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謎の気配

「ええと、何がいるのか……聞いたほうが良い?」

 正直言うと聞きたくないけど、この状況では聞かないほうが怖い。

 恐る恐る聞いた俺の質問にシャムエル様は答えず、ギイの肩に座ったままハスフェルを見た。

「ねえハスフェル。あれ、どうしたら良いかな? このままここで大人しくしててくれると思う?」

「どうだろうな? だが、あのままにしておくのは少々まずいと思うぞ」

「やっぱりそうだよね。ええと、どうしたら良いかな?」

「俺に聞くな。とにかく行ってみよう。知らなかったならいざ知らず、知った以上、放置は出来んだろうが」

 そう言ってギイとハスフェルは、平然と何処かへ行こうとした。当然のようにシリウスが付いていく。


「待った待った! なあ、俺にも分かるように説明してくれよ。今の会話の主語は何? 一体全体、この洞窟の、何処に、何がいるって言うんだよ?」

 咄嗟に叫んだ俺は、間違ってないよな?



 ……沈黙。



 振り返ったハスフェルとギイが困ったように顔を見合わせ、シャムエル様はギイの肩の上で明後日の方向を向いている。

「こら、知らん顔するな」

 ハスフェルが苦笑いしてシャムエル様の尻尾を突っつく。

「おう、ケンが喜ぶ気持ちがちょっと分かったぞ。これは良いな」

 そう言って、遠慮無くシャムエル様の尻尾を突き回した。

「こらこら。私の大事なところを突くのはやめなさい!」

 ハスフェルが空気に殴られてよろめいたよ。

 おお! さすがにハスフェルだ。彼だったら、いつも俺が吹っ飛んでる一撃でもあの程度なんだ。


「お前らなあ……気持ちは分かるが、俺の目の前で現実逃避するんじゃねえよ」

 呆れたようなギイの言葉に、ハスフェルが吹き出す。ギイの肩の上ではシャムエル様も笑っている。

 そして三人同時にため息を吐いたあと、嫌そうにハスフェルが答えてくれた。

「恐らく、洞窟の深部にいるのは何らかの幻獣だ。しかも相当上位のな。我々でさえも、気配しか掴めんという事は、姿隠しだけで無く、幻惑や同化と言った高度な術を使っている証拠でもある。万一危険な幻獣だった場合、その場で戦いになる可能性も否定出来ない」


 何それ怖い!

 ケンタウロスのベリーパターンで、何かいたから保護してよ! ってなるんだと思っていたのに!

 まさかの、危険な幻獣の可能性!


「ええと、俺とクーヘンは、完全に戦力外なので、一緒に行かないほうがよろしいのではないかと愚考しますが……」

 ビビりまくった結果、思いっきり下手に出て逃げようとしたが、それを聞いたハスフェルに鼻で笑われた。

「言っておくが、お前とクーヘンをここに残して俺達が全員いなくなれば、間違いなく奥にいる肉食の恐竜達が大喜びで駆け付けて来るぞ。おお! ここに美味しい獲物がいるぞ! ってな」

 うわあ、そうだった。ここは洞窟入り口からかなり中に入ってる場所だもんな。

 時間をかければ、自力での脱出も不可能じゃないだろうけど、狭い通路で単独で肉食恐竜とこんにちはするのだけは絶対に避けたい。

「ご主人、申し訳ないですが、同時に三頭以上の肉食恐竜が出た場合、私達だけではご主人とクーヘンを守りきれる自信は無いですね。ハスフェル様達と一緒に行かれるのが一番安全だと思いますよ」

 もうしわけなさそうにマックスにそう言われた。隣ではニニの耳がぺしゃんこになってる。

「だよな、やっぱりそうなるよな。分かったよ。俺達も付いて行けば良いんだろう」

 そう叫んで、順番にマックスとニニの首に抱きついた。

 って事で、気絶したままのクーヘンもこのまま道連れ決定!


「まあ、危険な幻獣じゃない事を祈ろう」

「うわあ、出たな神頼み。いや待て。お前ら自身が神様みたいなもんだろうが! 神様が誰に祈るってんだよ」

 俺の叫びにハスフェルが吹き出す。

「まあ、一応これでも創造主だからな。祈るなら……こいつか?」

 俺の肩に座るシャムエル様を指差して苦笑いしている。

「祈る相手の神様を指さすんじゃありません!」

 シャムエル様……何故にそこでドヤ顔? ってか、ハスフェル、何故に疑問形?

