狩りに出発だ!
『おおい、もう起きてるか?』
ちょうどその時、念話でハスフェルから声が届いた。
『おう、おはよう。もう準備出来てるよ。天気も良さそうだし、じゃあ何か食ったらもう出発かな?』
『そうだな。しばらく天気は良さそうだからな』
笑ったハスフェルの言葉に笑顔で頷く。
『了解。じゃあ、まずはリビング集合だな』
『ああ、じゃあ皆にも声を掛けていくよ』
ハスフェルの返事が聞こえて気配が途切れる。
「じゃあ、一緒に行く子達はこっちに集合〜〜〜!」
俺の声に、一緒に行く子達が一斉に飛びついてくる。
「どわあ、やられた〜〜〜!」
わざとらしい悲鳴をあげてひっくり返った俺は、受け止めてくれたセーブルに抱きついて笑い転げていたのだった。
「おはようございます。良いお天気になりましたね」
ちょうど廊下へ出たところで、リナさん達と一緒になった。当然全員が従魔を引き連れているから、小さくなっている子達もいるとはいえ相当な数だ。改めて見るとリナさんの従魔もかなり凄いよなあ。
並んで歩きながらそんな事を考えていると、リナさんのリンクスのルルちゃんが、リナさんの後頭部に何度も頭を擦り付けている。笑って振り返ったリナさんが、手を伸ばしてルルちゃんに抱きつくのを、俺は笑って眺めていた。
ううん、リナさんとルルちゃんもラブラブだよ。最近ニニと一緒に出掛けていないから、ちょっと羨ましいぞ!
「郊外へ出るのは久しぶりですね。私も楽しみです」
ルルちゃんの頭を撫でながら嬉しそうなリナさんの言葉に、俺も笑顔で頷く。
「そうですね。確かに久しぶりだ。俺も新しい装備を試せるのかと思うと、かなり楽しみですよ」
笑った俺の言葉に、リナさんだけでなくアーケル君達まで一緒になって拍手をしてくれた。
「ケンさん。ヘラクレスオオカブトの剣は、そりゃあもう気持ち良いくらいに斬れますよ。スパって感じで。俺、初めてジェムモンスターと戦って斬った時、絶対空振りしたと思ったもんなあ」
その時を思い出したのだろう、吹き出したアーケル君の言葉に、ギイまでが笑っている。
「確かに空振りしたのかと思うくらいに易々と斬れるんだよなあ。まあ楽しみにしていろ。あの剣なら、恐竜相手でも絶対に大丈夫だろうさ」
「そりゃあ頼もしいな。だけどヘラクレスオオカブトの剣以外にも色々作ってもらったから、出来れば一通りの使い心地は試しておきたいなあ。あ、片手剣や盾の扱いにも慣れておかないとな」
一応、槍はある程度は扱えるけど、片手剣と丸盾のセットは使った事が無い。
そう呟くと、右肩にいたシャムエル様が何故かドヤ顔になる。
「大丈夫だよ。ケンには一通りの武器や防具の扱いが出来るように基礎知識を与えてあるからね。だけどまあ、実際に使ってみての、合う合わないはあるだろうから、そこはもう好きにしてください」
その言葉に、この世界に初めて来て剣を持った時の事を思い出していた。
確かに、剣なんて持った事もなかったけど、俺の体は扱い方を知っていたもんな。
まあ、扱えるからと言ってその武器を使いこなせるかどうかはまた別問題だ。俺の剣だって槍だって、ハスフェルにいろいろ教えてもらって実戦で何度も使って、それで何とか様になってきたんだもんな。
「そっか、じゃあ頑張って色々使ってみるよ。それで分からなかったらハスフェル達に教えてもらう事にしよう」
例えば、ジェムモンスターと対峙する時の立ち位置だったり、切り付けるタイミングなんかは実際に使ってみないと分からない事も多い。
今ならハスフェル達だけじゃあなくてアーケル君達やランドルさんだって歴戦の冒険者なんだから、きっと俺なんかよりも遥かに実戦慣れしているだろう。そんな彼らの戦い方を見る良い機会だと思えばいいな。それで参考になるところがあれば参考にさせていただこう。
そう納得した俺は、小さく笑ってシャムエル様のもふもふなお腹を横からそっと突っついてやった。
「おはようございます」
リビングには、同じく従魔達を引き連れたランドルさんが一番乗りしていた。
「おはようございます、お待たせしちゃって申し訳ない」
「いやいや、俺も今来たところですよ」
笑ったランドルさんが、そう言いながら収納袋から色々と取り出してくれるのを見て、俺も慌てていつものメニューを取り出して並べた。
まあ、今日は狩りに行くんだから、しっかり食っておかないとな。
って事で、それぞれにしっかりと食べて、少し休憩した俺達はいそいそと外へ出ていった。
まあ当然だけど、全員着膨れてモコモコになっているよ。
お城の庭は一面の銀世界で、今日も見事なくらいに全部埋まっている。
「一晩でどれだけ降ったんだよ。いやあお見事って感じだな」
苦笑いした俺の呟きにハスフェル達も笑っている。
「今日行く予定の郊外は、山からの風が夜の間に吹きおろしてくるところで、雪がほとんど積もらないんだよ。日中はそれほど風もないから、狩りの際の足場の心配はいらないぞ」
風が強いと聞いてちょっとビビったんだけど、どうやら夜に強い風が吹く地域みたいだ。
「確かに雪国でも、風が強すぎて雪が積もらない地域とかもあったもんな。へえ、それなら安心だな」
なんとなく納得しながらそう呟き、巨大化したセーブルを見上げる。
「それじゃあまたよろしくな。今日は郊外まで行くんだから強行軍だぞ。頼りにしてるからな」
「はい、お任せください!」
セーブルだけでなく、そう答えた他の従魔達も一気に巨大化する。
「よし、じゃあ狩りに出発だ!」
俺の掛け声に全員がそれぞれの従魔に飛び乗る。
そしていつものように、巨大化したセーブルとティグとヤミーを先頭にしてラッセル陣形になった俺達は、歓声を上げて飛び出して行き、真っ白な庭を新雪を撒き散らかしながら思いっきり駆け出して行ったのだった。