雪原とベリー達の働き
「うひゃあ〜〜〜! 何も見えないぞ〜〜〜!」
お城を出て新雪が降り積もる中を巨大化したセーブル達を先頭にラッセルしながら走り抜け、貴族達の別荘地を通り抜けて街の外れにある貴族専用の城門から外に出る。
まあ、俺達が貴族ではないのは分かっているんだけど、ギルドマスター達から、外へ出る時にはこっちの門を通る許可はもらっている。なので遠慮なく通らせてもらうよ。
一応、城門を出た先にある街道は、それなりに雪かきをしてくれてあるので案外人通りもある。
怖がらせないように街道の端っこを一列になってゆっくりと進んでいるんだけど、まあ当然のように大注目。
中には、早駆け祭りの英雄達を見たって嬉々として話している人達が割と大勢いて、俺はちょっと虚無の目になったよ。
「ううん、平穏無事な異世界生活は遠いなあ……」
苦笑いしながら小さくそう呟くと、こいつ何言ってるんだ? と言わんばかりの目でマックスの頭に座ったシャムエル様に見られてしまい、俺はもう乾いた笑いをこぼすしかなかった。
「このまま大注目を浴びるのはあまり気が進まんな。せっかくだからもう少ししたら平原地帯に出るから、街道から離れよう」
ややうんざりした口調のハスフェルの言葉に、皆も苦笑いしつつ頷いている。
そうだよな。俺だけじゃあなくて全員が大注目状態だもんなあ……。
一つため息を吐いてから背筋を伸ばす。まあ、これだけ注目を浴びている以上、あまりみっともない真似は出来ないものな。
って事で、全員何だか不自然にギクシャクしながら街道を進み、ハスフェルが合図をくれたところで一気に街道から外れて走り出した時には、俺達も思わず歓声を上げたよ。
まあ、一気に雪を蹴散らして走り去る俺達を見て、街道にいた人達は大歓声と同じくらいにどよめいていたけどね。
そのまま雪を蹴散らして道なき道を走り続け、ようやく止まったその場所は、確かに雪がわずかしかない平原だった。
なんとなく小高い丘みたいになっていて、山の反対側にある谷には、ものすごい量の雪が吹き寄せられて積み上がっていた。
「へえ、確かにこの辺りには雪が少ないなあ」
マックスの背中に乗ったままで、周囲を見回す。
『では、この辺りを見てきますね。何か良さそうなのがいたらお教えします』
『任せてね!』
念話で、何やら張り切ったベリーとフランマの声が届く。
『おう、よろしく頼むよ。だけどリナさん達が驚くだろうから、出来れば従魔達を一緒に連れて行ってくれるか。何か見つけたら、従魔達が見つけた事にして捕まえれば良いだろう?』
『ああ、確かにそうですね。ではどの子に一緒に行ってもらいましょうかね?』
すると、ふわりと揺らぎが見えたところに、狼コンビとティグとヤミーが一緒に走って行った。
それを見て、ランドルさんの従魔のサーベルタイガーのクグロフと、グリーングラスランドウルフの亜種のマフィンも一緒に走って行った。
「従魔達が探してくれるそうですから、ここで待ちましょう」
何事かと驚いて従魔達を見送っているリナさん一家とランドルさんに説明してやる。
「ああ、成る程。確かに、闇雲に私達が走り回って探すよりも、ずっと効率はいいでしょうからね」
ちなみにここまで狼コンビに乗っていたオリゴー君とカルン君は、今はアーケル君とアルデアさんの後ろにそれぞれ乗せてもらっている。
まあ、小柄な草原エルフが二人乗っても、多分ハスフェル達より軽いと思うぞ。
「ちなみに、従魔の希望ってあるのか?」
なんとなく手持ち無沙汰な俺は、マックスをゆっくりと歩かせてアーケル君達の近くへ行きそう尋ねてみる。
「以前仰っていたように、オンハルトさんが乗っていたエルクがいれば嬉しいんですけれどね」
「ああ、確かにエルクは格好が良い。あとはこの辺りに出るジェムモンスターならシンリンオオカミかな。今の時期なら、そりゃあ真っ白でとても綺麗ですよ」
顔を見合わせたオリゴー君とカルン君が少し考えてからそう答える。
「へえ、真っ白なシンリンオオカミかあ。それはちょっと欲しいかも」
狼コンビのテンペストとファインは、オーロラ種特有の毛先が虹色に輝いていて、それはそれは綺麗だ。毛色としては、全体にグレーに黒とシルバーが混じっているまだら模様みたいな感じだ。
そこに真っ白なシンリンオオカミが加わるなんて……頭の中で想像した俺は、にんまりと笑って小さく頷いた。
「よし、まずは先に二人に従魔をテイムしてもらって、余裕がありそうなら俺もテイムさせてもらおう。せっかくだから真っ白なシンリンオオカミ、欲しい!」
『そうなんですね。了解です。かなり大きな群れがいますので、よさそうなのを見繕ってケンの分もお届けしますね。彼らはエルクの方がいいでしょうかね? 一通り見たんですが、この辺りにはエルクはいないようですね。もう少し山側を探せばいるかもしれませんが』
いきなり頭の中に聞こえたベリーからの念話の声に、驚いてもうちょっとでマックスの背中から転がり落ちるところだったよ。
「おいおい、大丈夫か?」
ベリーの声は聞こえていただろうに、何事もなかったかのように笑ってこっちを見るハスフェルに、俺は苦笑いして誤魔化したのだった。
『シンリンオオカミでお願いします! でも無理はしないでくれよな』
念話でそう答えると、笑ったベリーの声が聞こえてから気配が途切れた。
その直後に、かなり遠いみたいだけど突然狼の悲鳴のような鳴き声が複数聞こえた。
なんとなくのんびりしたムードだった俺達の間に、一気に緊張が走る。
「これはシンリンオオカミだな。それでいいか?」
にんまりと笑ったハスフェルの言葉に、オリゴー君とカルン君が揃ってサムズアップを返す。
明らかに複数で戦っていると思しき鳴き声がだんだんと近づいて来て、息を飲んだ俺達は平原の奥にある森を無言で見つめていたのだった。