いよいよ開演!
「大変お待たせいたしました。それでは間も無く開演となります」
前回と同じ狂言回し役の男性が客席に向かって優雅に一礼すると、朗々と響く声で口上を述べ始めた。
「本日の演目は、ハンプールの早駆け祭りの英雄達の秋の戦いとなります。今やハンプールのみならず世界中で大人気の秋の早駆け祭り。前回鮮烈なデビューを果たした魔獣使いとその仲間達が帰って来ました。二連覇を目指す主人公とそれを阻まんとする愉快な仲間達。新しい仲間達も登場します! しかし、ある人物の密かな恨みは深くその心に染み込み、今まさに牙を剥かんとしていた! 華やかな祭りの裏で企まれる凶悪な事件と、さまざまな人々の思惑。さあ、どうなるかはどうぞ貴方ご自身の目でご覧ください!」
どっと沸き起こる拍手と、揃ってあの時の色々を思い出して遠い目になる俺達。そして笑いを堪えるリナさん一家。そして両隣では大喜びで拍手をするフクシアさんとファータさん。
うん、これはフィクションだよ。フィクション!
頭の中で必死で自分にそう言い聞かせて食べかけていたソーセージを口に入れた。
ゆっくりと幕が上がり、ハンプールの街並みが広がる舞台に光が当たる。
おお、あの真ん中にある長蛇の列のお店はもしや……。
「それは、秋の爽やかな風が吹くある日の事。事の起こりは、前回の早駆け祭りの覇者である愉快な仲間達一行がハンプールの街へ到着した事から始まります。そして、ハンプールの住人となったクッキーが開いた装飾品とジェムの店、絆と光はすっかり街の人達に受け入れられて行列が途切れる事が無いほどの繁盛店となっていたのだった」
狂言回し役のイケメン男性が、とっても良い声で朗々と語り始める。
舞台では、絆と光そのままなお店のセットの前に何人もの街の人達が並んでいて、楽しそうに今度は何を買うのかと話をしている。
そしてお客さん達に笑顔で挨拶をして、早足にどこかへ出かけるクーヘン、じゃあなくてクッキー。ちなみに店の名前はそのまんま絆と光、だったよ。
楽しそうに店に入るために行列をしている人達を、物陰からこっそりと眺める男性二人。もしやあの二人は……。
「チッ、調子に乗りやがって」
「人が集まるのも今だけだよ。覚えてやがれ」
忌々しげにそう呟き、顔を見合わせて頷き合った二人はコソコソとその場を離れる。
ううん、なんて言うか……あれが例の弟子二人なんだろうけど、小者感が満載だよ。まだ前回のあの馬鹿二人の方が悪役っぽかったぞ。
何とも言えない気分で眺めていると、場面が変わり冒険者ギルドになる。
そこへ歓声と共に俺達一行が到着する。
メンバーが増えているのは、オンハルトの爺さん役の年配の男性とランドルさん役の男性。どっちもめっちゃイケメンだよ。
俺達全員の注目を浴びたランドルさんは、顔を覆って無言で突っ伏している。
分かるよ。舞台を直視出来ないレベルの羞恥心だよな。あれは……。
舞台上では、冒険者ギルドへやって来た俺達にクッキーがおかえりなさいと言って出迎えているところだ。
そのまま全員揃って早駆け祭りへの参加申し込みをしている。だけどその間もどんどん人が集まって来て冒険者ギルドはものすごい人であふれてしまう。
そして当然、おかえりなさいの歌と踊りが始まる……。
俺達が何かするたびに拍手と歓声。そしてどんどん集まる人、人、人。
歌と踊りはさらにテンションが上がり、モブ総出の舞台いっぱいのダンスシーンになってる。
机の上では、食べるのをやめたシャムエル様が、ご機嫌にステップを完コピして音楽に合わせて一緒に踊っている。凄え。
そして、従魔達の狩りの為に街の人達に見送られて街から出て行く俺達。当然ランドルさん……じゃあなくてランドラさんや、オンハルトの爺さんの役名ハルトの爺さんや、バッカスさんと思しき人も一緒だ。
また場面が大きく変わり、今度は郊外の草原地帯。
ここでご機嫌に狩りという名の歌と踊りを披露する愉快な仲間達。当然、マックス役のむくむくさんをはじめ従魔達も勢揃いだ。ううん、相変わらずイケメンな主人公だねえ。君は誰だい?
それに着ぐるみというか、従魔達の衣装が更にパワーアップしてるよ。
呑気にそんな事を考えながら舞台を眺めていると、歌と踊りの狩りのシーンは終わったみたいでまた場面が変わる。
どうやら夜が明けたみたいで、テントから俺達と従魔達が出てくる。
そして賑やかに歌って踊っての楽しい食事シーンの後に、ハスフェル達は少し体調が悪いのだと言う俺を残して狩りに出かける。なるほど、俺は体調不良で留守番か。あれだけ歌って踊ればそりゃあ具合も悪くなるよな。と突っ込んでみる。
留守番の俺が大きく欠伸をしてテントに入り、なぜか夕焼けのシーンになる。
「時間が経過したって事だな。演出方法って色々あるんだなあ」
そんな事を感心しながら切った鶏肉を口に入れる。うん、照り焼き味でめっちゃジューシー。
「あれ、もしかして俺一人だけって事は……」
あの時郊外で何があったのか不意に思い出して遠い目になる。
予想通りにテントの横に現れたのは、武器を手にしたいかにも悪そうな二人組だったよ。
「うわあ、悪そうな顔。あの時の奴らにそっくりだねえ」
クロワッサンを丸齧りしていたシャムエル様の呆れたような声に、全く同じ事を思っていた俺は、吹き出しそうになるのを必死で堪えていたのだった。