まずはアーケル君のテイム!
「よし、じゃあやるぞ! だけど名前は自分で考えてくれよな!」
雄々しく宣言したアーケル君は、最後だけ苦笑いしながらオリゴー君とカルン君を振り返ってそう言い、ティグとヤミーが押さえつけている二匹のシンリンオオカミに近づいて行った。
「じゃあ、順番にやるか。それとも、一匹は母さんがテイムしてくれるか?」
目の前のシンリンオオカミを見たアーケル君は、若干困ったように振り返ってリナさんを見た。
「なんだい、今のお前なら、これくらい容易いだろうに」
呆れたみたいに笑うリナさんを見て、アーケル君が口を尖らせる。
「いや、せっかくだから母さんがテイムする格好良いところを、兄さん達に見せてやろうかと思ったのになあ。いいよ、それなら二匹まとめて俺がテイム……」
「わかった! 一匹は私がテイムしてあげよう」
ものすごく残念そうなアーケル君の言葉を聞いて、皆まで言わせずにリナさんが進み出る。
横で聞いていた俺達は、揃って吹き出したよ。
うん、今のはアーケル君の作戦勝ちだな。なかなかの策士だねえ。
それを見ていたティグとヤミーは、噛み付いて押さえ込んでいたシンリンオオカミを軽々と引きずって離れて充分な距離を取った。
「よし、じゃあ俺が術を発動したらすぐに逃げてくれよな」
シンリンオオカミの前で立ち止まったアーケル君は、ティグに向かってそう言うと、宝石の付いた短剣を掲げた。
「押さえろ!」
大声でそう叫んだアーケル君の声と同時に、慌てたようにティグが噛み付いていた口を離してすっ飛んで逃げる。
しかし、地面に押さえつけられるみたいに這いつくばったシンリンオオカミは、逃げるどころかピクリとも動けない状態にあった。
そう、以前リンクスをテイムした時にやった過剰重力の技だ。相変わらずヤバすぎる技だよ。
「クキュ〜〜〜ン」
しばらくそのままの状態で見つめあっていたが、シンリンオオカミがまるで降参しますとでも言わんばかりに可愛らしい声で鳴いた。
「俺の仲間になるか?」
構えを解いた真剣なアーケル君の言葉に、ゆっくりと体を起こしたシンリンオオカミは前脚を揃えて良い子座りになる。
「はい、あなたに従います」
一瞬光った後にそう答える。おお、この子はどうやら雌みたいだ。
「紋章はどこに付ける?」
優しい声で、右手の手袋を外しながらそう尋ねるアーケル君。しかし、胸を張ったシンリンオオカミが答える前に、慌てたようにオリゴー君達を振り返った。
「で、名前は? 考えて無いなんて言うなよ!」
「ホ、ホワイティで……」
「あ、それクーヘンが使ってるぞ」
オリゴー君の言葉に、思わずそう呟いてしまう。確かあの貴族の子供が飼っていた白いウサギもホワイティだったから、この世界では白色のペットの定番の名前なのかもな。
「じゃ、じゃあ……パールでお願いします!」
「うああ、言われちゃった!」
オリゴー君が、しばし考えた後にそう叫ぶと、カルン君が悔しそうにそう叫ぶ。さすがは双子。考える事まで同じだったよ。
「よし、じゃあお前の名前はパールだよ。お前は、俺の兄貴のところへ行くんだ。可愛がってもらえよ」
笑ったアーケル君が、そう言って胸の部分に右手を当てながらそう話しかける。
またピカッと光った後には、胸元にアーケル君の紋章が刻まれていた。
「よろしくな。オリゴーだよ。俺を乗せてくれるか?」
進み出てきたオリゴー君が、そう話しかけながらそっと手を伸ばす。
「はい、よろしくお願いします。新しいご主人」
甘えるような声でそう言ったパールは、オリゴー君を見てどんどん小さくなった。いつものテンペストやファインと同じくらいの大きさで止まる。
「ご主人なら、これくらいの大きさで大丈夫でしょうかね?」
笑ったオリゴー君が手を伸ばして軽々と背中に跨る。
「うん、いい感じだ。じゃあ普段はこれくらいでよろしくな。街へ戻ったら、鞍と手綱を作ってもらうよ」
「はい、それまで落っこちないでくださいね」
「あはは、気をつけるよ。ありがとうな、アーケル。お前最高に格好良かったぞ」
笑って甘えてくるパールを抱きしめて大感激しているオリゴー君とその言葉に、ドヤ顔になるアーケル君だった。