ギルドでの解体依頼と笑いのツボ
「うひゃあ〜〜雪まみれになったぞ」
新雪の積もる中を爆走して来て、ようやくアッカー城壁の城門を通り抜けた俺達は、ひとまず道の端へ寄って集まり、ほとんど雪だるま状態になっている俺達と従魔達を、手分けしてスライム達に綺麗にしてもらった。
マックスやシリウス達はよほど新雪の中を走るのが楽しかったらしく、自分達の順番を一番最後にしてもらって雪の中へ戻って行ってずっと遊んでいた。
文字通り、犬は喜び庭駆け回り猫はコタツで丸くなる、な光景だったよ。
「ほら、早く戻って来て綺麗にしてもらえ。俺が乗れないじゃないか」
呆れたように笑ってそう言ってやると、マックス達は全身真っ白な雪だるま状態で慌てたように戻って来て、俺のすぐ横でぴたりと止まって良い子座りになる。巨大ワンコの雪だるまの完成だ。
「マックスも綺麗にするね〜〜!」
サクラがそう宣言して、アクアとアルファ、それからベータとガンマがすっ飛んで来て、大きな体のマックスをあっという間に綺麗にしてくれたよ。
「ご苦労さん。じゃあ戻ってくれるか」
ついでに、そこら辺の道端の汚れや落ちているゴミまで全部綺麗にしたスライム達が、次々に俺の鞄に飛び込んで一体化していく。
ハスフェル達やランドルさんは何匹かを肩や頭の上に乗せて、あとの子達はだいたい鞄やポケットに入れているみたいだし、リナさん達も似たような感じだ。
まあ、金色合成やクリスタル合成さえ人前でしなければ、他の従魔達と違って落っこちる心配は無いんだから好きにしていても構わないからね。
「そう言えば、疑問に思っていたんだけど、収納袋にはスライムでも入れない?」
俺の右肩の定位置に座って尻尾のお手入れをしていたシャムエル様は、顔を上げて少し考えてから首を振った。
「駄目だねえ。一応、収納袋には生きているものは入れない事になっているから、無理に入ろうとしても弾かれて飛び出しちゃうよ。まあ、スライム達なら小さくなって鞄の入り口の辺りに張り付いていれば、収納袋でも多分大丈夫……かな?」
「何、その適当感」
相変わらずの大雑把な答えに、俺はマックスに飛び乗りながら思わず吹き出したのだった。
「街の中はさすがに綺麗に雪かきをしてくれているなあ」
のんびりと冒険者ギルドへの道を進みながら、時折道端に山積みになっている雪を見て素早い仕事に感心していた。
「あ、そう言えば……あの俺達が作った雪像って、あのあとどうなったんだ? 撤収作業はしなくてもいいのか?」
ふと思いついて、後ろにいるハスフェルを振り返る。
「ああ、そりゃあもう祭りは終わったからな。今頃は、ギルドの職員達が撤収作業に追われているだろうさ」
笑ったハスフェルの言葉にちょっと勿体無い気もしたけど、確かに祭りが終わったら神輿や山車は撤収するもんだと納得しておく。
「なかなか楽しいお祭りだったなあ。これからは冬はここに来て雪像を作ったりして、のんびり年越すれば良いんだよな」
小さくそう呟き、何とも不思議な気持ちになった。
元は、オンボロ賃貸に住んでいた薄給サラリーマンの俺が、今ではどこへ行っても皆が俺の名前を知ってくれていて、二つの街に超豪邸まで持ってるんだもんなあ……本当に人生何が起こるか分からないよな。
何だか笑いが止まらなくなってしまい、俺は必死で笑いを堪えてお手入れの終わったシャムエル様のもふもふしっぽをこっそり突っついてやったのだった。
「到着〜〜〜! じゃあ、お前達はここで留守番していてくれよな」
ギルドの厩舎にスライム達以外の従魔を全員預けてから、まずは岩豚の解体をお願いする為に受付のカウンターに並ぶ。
「おお、ケンさん。待っていたぞ。ほらお前さんはこっちこっち」
しかし、俺に気付いたギルドマスターのガンスさんが満面の笑みで駆け寄ってきて、そのまま奥の部屋へ連行されてしまった。
ハスフェル達も、ガンスさんに確保される俺を見て大笑いしながら一緒に来てくれたよ。
いや、笑ってるなら助けてくれって。ガンスさん。マジでめちゃめちゃ腕力あるんだけど……。
「ええと、じゃあまず俺の分を出しますね」
通された部屋には、解体担当と思しきガタイの良いマッチョなおっさん達が並んでいる。あ、なかなかご立派な体格の女性もいらっしゃいます。
これはまず間違いなくまた分けてくれって言われるだろう事を考えて、先に自分の分をお願いしておく。
「ええと、じゃあ俺の分で岩豚五匹分お願いします。とりあえず食える部位の肉は全部返してください。内臓は使えるのがあれば……お渡ししますので、どうぞ」
俺がそう言ったら、よし! って感じにガッツポーズをするガンスさんとマッチョマンとスタッフさん達。
そんなに喜ぶほど美味しいのかと実はちょっと気にはなったんだけど、そもそも俺、内臓モツ系って苦手なんだよ。レバーくらいは食べろと言われれば食べるけど、自分からはまず食べない。
当然自分で料理した事も無いので、下ごしらえのやり方なんかも知らない。なので、ここは潔く諦めて欲しがっている方々にお譲りしますよ。内臓系は下ごしらえを失敗すると全然美味しくないらしいからね。
「ええと、何匹要ります?」
「まだあるのか?」
真顔のガンスさんの言葉に、他のスタッフさん達も真顔になる。
「ありますよ。で、何匹要ります?」
とりあえず一匹だけ取り出して聞くと、ガンスさんが大きく頷く。
「あれば五匹、お願いしたい。無ければあるだけで構わない」
「ああ、それくらいなら大丈夫ですよ」
笑って五匹取り出してそのまま引き渡す。
「あとはこれですね。ハイランドチキンとグラスランドチキン。通常種が五匹ずつと亜種が二匹ずつお願いします。これも、肉以外で買い取れる素材や部位があれば引き取りをお願いします」
こちらも希望の数を聞き、それぞれ五匹ずつをギルドへの買い取り分として渡したよ。
あれ? でかいけどこれは一応鳥なんだから、数え方は一羽二羽かな?
大きなハイランドチキンを取り出しながら不意にそんな事を考えてしまい、何故かツボにはまってしまって笑いが止まらなくて苦労したよ。