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舞台の後半とシャムエル様のダンス

 のんびりとフクシアさんとそんな話をして和んでいると、舞台の上ではもう三周戦当日になってる。

 だけど、その前にモブの街の人達に紛れて、これまた何だか悪人面の人が何かを手にしてにんまりと笑っている。

「ふふふ、この矢笛をレース中のあの魔獣達に向かって吹けば、耳のいい魔獣は間違いなく嫌がって飛び跳ねるだろう。そうすれば、あの魔獣使いは背中から落っこちて一巻の終わりさ。ザマアミロ」

 そう呟き、矢笛を手にした男は人ごみの中へ紛れ込んでいった。

 まさかのこんなところまで、現実の事件と同じ。これ、ギルマスがチクってるの確定だろ。

 今度ハンプールへ行ったら、絶対問い詰めてやる。なんで俺だけ実名なんだって!

 などと頭の中で考えていると、また場面が変わっていよいよレースが始まる。

 前回よりも、さらに大掛かりになったレースを再現した激しいダンスと歌。

 そして、舞台の両脇で大喜びで拍手喝采しているモブの街の人達。

 そんな中、あの男がこっそりと矢笛を口にする。

 今まさにレースは加速した俺達が集団から抜け出した所だ。あっという間に、二番手集団とは距離が離れていく。

「ここで〜〜一気に加速する〜〜〜魔獣使い達〜〜〜〜さあ〜〜〜トップは〜〜〜だ〜〜れ〜〜だ〜〜〜!」

 アナウンス役の、やたら声のいい俳優さんが、見事な節回しで歌いながら中継している。

 そして悪役がわざとらしいオーバーアクションで矢笛を口にした瞬間、両隣にいた人が手にしていたスープをぶっかけたのだ。と言ってもスープ色の布を引き裂いた束で、舞台が汚れるようなことはなかったけどね。

「ええ、何咥えてるのよ〜〜〜!」

「そいつを捕まえろ〜〜!」

 ここだけは何故か歌じゃあなくて、ものすごく大きな声。

 そして一斉に犯人に飛びかかる街の人達。その結果、悪役は折り重なった街の人達に取り押さえられてノックアウトしたみたいだ。

「レース妨害の現行犯を逮捕〜〜〜!」

 スープまみれになって倒れたところを確保された悪役を、即座に出てきた衛兵役の人が今度は歌いながら縄でぐるぐる巻きにして捕まえて、三人がかりで担いで踊りながら連行して行ったよ。それを見て拍手している街の人達。

 そして大歓声とともにレースが終わって驚きの順位が発表された。

 そして表彰式のシーンでは、ランドルさん役のランドラさんとオンハルトの爺さん役のハルトの爺さんのチーム脚線美が、二人揃ってあの脚線美を見せつけるポーズを取って大爆笑を誘っていた。

 そしてハスフェル役のフェルとギイ役のキースのマッチョな二人組も、左右対称なあのマッチョポーズを決めて、これまた笑いを取っていたよ。

 そして二連覇の一位の俺の登場シーンでは、スライム役と思しきレースのドレスと半透明のベールみたいなのを被った小柄な女性達が、取り出した大きな布を広げながら俺の周りに集まりふわりふわりと布を上下させて俺を包んで隠していく。

「ええ、あれ、どうなってるんだ?」

 すると、布に包まれて上半身しか見えていない俺の体がどんどんと上昇していく。きっとリフト的なものに乗っているのだろうけど、布に隠されて見えないのでまるで布の上に乗ってどんどん上昇しているみたいに見える。そしてかなり上まで上がった後、まるでジャンプするみたいにゆっくりと上下し始めた。どうやらこれがスライムトランポリンなわけか。へえ、どういう仕組みかは分からないけど、これはすごく手の込んだ舞台装置だよな。

 密かに感心しながら上下するヴェナートさんを見ていると、フクシアさんが何やら嬉しそうに拍手をしている。

「あのヴェナート様が乗っている上下するリフトは、劇団からの別注を受けて私が工房の人達と一緒に作ったんですよ。動力にはムービングログに使ったのと同じカラクリが使われています。とにかく安全第一だったので、いろいろ大変だったんだけど、無事に動いているみたいで嬉しいですねえ」

 ちょっとドヤ顔のフクシアさんの言葉に、俺だけでなくハスフェル達までが驚いていたよ。



「へえ、あの工房ではそんな仕事もしているんだ。それはすごいなあ」

 呑気に感心しながら舞台を眺めていると、俺達に順番に盾と賞金が渡されて拍手の中舞台が暗転する。

 そして鉄格子の中に入れられた俺を襲った襲撃犯二人と、矢笛を吹き損なって現行犯逮捕されたあの犯人が登場する。

「おい、どうしてお前が捕まってるんだ!」

「レースはどうなったんだよ!」

 襲撃犯二人が鉄格子を掴んで捕まったあの男を見て激怒している。

「いきなり邪魔されて失敗したんだよ! くそう、まだスープ臭いぞ」

 同じく鉄格子に顔を突っ込むようにして口汚くお互いを罵り合い始める男達。

 だけど何故か途中から起き上がった男達が、顔に鉄格子の枠ごと付いた状態でそれを片手で掴んだまま歌って踊り始める。いきなりコントかよ。だけど、それを見た客席から堪えきれない笑いがもれている。

 お互いを殴るふりをするようななかなかに悪あがきっぽいその歌と踊りは、警棒を持った看守が乱入してきて終わったよ。

 そして、そこへ最初にチラッと出てきたあの小物感満載の男二人が、これまた縄でぐるぐる巻きにされて連行されて来る。って事は、これがあの馬鹿の弟子二人な訳だな。



「ああ〜〜〜 どうしてあんた達まで捕まってるんだよ〜〜〜!」



 牢屋に戻っていた三人が、連行された二人を見て口を揃えてそう叫ぶ。

「知るか! お前らこそなんだよ。高い金取った癖に、揃いも揃って全員失敗しやがって!」

 怒鳴り返す馬鹿の弟子二人。ああ、これって思い切り自白したのと同じだよな。

 そして当然のように、ここでもまた始まる言い争いという名の歌とダンス。

「って事で罪状確定だな。お前ら見事に自白してくれて助かったよ」

 ダンスの終盤に、警棒を持った看守が呆れたように大きな声でそう言い、ガーンって感じに目を見開いて揃って倒れる犯罪者達。

 ここで一気に舞台が明るくなり、めでたしめでたしって感じに舞台が終わったみたいだ。

 まあ、裏で起こったあんな事やこんな事を簡略化すればこうなる訳か。

 若干遠い目になった俺達も、苦笑いしつつ始まったフィナーレの音楽に合わせて手拍子なんか叩いていたよ。



 シャムエル様は、舞台で始まったフィナーレのダンスをこれまた見事なまでに完コピし始め、更には時折アレンジしてくるくると回転しながらずっと楽しそうに踊っていたのだった。

 そして俺の右手に時折尻尾を叩きつけてブレイクダンスみたいな事までしている。ううん、舞台を見る度にシャムエル様のダンスの熟練度が爆上がりしている気がするよ。

 いやあ、お見事!


挿絵(By みてみん)

2022年12月15日、アーススターノベル様より発売となりました、もふむくの三巻の表紙です。

イラストは引き続き、れんた様が素敵に描いてくださいました。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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