ただいま〜〜!
「ありがとうございます。それじゃあ、三日後に引き取りに来ますね」
借りた会議室の部屋の鍵を受付に返すと、解体担当の人からの伝言で預けた岩豚などの解体作業は三日でやってくれると聞いたので、お礼を言って冒険者ギルドを後にマックス達の待つ厩舎へ向かう。
「マックス〜〜! お待たせ。じゃあ、雪も降って来た事だしさっさと帰ろう」
戻ってきた俺達を見て、ご機嫌で飛び跳ねて尻尾を扇風機にしている。
「分かったから落ち着け。ほら、鞍を付けるからじっとして。ステイ!」
マックスの首元に抱きつくみたいにして捕まえて、何度も頭や首元を撫でてやりながら少し大きな声でそう言ってやる。
即座に我に返って良い子座りになるマックスをもう一度抱きしめてから、取り出した鞍と手綱を手早く取り付けていく。
厩舎で留守番している時は、窮屈だろうから首輪以外は取り外しているんだよ。
「よし、準備完了だ。じゃあ行こう」
皆、それぞれの従魔達に飛び乗ったのを見て、スタッフさんにお礼を言ってからゆっくりとギルド横の通路を通って表道へ出る。
ちなみに厩舎に従魔を預ける時には、ギルドの受付で申し込みや預かり金の支払いはするんだけど、実際に引き受けてくれるのは当然だけど厩舎担当のスタッフさんだ。
まあ、ここの厩舎はホテルの厩舎なんかとは違って特に世話なんかはしてはくれないけど、一応飲んでもいい新鮮な水は常に用意してくれてあるし干し草もちゃんと敷いてくれてあるので、マックス達に聞いてみたところ案外居心地はいいみたいだ。
預けている子達の引き取りの時には、ギルドカードの掲示が必須なので間違える心配も無い。まあ俺達の従魔は誰が見ても分かるから、間違いようが無いだろうけどね。
「うわあ、かなり降ってきたな。大丈夫かな?」
空を見上げて思わずそう呟く。さっきまでは小雪がちらつく程度だったが、今はそれなりにしっかり降ってきている。
「まあ、まだ風がないだけマシだな。とりあえず早く帰ろう」
俺の言葉に全員が頷き、一列になってゆっくりと一気に人が少なくなった道の端を進んで行った。
貴族達の別荘街に入ったところで加速して、アッカー城壁までかなりのスピードで進む。まあ、この時間だとこの辺りはほぼ人通りはないからな。
そして、アッカー城壁に到着したところで、巨大化したセーブルとティグとヤミーの三頭を先頭にしてマックスとシリウスがその後ろにつき、いつもの三角形のラッセル突撃体制になる。
「よし、城までよろしくな」
「はい! お任せください! こんな新雪、我らにかかれば簡単に蹴散らせますよ」
得意げなセーブルの声に、ティグとヤミーも揃って胸を張っている。
今朝来た時の道が僅かに残るくらいにまで雪が積もっているので、もしかしたら夕食中にも雪が降っていたのかもしれない。
嬉々として新雪をラッセルしながら進む先頭のセーブル達のおかげで進むのは楽なんけど、もう後続の俺達の視界は完全に白一色になってるよ。何も見えません。
寒いし前は見えないしで、もう進むのはマックスにお任せした俺は、体を倒してマックスの温かい体にしがみつくみたいにして飛び散る雪をやり過ごしていた。
城までの道が遠い。うう、寒いよお……。
「はあ、暖か〜〜い!」
ようやくお城へ到着した俺達は、大急ぎで雪まみれの体と従魔達の体をスライム達に綺麗にしてもらって玄関に駆け込んで行った。
そのまま全員がつけっぱなしにしてあった暖房器具の前に群がる。
「はあ、生き返るよ」
「寒いのも慣れたと思っていたけど、やっぱり暖かいほうがいいですよねえ」
アーケル君の言葉に、ランドルさんもそう言って頷いている。
「じゃあ、もう今日は解散でいいかな。ええと、明日はどうしますか? 一応三日後に岩豚の肉を引き取りに行かないといけないんですよ」
俺の言葉に、アーケル君達が顔を見合わせている。
一応、彼らの騎獣になりそうな従魔を探すのが第一目的だからな。
「出来れば早い方が有り難いんですが、かなり雪が降っていますから行くかどうかは天候次第でしょうかね」
「さすがに吹雪の中を郊外へ出掛けるのは自殺行為でしょうし」
オリゴー君とカルン君の言葉に、ハスフェル達やリナさん達も頷いている。
「確かにそうだな。じゃあ明日の予定は朝の天候を見て決めよう。まあその辺りの判断は、一番経験豊富そうなハスフェル達に任せるのがいいんじゃあないか?」
チラッと横目で見ながらそう言うと、ハスフェルとギイは苦笑いしつつ頷いてくれた。
彼らは神様特権なのか、それとも経験値のなせる技なのかは不明だけど、ある程度は天候も読めるみたいだから、時にこの時期の天候激変は怖いので分かる人にお任せしよう!
って事で、もうこのまま解散にしてそれぞれの部屋に戻る。
「ニニ〜〜ただいま〜〜!」
部屋に戻ると、小屋から顔を出したニニが声の無いニャーで出迎えてくれてそのまま飛び出して来る
「おかえりなさい、ご主人!」
「おう、ただいま。って待て待て! 巨大化するんじゃないよ!」
お帰りなさいの声の直後に、何故か一斉に巨大化して飛びついてきた留守番組に押し倒されてしまい、そのままもふもふの海に沈む俺。
「ああ、なにこの幸せ空間……」
猫族軍団の鳴らすものすごい喉の音の合唱を聴きながら、なんとか上半身だけ起き上がった俺は順番に従魔達をおにぎりにしてやったよ。
「ご主人の手、冷た〜〜い」
ニニがご機嫌でそう言いながら俺のお腹に頭突きをしてくる。
「外は寒いぞ。ほら氷みたいだ〜〜!」
笑ってニニの頬毛を引っ張ってやり大きな顔に抱きつく。
「ニニだけずるい〜〜!」
「私達も〜〜〜!」
その声とともに、こちらも巨大化したラパンとコニーが突撃してくる。
「うわあ、やられた〜〜〜!」
またしても押し倒された俺は、笑ってそう言いながらももふもふの海に沈んでいった。
ううん、巨大化した猫族軍団と草食チームのもふもふっぷりは最高だね!