専門店巡り!
「ほら、あそこですよ」
先頭を進んでいたアーケル君達草原エルフ三兄弟の乗るムービングログが止まり、通りの角にある一軒のお店を示す。
「ああ、ここまで良い香りが……」
ムービングログを止めた俺は、片足だけ地面につき目を閉じてそう呟きながら深呼吸をする。
スープの甘い香りが、辺り一面に広がっている。
円形広場に面したその店は、広場側に簡易のテントを張っていてそこで食べる事も出来るみたいだ。
持ち帰りは、通り側に面した部分に大きなカウンターがあり、店主と思しき年配の男性がそこで対応しているみたいだ。
「こんにちは〜〜爺ちゃん。連れて来たよ」
「ああ、いらっしゃいませ。本当に連れてきてくださったんですね。張り切って作ったのはいいけど、来られなかったらどうしようかと思っていました」
苦笑いする、カウンターにいた白髪の爺さんが俺を見て笑顔になる。
「いらっしゃいませ。早駆け祭りの英雄殿。おやおや、噂の従魔達を引き連れて来てくださると思って楽しみにしていましたが、どうやら従魔達はお留守番だったようですね。残念です」
「あはは、そうだったんですねそれは申し訳ない。今日連れて来た子達は冒険者ギルドで留守番してもらっていますよ」
まあ、スライム達はいるけど、それはアーケル君がもう見せているだろうからね。
「ああ、失礼しました。こちらが本日のメニューになりますが、どれになさいますか?」
笑顔で一礼した爺さんは、そう言って大きな板を渡してくれる。
「おお、黒板がメニューになってるんだ。ええと……」
両手で持たないといけないくらいの大きなメニューボードをまずはじっくりと眺める。
「何々、ポタージュースープと、それ以外で分かれているのか。おお、かなりの種類がある」
メニューを見て密かに感心する。
ポタージュスープのメニューには、コーンスープを始めパンプキンやじゃがいも、ナッツとバター、ニンジン、ほうれん草やキノコのポタージュなんてのもある。
それ以外にも、シンプルコンソメスープをはじめ、オニオンスープやソーセージとカブのポトフ、ミネストローネや野菜スープ、パスタやベーコンがガッツリ入ったメインにもなるボリュームタップリなスープもあった。それだけではなく、なんと味噌汁の項目があり、豚汁をはじめワカメや豆腐、ネギとナスの味噌汁まであって、もうちょっとで感動のあまり涙が出そうになったよ。
って事で、空いている寸胴鍋をありったけ取り出し、驚く爺さんにお願いして営業の迷惑にならない範囲で、ほぼ全種類買い占めさせていただいたよ。
これは、また買いに来よう。だってもう、どれも見ただけで美味しいのが分かるよ。
入れてもらった大きな寸胴鍋をガンガン収納しながら、相当買い占めてしまったけど本当にご迷惑じゃあないか何度も確認したよ。
だけど聞けば、ランドルさんが持っているのと同じ時間遅延付きの二百倍の収納袋を複数持っているらしく、基本的に仕込みの終わったスープはまとめて収納袋に大量に保存してあるらしい。それに、この時期だけならスープや基本のお出汁は、店の外にある倉庫に鍋ごと置いておけば丸ごと凍ってそのまま保存出来るんだってさ。
成る程、冬季限定だけど倉庫は天然の冷凍庫状態な訳か。
今日買ったメニュー以外にも、ひき肉を包んだパスタが入った牛骨から出汁を取ったスープや、鶏ガラスープを使ったレシピ、俺も作ったロールキャベツなんかもあるんだって。これは見つけたら絶対買うよ。
って事で、また来るから色々仕込んでおいてもらうようにお願いしておく。
こういう手間のかかるレシピは、絶対素人の俺が作るよりもプロが作る方が美味しいもんな。
言われた金額よりも多めに渡して、ついでにブラウングラスホッパーのジェムを爺さんのポケットに押し込んでおいたよ。
満面の笑みで手を振る爺さんに手を振り返し、改めて良いお店を教えてくれたアーケル君にお礼を言った。
それから後も、あまり行った事が無い通りを案内してもらい、和風の煮物なんかが並んだお惣菜系のお店でも色々とサイドメニューをまとめ買い。
フランスパンみたいなハード系のパンのみを扱ったパン屋さんでも、30センチくらいのやや細長いフランスパンにハムやチーズなど一種類の具だけを挟んだシンプルバスケットサンドなるものも見つけて大量購入。もちろん定番のハード系のパンも、色々と買い込んだよ。
試食にもらったチーズサンドは塩味が効いててめっちゃ美味しかった。これとスープだけでも充分朝食になるよ。
それ以外にも、唐揚げの専門店や串焼き専門店、ローストビーフ専門店など肉系も色々大量購入。今回は、専門店巡り状態だったよ。
いやあ、プロの仕事ってすごいね。
食料在庫がいつになく充実していて俺は嬉しい。これでいつでも安心して狩りに行けるよ
俺が何か買うたびにご機嫌で試食を請求していたシャムエル様は、今は俺の乗るムービングログの操作板の上で大満足状態でお昼寝中だ。
だけどまあそろそろ昼食の時間だから、何か食べたら即行で起きてくるだろうけどね。
小さく笑った俺は、完全に脱力して投げ出されているもふもふ尻尾をこっそりと撫でてやったのだった。
ううん、やっぱりシャムエル様の尻尾の触り心地は最高だね。