大興奮の彼女達!
「ふおお〜〜〜どれも見事なダンスばかりだねえ。これは、真似をするのが、大変だね、っと!」
フィナーレの全員参加の大掛かりな歌とダンスが終わり、最後に一人ずつ進み出て見事なダンスを披露していく。
それを見たシャムエル様はもう大興奮状態で、次から次へとダンスを完コピしてずっと踊り続けている。俺的には、こっちの方が見応えがあるくらいだ。
最後にヴェナートさんが見事なダンスからの空中三回転を披露して拍手喝采を浴びていた。ううん、あれは絶対に俺には出来ないよ。
フクシアさんとファータさんは、もう後半は大興奮状態で立ち上がって拍手してる。まあ、楽しんでもらえたみたいで良かったよ。
そしてようやく静かになって舞台に幕が降り、場内が明るくなる。
最後のデザートを乗せたワゴンを押したドワーフのスタッフさん達が次々に出てきて、それぞれの前に並べてくれる。
今回は、コーヒーと、たっぷりの生クリームでデコレーションされた四角くカットされたケーキで、上に飾られた真っ赤なイチゴと緑色の葡萄、それからカットされたオレンジが鮮やかなショートケーキっぽい一品だ。
しかも大きさがおかしい。どう見ても俺の知っているショートケーキの五倍くらいは余裕である。
目の前にどどんと置かれたそれを、俺は無言で見つめてから黙って手を合わせてシルヴァ達にお供えした。それからイチゴを一粒だけ自分用に摘んで、残りをお皿ごとシャムエル様の前へ差し出したよ。
「ええ、全部もらっていいの?」
目を輝かせるシャムエル様に俺は苦笑いしながら頷き、一粒だけ確保していたイチゴを口に放り込んだ。
「いいの! じゃあ遠慮なく、いっただっきま〜〜〜〜〜す!」
いつものように宣言したシャムエル様は、頭から生クリームの山に突っ込んでいったよ。あれだけ食って、まだこのケーキを……うん、皆食ってる。相変わらず、食う量がおかしいって。
生クリームまみれになりながらもケーキを嬉々として食べるシャムエル様の、いつもの三倍サイズに膨れた尻尾をこっそりともふりつつ、ブラックのコーヒーを味わって飲んでいると役者さん達が大歓声に迎えられて出てきた。そして各テーブルを回って挨拶を始めた。
前回は俺達のテーブルに来てくれたのはケン役のヴェナートさんだけだったけど、今回は、何故か次から次へと役者さん達が全員俺達のテーブルに来てくれる。
おかげで、俺は密かにお気に入りだったマックス役のむくむくさんとニニ役のもふもふさんと握手する事が出来たよ。
ちなみに俺が笑顔で握手を交わしている間に、一瞬で身体中ベタベタになっていた生クリームを綺麗にしたシャムエル様も、来てくれる役者さんに大はしゃぎでキスしたり撫でたりくっついて頬擦りしたりしていた。
まあ気持ちは分かる。あれだけ見事なダンスを見せてくれた人が目の前まで来てくれた訳だから、シャムエル様的には大興奮案件なんだろう。
そしてシャムエル様以上に大興奮状態だったのが、フクシアさんとファータさん。
うん、ここで彼女達が俺の両横に座った意味を理解したよ。
何しろ、出てきてくれた役者さん達全てが俺の元へ来てくれる訳で、そうなると成り行き上両隣に座っている彼女達とも言葉を交わして握手する流れになる。
そっか、そういう意味か!
嬉々として役者さん達と話をして握手してもらっている彼女達を見て、もう乾いた笑いしか出ない俺だったよ。
そして、彼女達の大本命の登場〜〜〜!
要するに、俺の役をしてくれたヴェナートさんだ。
「いやあ、早駆け祭りの英雄殿とまたお会い出来ましたね。こんなに早く観に来て頂けるとは、とても嬉しいです。舞台はいかがでしたか?」
キラッキラの笑顔で右手を差し出しながらそう言われて、握り返した俺はもう笑いを堪えるのに必死だったよ。
何しろ、両隣のフクシアさんとファータさんが、もう絶対にアプリで加工しただろう! って突っ込みたくなるくらいに目をキラキラにさせて、背景には確実にハートマークが飛んでいるのが冗談抜きで目に見えるくらいに身を乗り出して両手を胸元で握りしめてヴェナートさんを見つめている。
「あはは、いやあお見事でした。歌もダンスも素晴らしかったですよ。最高でしたね」
俺の言葉にヴェナートさんがそれはそれは良い笑顔で何度も頷いてくれる。
それから、少し驚いたみたいに両隣に座るフクシアさんとファータさんを見た。
「おやおや、これは美しいお嬢様方とご一緒で羨ましいですねえ」
これまた良い笑顔でそう言われて、俺はもう我慢出来ずに小さく吹き出したよ。
「いやあ、実はこちらのお二人がヴェナートさんの大ファンなんだそうで、最初の販売でチケットを一枚も確保出来なかったらしいんですよ。それを聞いちゃったら知らん顔は出来ないでしょう? それで、いただいたチケットで彼女達も招待したんです。ええと、こちらは観光案内所に勤めているファータさんと、ヴォルカン工房の職人さんでフクシアさんです」
絶対ここは紹介してやるべきだよな。一応それくらいは気が付いていたので、さりげなく順番に紹介してあげる。
笑顔で差し出された手を順番に握る二人の目は、もう完全にハートマークになってるよ。本当にファンなんだなあ。
「ヴォルカン工房? もしやあのリフトの装置を作ってくださった?」
しかし、俺の紹介を聞いて驚いてそう言ったヴェナートさんの言葉に、フクシアさんがこれ以上ないくらいの良い笑顔になる。
「はい、あの装置は私が中心で作らせていただきました。舞台で無事に動いているところを拝見出来て、感動しました!」
目を輝かせるフクシアさんの言葉に、ヴェナートさんが目を見開く。
「では、貴女がヴォルカン工房が誇る発明王?」
「あはは、まあ……世間ではそんな大層な名前で呼ばれているみたいですねえ」
「おお、そうだったんですね。まさかこんな美しいお嬢さんだったとは。バイゼンが誇る発明王にお会い出来て光栄です。どうぞこれからもますますのご活躍を」
ずっと握ったままだった手を、改めて笑顔で頷き合いながらぶんぶんと上下させる二人。
「あ、あの、ヴェナート様もどうかこれからもますますのご活躍を。一ファンとして応援します! また今度は自力でチケットを確保して舞台を観に来ます!」
名残惜しげに手を離したフクシアさんの言葉に、ヴェナートさんは嬉しそうに笑って優雅に一礼した。
「ありがとうございます。それでは、またお目にかかれるのを楽しみにしていますね」
そう言って、笑顔で投げキスをしてから隣のテーブルへゆっくりと歩いて行った。
フクシアさんはもう、顔を真っ赤にして呼吸困難になっている。
苦笑いした俺は、感動のあまり放心状態な両隣のお二人を見ない振りをして、少し冷めてしまった残りのコーヒーを飲み干したのだった。