キムチゲットしました!
「これこれ、この焦げたところがまた美味いんですよねえ」
笑ったアーケル君の呟きに、俺は笑顔でサムズアップする。
「だよな。これは確かに美味い。いい店教えてくれて感謝するよ。それにこのキムチも出来れば買いたい」
「ああ、このちょっと辛くて赤いのですか。これなら確か、専用の容器に入ったのが持ち帰り専用で売っていますよ。ケンさんなら、一番大きなサイズかなあ」
笑ったアーケル君の言葉に、俺は内心でガッツポーズになる。よし、これで寒い時期の定番のキムチ鍋が出来るぞ。しかも使う肉を岩豚の肉ですれば、絶対美味さ倍増だよ。
岩豚キムチ鍋がどれくらい美味しくなるかを考えて笑み崩れそうになるのを必死で我慢しつつ、せっせと鍋の底に出来たお焦げを剥がして食べる。ハスフェル達やリナさん達もご機嫌でお焦げを齧っている。
「へえ、これもご飯なのにいつも食べているおにぎりとは全然違うね」
そう言って笑っているシャムエル様のお皿は、もうほぼ完食状態だよ。食うの早い!
慌てて残り少なくなったお焦げを剥がしていると、立ち上がって俺の鍋を見たシャムエル様は、まだまだ肉が残ってるハスフェルのところへ一瞬で移動して、勝手にお皿から肉を引っ張り出して食べ始めた。どうやら残り少ない俺の鍋からおかわりを取るのは遠慮してくれたみたいだ。
それを見て苦笑いしたハスフェルは、自分のお鍋からお焦げを一切れ引き剥がしてシャムエル様の目の前に指で摘んでぶら下げた。
「ほら、おまけだよ」
「わあい、おまけもらった〜〜〜!」
嬉しそうにそう言ってお焦げを受け取り、食べかけていた肉と重ねて持って一緒に齧り始めた。
「相変わらず、フリーダムだなあ」
呆れたように笑った俺は、残りのお焦げをしっかりと楽しんだのだった。
「ご馳走様。奢ってもらって悪かったな」
「お気になさらず。いつも美味い飯食わせてもらってますから」
今日の昼食代は草原エルフ三兄弟が払ってくれたので、ここは有り難くご馳走になっておく。
そして当然俺は、ちょうど人が並んでいなかったカウンターに駆け寄り、持ち帰りのキムチの事を聞いてみる。
「はい、こちらになりますが、どれになさいますか?」
笑顔で見せてくれたメニューボードには、壺入りキムチ小、中、大、特大とあった。
カウンターの後ろの棚には、確かに四種類の壺が並んで置かれている。まあ、あれは見本だろうけどね。
「ええと、特大って、あの一番大きなサイズですか?」
多分100キロくらいは余裕で入りそうな大きな壺を指差すと、振り返ってそれを見たスタッフさんが笑顔で頷く。
「はい、あれが特大です。まあ業務用なので店頭ではほぼ売れないんですけれどね」
「いや、俺はその一番大きなサイズが欲しいんですけど」
驚くスタッフさんの前に、俺は金貨が入った革袋を取り出して置いた。
「出来れば二つ欲しいんですが、在庫はすぐに有りますか? 収納出来るので、あればそのままいただきます」
もしもすぐに在庫が無ければ、お願いしておいて後から取りに来てもいいかと思っていたんだけど、満面の笑みで頷いたスタッフさんは、メモを書いて後ろにいた別のスタッフさんに渡した。それを見るなり慌てて走っていくメモを持ったスタッフさん。
「はい! すぐにご用意しますので、こちらでお待ちください!」
言われた通りに隣のもう一台の箱型キッチンカーの前に進む。
そこで代金を支払っている間に、さっきのスタッフさんともう一人が大きな台車に乗せた巨大な壺を持って来てくれたよ。
「お待たせいたしました。あの、収納袋はどちらに?」
不思議そうなスタッフさんに、俺が収納の能力持ちな事を小声で説明して、そのままサクッと収納させてもらった。
よしよし、これでまたメニューが増えるよ。キムチチャーハンや豚キムチとかも出来るし、シンプルにおにぎりの具にしても美味しいもんな。
「お待たせ。とりあえずキムチをたくさん買ったから、これでまたメニューが増えるよ」
笑った俺の言葉に、大喜びの一同だったよ。
店を後にしてムービングログを取り出した俺達は、アーケル君達の案内で綺麗に雪かきのされた道を進み、美味しそうな屋台やお店があれば足を止めてはまとめて買い込み、時々買い食いなんかもしながらのんびりと街歩きを楽しんだ。
いや、歩いてないからこれは街歩きとは言わないかな?
まあ、そんな感じで午後の時間をのんびり過ごした俺達は、約束の集合時間よりも少し早めに劇場へ行ってみる事にした。女性を待たせるのは申し訳ないもんな。
しかし、到着した俺達がそこで目にしたのは、劇場の隣にあった大きな倉庫みたいな建物の前に出来た、もの凄い長蛇の列だった。
ま、まさかとは思うが……あれって、グッズ販売のために並んでいる列だったりする?
完全にどん引く俺達、その時、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ああ、ケンさん! 皆さんも!」
見ると、長蛇の列に並んだヴォルカン工房の発明王のフクシアさんと、観光案内所に勤務しているフクシアさんのお姉さんのファータさんが、揃って満面の笑みで手を振っていたのだ。
「ああ、頑張って並んでるんですね」
もう、そうとしか言えなくて苦笑いしつつ手を振り返す。
「あの、お願いなので手を貸してください!」
ファータさんの必死の頼む声に、俺達は揃って首を傾げた。
「ええ? どうしたんですか?」
不思議そうにそう尋ねると、姉妹は無言で目を見交わしてファータさんが列から抜け出してこっちに走って来た。
「あの、一人一つしか買えないものが幾つもあるんです。お願いなので協力してくださ〜〜〜い!」
まさかの限定グッズ購入の為の応援要員要請に、俺は堪える間も無く吹き出したのだった。