昼食とまさかの展開
「ええと、そろそろ昼食の時間ですけど、何か食べたいものとかってありますか?」
すっかり案内人役が板についているアーケル君の質問に、俺はハスフェル達と顔を見合わせる。
「ええと、夕食はまた舞台を観ながらなんだよな。前回はめっちゃ肉たっぷりな超ボリューミーなメニューだったけど、もしかして今回もそうなのかな?」
前回のガッツリメニューを思い出して遠い目になる俺を見て、ハスフェル達が大笑いしている。
「ああ、確かにケンさんにはちょっと多かったですかね。あの舞台の時に出てくるメニューは、だいたいあんな感じの肉中心のボリュームたっぷりなので有名なんですよ。なので、間違いなく今回もガッツリ系です」
笑ったアーケル君の説明に、苦笑いした俺は人の少ない通りを見る。
「じゃあ、ちょっと冷えてきたし何か体が暖まりそうなのが食べたいなあ。それならあのスープの店に戻るのは無しかな?」
少し考えてそう答えると、にんまりと笑ったアーケル君だけでなくオリゴー君とカルン君までが揃って目の前の通りを指差した。
「それなら良い店がありますので、そこにしましょう」
「きっとケンさんは気にいると思いますよ」
三人の声が綺麗に重なる。
「へえ、じゃあそれでお願いします」
何だかよく分からないけど三人が揃っておすすめだというのなら、俺達に断る理由は無いよ。
って事で、またアーケル君達を先頭にムービングログで移動していく。
「ここですよ。おお、相変わらず人気だなあ」
到着した店は大型の箱型の馬車を改造して作られた、いわゆるキッチンカーみたいなのだ。しかも二台連結タイプ。
そして周囲にはごま油のいい香りとおこげの何とも香ばしい香りが立ち込めている。
「へえ、それで一体何の店なんだ?」
「ここはメニューは一品のみで、肉多めとか野菜多めとか、ご飯大盛りとかの注文が出来るんです」
不思議に思って店を覗いた俺はその説明に納得した。
何と、石焼ビビンバっぽい彩りの華やかな熱々の料理がちょうど運ばれていくところだったんだよ。残念ながら器は石では無くて、スキレットみたいなやや深めの分厚い鉄鍋だったけどね。
って事で、注文待ちの行列に俺達もムービングログを収納して大人しく並ぶ。
だけど案外ズンズン進む列に驚いていると、どうやら持ち帰りの人も多いみたいでカウンターで注文だけして、横のもう一台の方に並び直している人達が大勢いたよ。
ここで食べる人は注文して代金を支払って木札をもらい、そのまま横に張られたテントの中へ入っていく。
成る程、あの木札がいわば食券な訳か。
感心して見ている間も列はどんどんと進んでいき、あっという間に俺達の番になった。
「ええと、ケンさんは肉よりも野菜多めかな?」
俺の食事量を把握してくれているアーケル君の言葉に、苦笑いしつつ頷く。
「ああ、それで頼むよ」
「了解です。じゃあ注文はお任せください!」
三人がカウンターに並んで注文を始めるのを見て、俺達は黙って下がった。
「お待たせ。じゃあ席を取らないとね」
木札の束を持ったアーケル君が笑顔でそう言い、そのまま隣の大型テントの中へ入る。
「うわあ、暖かい」
大型の暖房器具が合計三台、温風を噴き出しているおかげで広いテントの中はかなり暖かい。足元には分厚い板が敷き詰めてあるので、地面剥き出しよりは断熱効果はありそうだ。
ちょうど団体が食事を終えて出るところだったらしく目の前で大型の机が空いたので、タイミング良く全員並んで座る事が出来たよ。
って事で、座って大人しく待つ事しばし。
「なあ、今夜の彼女達との合流ってどういう約束になってるんだ? 現地集合なのか?」
待ち時間の間に、気になっていた事を隣に座るハスフェルに聞いてみる。
「ああ、会場で集合する予定になっているよ。何でも開催前に、劇団風と大河が企画する限定品の販売があるらしく、彼女達はそれを目当てに早めに行って並ぶそうだ」
「何それ。劇団企画の限定品って?」
「さあ、俺も詳しくは知らないが彼女達の説明によると、役者の名前が入った鞄や袋、ショールや服など、かなり色々とあるらしいぞ。しかも前回の舞台の時にはほとんど売り切れていて何も買えなかったらしい。ああ、ドワーフ作の名前入りの細工物なんかもあるって言っていたな。今回は開始直後だから、間違いなく買えると言って二人とも大喜びしていたぞ」
「まさかのグッズ展開かよ!」
笑ったハスフェルの言葉に真顔で思い切り突っ込んだ俺は、間違っていないよな?