理なんだって?』
素知らぬ顔をしつつ念話で話しかけてくる二人。成る程、この手があったか。
って事で、ここからは念話のトークルーム解放状態。
シャムエル様が得意げに、彼らにもさっきの雪スライムの説明をしている。
『待ってください! まさかここにいるんですか! あの、伝説の雪スライムが!』
その時、いきなり会話に乱入してきたベリーの嬉々とした叫びに、不意を突かれた俺達は、飲んでいたオーレを吹き出しかけて揃って咽せる羽目に陥ったのだった。
何それ、雪スライムって……もしかして、まさかの伝説のスライム登場なのか?