朝食と今日の予定
「ごちそうさまでした。今日のスープもおいしかったよ」
おにぎりとだし巻き卵、それから照り焼き風の串焼きとスープの和風の朝食を食べた俺は、笑ってアーケル君を見た。
今朝もアーケル君が提供してくれた本日のスープは、シンプルオニオンスープ。あれは簡単そうに見えるけど、案外手間と時間がかかってるんだよ。しかもパンにもご飯にも合う完璧なサイドメニューだ。
濃厚でめっちゃ美味しかったので、もちろん購入予定に入ってるよ。
「このスープをたまたま見つけて買って食べて、そりゃあもう美味しくて大感激したんですよ。それで店主に聞いてみたら、鍋でもお椀でも持ってくれば売ってやるぞって言ってくれたので、その足で鍋を買いに行ったんですよね。それで買った鍋をそのまま持って行ったら、ちゃんと綺麗に洗ってから持って来いって叱られたんです」
苦笑いしながらそう言うアーケル君の隣で、オリゴー君とカルン君が大笑いしているから、恐らくその叱られた時に一緒にいたんだろう。
「あはは、確かに買った鍋をそのまま持って来たら、俺でも洗って来いって言うなあ」
笑った俺の言葉に、何故か全員揃って大爆笑になった。
何事かと思って聞いてみると、どうやらほぼ全員が似たような事をやらかして、店主に注意されたり叱られたりしているらしい。
要するに、一食分程度ではなくそれなりの数を買おうとしたら、俺以外は屋台でまとめ買いなんてした事が無いもんだから、最初はやり方が分からなかったらしい。
買った物を入れる為のお皿や鍋を持って来いと言われたら、近くの食器屋さんや金物屋さんで適当なお皿や鍋を買って、そのまま持って行って注意されたんだって。
店に出している間に、鍋やお皿には砂や埃がついているし誰かの汚れた手で触られてもいるだろうから、食べ物を入れて使う前にはちゃんと洗ってから使いなさいと。
何それ、屋台の人達って皆良い人達ばかりだよ。
「俺も、ケンさん程の大きな鍋じゃあないけど、鍋やお皿をいくつか買ってちゃんと洗って収納してあるよ。一応、料理用の時間遅延の収納袋には今ではそれなりの量や種類の料理が確保してあるからいつでも出しますよ」
笑ったランドルさんにそう言われて、サムズアップを返す。何しろランドルさんが持っているのは、二百倍の時間遅延の収納袋だもんな。あの、真っ赤なスパイスの唐揚げは最高に美味しいんだよ。
リナさん達も、ランドルさんが持っている程のではないけど、百倍から百五十倍くらいのかなり良い収納袋を確保したみたいだから、お店や屋台で美味しい物を見つけたら色々買ってちゃっかり確保しているらしい。
そうだよな。やっぱり皆、何処にいても美味しい物は食べたいよな。
その後は、何処の屋台が美味しいとかって話で大いに盛り上がり、街へ行ったら見て回る事になった。
こういう情報は、バイゼンの街をよく知るアーケル君達が相当詳しいみたいだ。有り難や有り難や。
しばらく休憩してから、出掛ける事にする。
「うわあ、めっちゃ積もってる!」
外に出た俺は、いつもよりもかなり増量している真っ白な雪景色を見て思わずそう叫ぶ。
「任せてください! 新雪は軽いですから、これくらいなら簡単に蹴散らせます!」
一瞬で巨大化したセーブルの言葉に、同じく巨大化したティグとヤミーも揃ってうんうんと頷いている。
「そっか、じゃあよろしくな」
ファー付きのマントを羽織ってモコモコになった俺は、冬用の分厚い手袋をしてからマックスに飛び乗った。
それを見て全員がそれぞれの騎獣に飛び乗る。
騎獣がいないオリゴー君とカルン君は、いつもの大型犬より少し大きいくらいになったテンペストとファインの狼コンビが担当している。
「よし、じゃあまずは街へ行ったら冒険者ギルドだな。解体をお願いする岩豚を渡して来ないと」
「ああ、まずはそれだな。あれは美味しいから、切らさないでくれよな」
真顔のハスフェルの言葉に、俺も笑って大きく頷いたよ。
「よし、それじゃあ出発だ」
俺の言葉に、巨大化したセーブルが新雪の中へ突っ込んでいく。
ティグとヤミーがそれに続き、マックスとシリウスがその後を追いかけて走り出した。
「どわ〜〜〜〜! 真っ白で何にも見えんぞ〜〜〜!」
舞い上がった新雪が辺り中に撒き散らかされてしまい、視界が真っ白以外全く見えなくなる。
ハスフェル達も笑いながらも悲鳴を上げていたので、全員が同じ状況みたいだ。
「お前らって、こんな状態でも前が見えるのか?」
完全に体を伏せて何とか手綱にしがみつきながらそう尋ねると、元気よくワンと吠えるマックス。
「もちろんですよ。いやあ、積もりたての雪は気持ちが良いですねえ。今日はお天気もいいので最高の気分です!」
ご機嫌で走る尻尾全開で扇風機状態のマックスの言葉に、もう笑うしかない俺だったよ。