朝の準備と今日の予定
『おはよう。もう起きてるか?』
ようやく小さくなってくれた従魔達と戯れていたら、念話でハスフェルの声が届いた。
『おう、おはよう。今従魔達に起こされて朝のふれあいタイムが終わったところだよ。だあ、もう舐めなくていいって!』
顔を上げて何となく天井を見上げながら念話でそう答えると、無視されたと思ったらしいタロンに俺の顎の下側を舐められて悲鳴をあげる。
『あはは、相変わらず従魔達には大人気だな。仲が良くて結構な事だ。じゃあ準備が出来たらリビングへ来てくれ』
『了解、まだ顔も洗ってないから、もうちょい待ってくれよな』
タロンをおにぎりにしてから立ち上がった俺は、とにかく顔を洗いに水場へ向かった。
「うああ、冷たい!」
今にも凍りそうなくらいに冷たい水で顔を洗い、いつものようにサクラに綺麗にしてもらう。
「ほら、行ってこ〜〜〜い!」
サクラをおにぎりにしてから、バスケットボールのフリースロースタイルで水槽に向かって投げる。
綺麗な放物線を描いて水槽にポチャンするサクラ。
「ご主人、アクアもお願いしま〜〜す!」
「アルファもアルファも〜〜〜!」
次々に跳ね飛んでくるスライム達を順番に捕まえてはフリースロー!
「よし、大量得点だ!」
最後にオリハルコンカラーのゲルプを放り投げてから急いで部屋に戻る。
「うう、寒い!」
俺と交代で走って行った水遊び好きな子達が、スライムシャワーで若干遠慮がちに遊んでいるのを見て思わずそう言って笑ったよ。あんなの、見てるだけで寒いって!
「ええと、今日は街まで行くんだから防具はつけておかないとな」
自分で収納していた防具を手早く身に付けていく。
「ううん、この装備もすっかり慣れたなあ。そう言えば、新しく手に入れた盾や短剣なんかの扱い方も教えてもらわないとな。あの小さい方の丸盾は、数が出てくるジェムモンスターとの乱戦の時なんかには役に立ちそうだからなあ。盾や短剣の扱い方もハスフェル達が教えてくれると言っていたから、出来れば本格的に狩りにいく前に一通りは聞いておきたいんだけど、後で頼んでおくか」
手早く身支度を整え、剣帯を身につけてから最後に剣を装着する。
「おおい、リビングへ行くから、そろそろ水遊びは終了にしてくれよ〜〜」
まだバシャバシャと水音がする水場に向かってそう言い、まだベッドで寛いでいる従魔達を振り返る。
「ええと、今日は街へ行くんだけど誰が一緒に行ってくれるんだ?」
慌てたようにマックスとテンペストとファインの狼コンビが水場から走って戻って来て、その後を同じく水遊びをしていたセーブルも慌てて走って来る。
いつものファルコとプティラ以外のお空部隊と鱗チーム、それからティグとヤミー以外の猫族軍団とグリーンフォックスのフラッフィーは今日は留守番するみたいだ。
「じゃあ一緒に行く子達はリビング集合かな」
全員合体してゴールドスライムになったサクラ達がパタパタと飛んで来て、俺の開けたままだった鞄に入って収まる。
「ええと念のために確認だけど、俺がもらっていい狩って来た岩豚ってまだあるよな?」
「もちろんたくさんあるよ〜〜〜! いつでも出すから言ってください!」
鞄の中から元気なアクアの声で返事が聞こえる。
「よし、じゃあまずは朝食だな。ううん、今夜の舞台を考えるとちょっと本気で気が遠くなるよ。一体どんな話になっているのやら」
苦笑いしてため息を吐いた俺は、鞄を手にマックス達を引き連れてリビングへ向かった。
「おはよう。昨夜はまた夜の間に雪が降ったみたいで、かなり積もってるぞ」
「おはよう。あれ、そうなんだ。じゃあまたセーブルとティグとヤミーに頑張ってもらわないとな」
足元にじゃれつく三匹を撫でてやりながら、振り返ったハスフェルの言葉に驚いて窓の外を見る。
このリビングには大きな窓があって、中から東側の外が見えるようになっている。
このお城の窓には、何処も大きめの庇と金属製のブラインド状態になった横向きの格子が付いていて、外で雪が降っても窓を保護出来る様になっている。
確かに、見る限り積もった雪の高さがいつもよりもかなり高い。
「積もるとは聞いていたけど、本当に相当降るんだなあ。春が来ても、この雪が全部溶けるまでって、かなりかかるんじゃあないか?」
鞄から適当にサンドイッチやおにぎりなんかを取り出しながらそう呟くと、ハスフェル達は笑っている。
「まあ、この辺りの山側の雪なら全部溶けるのはかなり後になるが、街道はしっかり除雪もしてくれているし、平地の雪は溶け始めたら早いぞ」
「へえ、そうなんだ。まあ、春の早駆け祭りまでにはハンプールへ行かないとな」
「で、次の舞台のネタを提供するわけだな」
「頑張って三連勝を目指すんだろう?」
「まあ、その前に今日の舞台だよな」
にんまりと笑ったハスフェルとギイの言葉に、俺は顔を覆って情けない悲鳴をあげたのだった。