キャラグッズの購入!
「あの、一人一つしか買えないものが幾つもあるんです。お願いなので協力してくださ〜〜〜い!」
列から離れて駆け寄って来たファータさんの言葉にそろって吹き出す俺達。
まさかの限定グッズ購入の為の応援要員要請。人海戦術作戦かよ!
「ええと、別に協力しても構わないよな?」
一応ハスフェル達やランドルさん、リナさん一家にも聞いてみたけど、全員揃って苦笑いしつつも頷いてくれた。
「良いですよ。じゃあこの列に並べばいいんですかね?」
この行列に並ぶのは、正直に言うとドン引きレベルだけど、彼女達がそこまでして欲しいと言うのなら、まあ協力くらいするよ。
そう言って最後尾を探そうとすると、慌てたように首を振ったファータさんが列とは別の場所を指差した。そこには、これもかなりの大人数が何となく列を作るでもなく塊になって集まっている。
「代表者が列に並べば良いんです。三名以上の団体の場合には向こうでお待ちいただいて、順番が来たら購入窓口に来てもらうようになっているんです」
やや早口のファータさんの説明に納得したよ。
成る程、行列を出来るだけ少なくするために、団体の場合は代表者が並んでおいて購入の際に窓口で人数確認をするわけか。
「了解、じゃああっちで待っていればいいんだな」
「申し訳ありません! 心から感謝します!」
地面に頭がつくんじゃあないかと思うくらいに深々と頭を下げたファータさんは、小走りに列に戻りフクシアさんと手を取り合って歓声を上げている。
まあ、あそこまで喜んでくれると協力し甲斐があるってもんだよ。
苦笑いした俺達は言われた場所へ行って待っていたんだけど、何となく退屈だったもんだから倉庫の壁面いっぱいに貼られたお品書きみたいなものを眺めていた。
「なあ、なんかもの凄い種類があるんだけど、彼女達はどれを買うんだろうなあ」
思わずそう言った俺の言葉に、同じ様にお品書きを見ていたハスフェル達も苦笑いしていた。
何しろ、商品自体の種類が、まず色々ある。
例えば鞄なら、手提げ鞄、リュック、肩掛けタイプの鞄とトランクまである。それ以外にもポーチや巾着、木製の小箱、宝石箱に、舞台で歌われたオリジナル曲のオルゴールは何曲もある。
他にもショールやシャツ、缶バッチみたいなのまであって、もう俺は笑いが止まらない。
しかもそれら全てに、役者さん達の名前が入っているだけでなく、配役の名前……つまり俺の名前入りのグッズまでが作られているのだ。まあ俺以外は若干違う名前になってるけどな。
「なあなあ! あそこ、ほら! ランドラさんだってさ!」
名前の一覧表を見ながら思わず吹き出してランドルさんの脇腹を突っつく。
「うわあ、やめてくれ〜〜!」
顔を覆って悲鳴を上げるランドルさんを見て、俺達はもう我慢出来ずに大爆笑になったのだった。
「お、ようやく順番みたいだぞ」
ハスフェルの声に慌てて振り返ると、嬉々として窓口に駆け寄る彼女達の姿が見えた。満面の笑みで振り返って手招きするので、苦笑いした俺たちもゾロゾロと窓口に並ぶ。
どうやら二人でどれを買うのか事前に決めていたようで、メモを片手にスタッフさんとやり取りしている。
まずは定番グッズを買ったみたいで、山積みになった、それってほぼ全種類じゃないかと突っ込みたくなるくらいの大量のグッズを持参の袋にガンガン入れていく。だけどどう見ても鞄の大きさと入る量が釣り合っていないから、あれも収納袋なのだろう。
すげえな。グッズを買う為に収納袋を持参するって。
「それで俺達は何を買えばいいんだ?」
さりげなく聞いた俺が間違っていたよ。
一人一つしか買えないと言う限定グッズは、まさかのそれぞれの役者さんの姿をそのまま陶器で再現した名前入りのオルゴールと、ガラスの板に精密に描かれた役者さんの絵の入った名前入りの飾り。しかもスタンド付き……。
だけど俺の目にはもう、これはどこからどう見てもキャラのアクリルスタンドにしか見えない。
しかもその限定グッズは購入する本人が買わないと駄目らしく、ささっとフクシアさんから全員に渡されたのは、既に用意してあった金額ピッタリのお金が入った包みと何を買うかのメモ書き。
「ええと、これを買えば良いんだな。あの……ケンのスタンド付き絵姿と、ケンの立体オルゴールをお願い、します」
駄目だ。ここで笑ってはいけない。これはあくまでも俺の役をしているヴェナートさんの役の名前だ!
引き攣りそうになる腹筋と口元を必死で我慢して、小さな二種類の木箱をお金を渡して受け取る。
受け取った木箱の蓋には、ケンって名前がデカデカと書かれていてちょっと気が遠くなったけど俺は間違ってないよな?
「はい、これで良いんだな」
「ありがとうございます! ああ嬉しい!」
フクシアさんに木箱をそのまま渡すと、満面の笑みで受け取った彼女は、そりゃあもう嬉しそうに受け取ってお礼を言ってくれた。
だけど、彼女も同じ物を買っていたから、そんなに買ってどうするんだって突っ込みはぐっと我慢したよ。
うん、きっと誰か友達に頼まれて代理購入した分だよな。
って事で、俺は人生で初めて自分の名前がついた自分のキャラグッズをイベント会場で買うと言う、ある意味超レアで羞恥プレイ一歩手前な貴重な体験をしたのだった。
ちなみに、自分の名前のグッズを買う俺を見てハスフェル達は大爆笑していたよ。
良いなお前らは、名前が違ってて!
そこ! シャムエル様も笑うな〜〜〜〜!