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開演前の乾杯!

「ふおお〜〜〜〜! これは美味しそうだねえ! あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャジャン!」

 お皿を持ったシャムエル様が、山盛りのポテトの横で若干いつもよりも激しめの味見ダンスを踊っている。

 ええと、俺の両隣にはフクシアさんとファータさん姉妹が座っているんだけど大丈夫なのか? 心配になってこっそり横目で二人の様子を伺うが何故か全くの無反応。

 いつも思うけど、これってどうなっているんだろうな?

「ああ、今の私はケンやハスフェル達だけにしか見えないよ。私に対して何かしても、それも見えない様になっているから、どうぞ遠慮なくここに入れてくれたまえ!」

 踊りを終えたシャムエル様が、なぜかドヤ顔でそう言ってお皿を置く。あれ、さっき踊っていた時に持っていたお皿よりも大きくなってる気がするんだけど……?

「それは気のせいです! あ、スープはこっちにお願いね。ワインはここにお願い!」

 心の声まで聞こえてるのかよ! って内心で力一杯突っ込みつつ、苦笑いした俺は、まずはその前にシルヴァ達に向けてそのまま手を合わせる。

「ええと、今日はこの前一度見た歌劇の舞台をまた観に来ています。今度は秋の早駆け祭りらしいよ。どうぞ楽しんでください。夕食もボリュームたっぷりなので、きっと喜んでもらえると思いますので、どうぞ」

 手を合わせて小さくそう呟く。

 いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でて、順番に料理を撫でてはお皿ごと持ち上げていく。最後にパンの入ったカゴを持ち上げる振りをした後、ファータさんとフクシアさんを順番に撫でて、最後にフクシアさんの頬を指で突っついてから消えていった。

 何故だろう。手しかないのに笑っていた気がしたぞ。

「え? どうかしましたか?」

 思わずフクシアさんを見つめてしまい、気がついた彼女が不思議そうにこっちを見る。

「ああ、失礼しました。何でもないです」

 慌てて前を向き、誤魔化すように軽く咳払いをする。

「ほら、何やってるんだよ。乾杯は?」

 笑ったハスフェルにそう言われて横を見ると、全員がワイングラスを手に笑って俺を見ている。

 それを見てフクシアさんとファータさんもワイングラスを手にした。

「ああ、了解。じゃあいつものやつで。愉快な仲間達に乾杯!」

「愉快な仲間達に乾杯!」

 笑った俺の言葉に、全員が声を揃えて乾杯する。フクシアさんとファータさんも、目を輝かせて一緒に乾杯してくれたよ。

 そして、何故か周りのテーブルの人達までが一緒になって乾杯してくれて、静かだった場内から拍手が沸き起こった後に大笑いになったのだった。



「はいどうぞ」

 シャムエル様に一通りたっぷり取り分けてやり、それでも絶対に食べきれないであろう量の料理の数々を見て小さく笑った俺は、またしてもフクシアさんを横目で見た。

 嬉しそうに食べている彼女も、どうやらこの量を平気で完食出来るみたいだ。

 ううん、やっぱりこの世界の人の食う量はおかしいと思う。ここだけは絶対にシャムエル様に物申したいぞ。

「ええ、美味しいものをたくさん食べられる方が良いじゃない」

 ソーセージを丸ごと一本丸齧りするシャムエル様の言葉に、もう笑いを我慢出来ない。やっぱり俺の心の声、聞こえてえるだろう!

「そりゃあまあ、美味しく食べられる方がいいけどさあ」

「じゃあ問題ないね。ねえ、このソーセージ美味しいねえ。中にチーズが入ってるよ」

「ええ、今俺が食っているのはハーブの味だぞ。ああ、もしかして三本とも味が違うぞ」

 もう一本残っていたソーセージも、ナイフで半分に切ってみる。

「ほら、これはなんか赤い粒々が入ってるぞ。じゃあそのチーズ味のを返してくれよ。こっちをあげるからさ」

「わかった。じゃあこれは返すから、そっちのをください!」

 齧りかけをそのまま返されてちょっと遠い目になったけど、まあ神様の食い残しなんだから別に問題ないか。いわば神様からのお下がりだもんな。

 小さく笑って返してくれたお皿にチーズ入りソーセージを置いて、代わりに半分に切った二種類のソーセージを渡してやる。

 よし、半分返されて一本分渡したからちょっとだけ量が減ったぞ。

 それでも絶対食い切れない量の料理を見て、こっそり持ち帰り用のお皿を取り出して取り分ける俺だったよ。

 うん、これはどれも美味しいんだし、食い残しになる前に先に取っておくべきだよな。

 何とか半分くらいをこっそり収納してから、俺的には若干多めの一人前サイズになったどれも絶品な料理をゆっくりと味わっていると、前回と同じスタイルの良い男性が舞台袖から進み出て来て、舞台中央で立ち止まる。

 当然、一気に場内が静かになり皆食べるのをやめて舞台を見る。



「大変お待たせいたしました。それでは間も無く開演となります」

 その人は客席に向かって優雅に一礼すると、朗々と響く声で口上を述べ始めた。

「本日の演目は、ハンプールの早駆け祭りの英雄達の秋の戦いとなります。今やハンプールのみならず世界中で大人気の秋の早駆け祭り。前回鮮烈なデビューを果たした魔獣使いとその仲間達が帰って来ました。二連覇を目指す主人公とそれを阻まんとする愉快な仲間達。新しい仲間達も登場します! しかし、ある人物の密かな恨みは深くその心に染み込み、今まさに牙を剥かんとしていた! 華やかな祭りの裏で企まれる凶悪な事件と、さまざまな人々の思惑。さあ、どうなるかはどうぞ貴方ご自身の目でご覧ください!」

 どっと沸き起こる拍手と、揃ってあの時の色々を思い出して遠い目になる俺達。そして笑いを堪えるリナさん一家。

 両隣ではフクシアさんとファータさんが、大喜びでものすごい勢いで拍手してるし……。

 食べる手を止め、同じくらいに大喜びで拍手をしているシャムエル様の尻尾をこっそり突っついて気を紛らわせる俺だったよ。


挿絵(By みてみん)

2022年12月15日、アーススターノベル様より発売となりました、もふむくの三巻の表紙です。

イラストは引き続き、れんた様が素敵に描いてくださいました。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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