 思わずニニの首にもう一度縋り付く。ああ、やっぱりもふもふは癒されるなあ……。


「行くぞ」


 もふもふに埋もれて現実逃避していたら、真顔のハスフェルに背中を叩かれて一気に現実に引き戻された。

「うう、万一だけど、本当に幻獣との戦いになったりなんかしたら俺はどうしたら良いんだろう」

 思わずそう呟いたが、どう考えても良い解決策は思い付かなかった。

「逃げたところで、ここから自力で出られるかどうかも分からないしなあ。はあ、どうしてこんな事になってるんだよ。もう……」

 チョコの背中で完全に気絶したまま目を覚ます気配も無いクーヘンが、ちょっと羨ましかったよ。くすん。




 断頭台に連れて行かれるくらいの最低の気分で二人の後を付いて行く。

 二人は迷う事無くどんどん奥へ進んで行き、いくつかの広場を通り抜け、また現れた巨大な百枚皿の広場の奥に進む。そこにはどう見ても肉食恐竜のディノニクスがあちこちにいる。

 だけど、どういう訳か分からないんだけど、俺達が百枚皿の横を通っても知らんふりだった。

 まあ、いきなり襲われるよりは百倍良いんだけどな!


「しかしどんだけ広いんだよ、この洞窟は」

 もうかなり歩いた気がするが、後どれくらいなのか俺には全く分からない。

「なあ、ハスフェル、まだかかるのか?」

 俺が話し掛けると、振り返ったハスフェルは指を一本口元に立てた。慌てて口を噤む。

 そのままもう少し通路を進んだところで、ギイとハスフェルが立ち止まった。

 明かりに照らされた通路の先は、またしても空間が広がっている。


 今の俺達の布陣は、ハスフェルとギイを先頭に、シリウスとマックス、俺とニニ、巨大化したタロンと気絶したクーヘンを乗せたチョコ、そしてしんがりを務めてくれているのが巨大化したミニラプトル達だ。草食動物チームとスライム達は、ニニとチョコの背中に別れて乗っている。ファルコは俺の肩の上だ。


「どうやら目標がいる場所に到着したようだ。ちょっとここで待っててくれ。様子を見てくる」

 ハスフェルがそう言い、ランタンを手に通路の先にある広場へ入って行った。

「大丈夫なのか?」

 心配で、少し前へ出てギイの横から広場を覗く。


 ハスフェルの持つつよいランプの光が照らすその広場は、ドーム球場ほどもある広い空間だった。

 洞窟の入り口付近にあった鍾乳石や石筍とは桁違いの大きさのそれらが、まるで高層ビル群のように広場いっぱいに乱立している。

「うわあ、あれは何か隠れていても絶対分からないよな」

「確かに、しかしハスフェルが入って行ったという事は、すぐに危険は無いと彼が判断したのだろうが……」

 俺達が固唾を飲んで見守る中、ハスフェルはランプの明かりを少し小さくして戻ってきた。

「駄目だ、どうにもよく分からん。ベリー、あなたなら判るのでは?」

 ハスフェルの言葉に、いつの間にかシリウスの横にいたベリーが、申し訳なさそうに首を振った。

「少なくとも敵意は感じませんね。僅かに火の気配を感じますが、危険は無いと思います。恐らく向こうも怯えているのでしょう。貴方のその剥き出しの気配は、ただの幻獣には強過ぎます」

「万一を考えて、わざと気配を隠さずに来たんだが、どうやら逆効果だったようだな。さて、どうするかな?」

「あ、それなら……」

 悩むハスフェルにギイが何か言いかけ、顔を見合わせた二人は同時にニンマリと笑って、揃ってこっちを振り返った。

「ここにいるよな。一般人が」

「だな、俺もお前と変わらない気配だから、ここはただの人に出てもらうべきだな」

 聞こえる会話に不安しかないぞ! おい!

「それならケンには、一時的に第三段階まで視力と聴力を解放してあげるよ。それなら恐らく見つけられるでしょう」

「ああ、それは良い考えだ、頼むよ」

「分かった。じゃあケン、ちょっと目を閉じて……」

「ちょっと待った! お前ら、何を勝手に決めてるんだよ。俺に何をさせる気だ?」

「何って、お前に問題の幻獣のいる場所を探してもらうんだよ。見つけさえすれば、あとは我々に任せてくれればいい」

 二人の隣では、ベリーまでもが一緒になって頷いている。


 簡単に恐ろしい事を言われて、俺は本気で気が遠くなったよ。

 一体何事ですか? それともこれは、新たな苛めなのか?

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