昼食準備とスライムの新情報?
「ああ、もう最高だよ! 母さん! 本当にありがとうな!」
ようやくネージュの胸の下から解放されたカルン君は、興奮のあまり目をキラッキラに輝かせながらそう言ってネージュにしがみつくみたいにして抱きつきながら、もうずっと笑っている。
「へっへ〜ん。魔獣使いの有り難さを思い知ったか。感謝しろよ〜〜〜」
恩着せがましくそう言って笑うアーケル君の言葉に、リナさんは苦笑いしてアーケル君の頭を背後から遠慮なく引っ叩いていた。まあ、この辺りは家族ならではのじゃれあいって感じなので、俺達は知らんふり知らんふり。
しばらく、仲良くじゃれあって笑っているリナさん一家を見て和んでいたんだけど、さすがに寒くなってきたし、腹が減ってきたぞ。
「ええと、そろそろ昼飯の時間かな。どうする? ここで食べても大丈夫かなあ?」
後半は、ハスフェル達に向かってそう尋ねる。
「ああ、確かにちょっと腹が減ってきたなあ。いい時間だし先に飯にするか。ここなら安全だよ。午後からは、せっかくここまで出て来たんだから、少しくらいは狩りをしたいよな。さて、何がいるかな?」
顔を突き合わせて相談を始めたハスフェルとギイの隣に揺らぎが二つ駆け寄って行くのが見えたので、どうやらベリーとフランマも戻って来てくれたみたいだ。
「じゃあ、このままだと寒いし食事にするならテントを張るか。手伝ってくれるか」
サクラ以外の子達に鞄から出て来てもらい、手早くサクラが取り出してくれたいつもの大型テントをサクッと組み立てていく。
まあ、これはいつものごとく、俺はメインの柱の位置を決めただけで、後はスライム達が全部やってくれたんだけどな。相変わらず、うちのスライム達は働き者だねえ。
「そう言えばお前らって、この寒さは関係ないのか?」
何となくイメージとしては、この寒さだと水分たっぷりプルンプルンのスライム達は冷えて凍って固まってしまいそうだけど、全然そんな様子はない。
「これくらいの気温だったら全然大丈夫だよ〜〜!」
「平気で〜〜〜す!」
「へえ、そうなんだ。それならいいけど、何だか寒いところって苦手そうなイメージを勝手に持っていたよ」
取り出した机を広げながらそう言うと、何がおかしいのか笑ったスライム達は、コロコロと地面を転がっては楽しそうに跳ね回っていた。
「雪が大好きな子達もいるよ〜〜!」
机の上に現れたシャムエル様の言葉に、俺は驚いて振り返る。
「ええ、何それ。雪が好きな子って、スライムの事か?」
郊外で使う用の暖房器具である大きなだるまストーブを鞄から取り出していた俺は、それを置いて思わず振り返ってシャムエル様を覗き込みながらそう尋ねる。
「あ、しまった。言っちゃった!」
慌てたように口を押さえたシャムエル様は、チラッと俺を見てからくるっと背中を向けた。いつもの倍サイズくらいに膨れたもふもふ尻尾が、落ち着きなくパタンパタンと左右に忙しなく揺れている。
これは完全に動揺している時の尻尾だ。シャムエル様の尻尾は、嘘つけないんだよなあ。
「ん、ほら、素直に全部吐け」
笑った俺が、指で尻尾の先を突っついてやると、嫌がるみたいに尻尾が逃げるので追いかけてまた突っついてやる。
「ああもう! じゃあ、お昼にタマゴサンド三種盛りにあったかいコーンスープを要求します! それなら食事しながら教えてあげるよ!」
「三種盛りにコーンスープ、ホットオーレとチキンカツもつけよう」
「よし、商談成立!」
笑ったシャムエル様とちっこい手を叩き合い、シャムエル様専用に用意してあるタマゴサンド三種盛りのお皿をまずは出してやり、適当に色々作り置きを取り出して並べる。もちろんチキンカツもガッツリ取り出して並べておく。
ダルマストーブに火をつけてくれていたランドルさんが、それを見て自分の収納袋からまた色々と取り出して並べてくれた。
「じゃあ、リクエストのコーンスープな」
コーンスープの入った大きめの寸胴鍋を取り出し、普段使い用の鍋に人数分やや多めに入れて、取り出したコンロの上に載せて火にかけておく。
「誰かこれ、コーンスープだから焦げないようにかき混ぜてくれるか」
「はあい、俺がやります」
アーケル君が来てくれて、渡したおたまで鍋をかき混ぜ始める。
「ええと、スープ用のお椀と人数分のお皿と。追加の取り皿も多めに出しておくか」
俺が料理を取り出したのを見て、ランドルさんも色々買い置きを出してくれる。それを見たオリゴー君とカルン君達も、色んな串焼きと揚げ団子みたいなのを山盛りにしたお皿を取り出して並べてくれた。
いつも俺が買うメニューとはまた違うから、メニューに変化があって有り難いんだよな。
「おう、色々出してくれてありがとうな」
笑った俺の言葉に、振り返った三人が揃って笑顔でサムズアップするので、俺もサムズアップを返しておいたよ。
「おおい、そろそろ準備が出来るからこっちに来て座れよ。ええと、ホットオーレ飲む人、手を挙げて!」
まだ顔を寄せて話をしているハスフェル達にも声をかけ、ホットコーヒーの入ったピッチャーを取り出した俺はそれを机の上に置いてから、小鍋を取り出しながら大きな声でそう尋ねる。
「はい!」
綺麗に全員の手が上がったのを見て、小さく吹き出して小鍋を片付けて大きい方の片手鍋を取り出した。
これも人数分やや多めにミルクを入れて、もう一つ取り出したコンロでせっせと片手鍋をかき混ぜながらミルクを温め始めたのだった。
さて、午後からはどうなるんだろうねえ。
それにシャムエル様が言っていたスライムの新情報とは? ふふん、楽しみだなあっと。