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賑やかな舞台と即席とろとろオムレツサンド!

「うわあ、悪そうな顔。あの時の奴らにそっくりだねえ」

 クロワッサンを丸齧りしているシャムエル様の呆れたような声に、全く同じ事を思っていた俺は吹き出しそうになるのを必死になって腹筋に力をこめて堪えたよ。

「全くもってその通りだよなあ。ってか悪役ってやっぱりこう……ああいう、いかにもって感じになりやすいのかねえ」

 大きく息を吐き出した俺の言葉に、シャムエル様も笑いながらうんうんと頷いている。



 舞台では、従魔達が起こしてくれたのだろうマックス役むくむくさんや、ニニ役のあのかわいいもふもふさん達と一緒にテントから出てきたケンが、寝ぼけ眼で悪役二人に何か用かと尋ねている。

「ううん、あの危機感の無さは、こうやって客観的に見ると確かに危なっかしいよなあ」

 何度もハスフェル達から、お前はもっと危機感を持てと言われてきたけど、この舞台を見て割とマジでそう思ったよ。うん、今後は気を付けよう。

「お前さんには恨みは無いが、これも仕事なんで悪く思うなよ」

 悪役の一人がにんまりと笑ってそう言い、いきなり腰の剣を抜く。

 それを見た俺が慌てて装備している剣を抜き、そのまま斬り合いを表す激しいダンスが始まる。一気に緊迫する音楽。

「おいおい、舞台のケンはずいぶんと勇敢なんだなあ」

 呆れたようなハスフェルの呟きに、俺も苦笑いしつつ頷くしかない。

 あんなの俺には絶対に無理! 考えただけでも背中の辺りが寒くなってあらぬ所がヒュンってなるよ。

 だけど、そんな俺の内心などつゆ知らず、両隣のフクシアさんとファータさんは、もう食べるのも忘れて目をキラキラ輝かせながら舞台に釘付けだ。

 そして舞台では、二対一で押され気味だった俺のダンスに乱入した従魔達の働きで、あっという間に取り押さえられて叩きのめされ、音楽に合わせてぐるぐる巻きにされる悪役二人。

 そして暗くなる前に戻って来て大げさに驚くハスフェル改めフェルとギイ改めキース、そしてランドルさん改めランドラさんとオンハルトの爺さん改めハルトの爺さん達。

 それで相談の結果、こいつらを引き渡すために一旦街へ戻る事になった。



 またしても舞台が暗くなって舞台が変わる。

 今度の舞台転換はちょっと長いみたいで、何となくそのタイミングで客席側が慌てたように一斉に食べ始めるのが何だか面白い。

 女性二人もまた嬉々として食べ始めている。俺も、ワインを一口飲んでから見るからにふわふわなオムレツを食べようとしてナイフを当てた。

「ああ! それ貰ってない!」

 ご機嫌でまだステップを踏んでいたシャムエル様が、いきなりそう叫んで別のお皿を即座に取り出す。

 確かに、このふわふわオムレツは崩れそうだったので最後に取り分けようと思って忘れてたよ。

「あはは、ごめんごめん。ええと半分だな。はいはい」

 当然のように半分このゼスチャーをされてしまい、苦笑いして半分に切ってお皿に取り分けてやった。だけど、中はとろとろの半熟オムレツだったもんだから、切った途端に中身があふれてきて上手く取り分けられない。

「じゃあこれでいいな」

 少し考えて、ふわふわの丸パンを手で半分に切り目を入れ、大きく開いた断面に半熟オムレツをたっぷりと絡め取って戻してやる。オムレツの形の残っている部分は、スプーンですくって乗せてやる。言ってみれば即席とろとろオムレツサンドだ。

「ふおお〜〜〜〜とろとろオムレツサンド〜〜! 素晴らしい!」

 突然、歓喜のダンスを始めるシャムエル様。飛び跳ねては、空中で拍手するみたいに足を何度も打ち合わせている。

「おお、なんかよく分からないけど、それはめっちゃ高等技術な気がするぞ」

 とろとろオムレツサンドをお皿に乗せてやりながら感心したようにそう言うと、まるでスケーターのようにくるっと見事に三回転したシャムエル様はキメのポーズとともにドヤ顔になる。

「よく分かったね。これはダンスの中でも難しい技術なんだよ。やっぱり練習に勝るものはないねえ」

 ドヤ顔のシャムエル様は得意げにそう言ってその場に座ると、鷲掴みにしたとろとろオムレツサンドを食べ始めた。

「美味そうだな。俺もやろう」

 手を伸ばしてスライスしたフランスパンを取った俺は、お皿に残った半熟オムレツを絡め取りながら美味しく平らげていった。



「お、舞台が街へ戻った」

 場面転換が終わり明るくなった舞台では、例の悪役二人を捕まえて戻ってきた俺達を見て、街の人達が歓喜のダンスを踊っている。

 衛兵らしき人達に悪役二人を引き渡して、大歓声の中をそのままホテルに連れて行かれる俺達。

 俺達が捕まえた二人が実は殺人も犯している凶悪犯だった事が発表されて、街中が驚き大騒ぎになる。まあ、当然ここでも街の人達が総出のダンスシーンで歌って踊りながら器用に驚いている。

「今回は、大勢のダンスシーンが多いなあ。ってか、毎回思うけど、あの人数が一緒に踊ってぶつからないってのも凄いよなあ」

 嬉々として舞台のダンスを完コピして踊っているシャムエル様を眺めつつ、ダンスなんて全く出来ない俺は、フランスパンを齧りつつちょっとズレた感想を思っていたのだった。


挿絵(By みてみん)

2022年12月15日、アーススターノベル様より発売となりました、もふむくの三巻の表紙です。

イラストは引き続き、れんた様が素敵に描いてくださいました。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回はオムレツだけど 玉子サンドがあまりに登場するので、サンドイッチはそれほど好きではないのにコンビニで玉子サンドを買ってしまいました。
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