色々と危険なお風呂タイム!
「はあ……お腹もいっぱいだし、部屋は暖かいし、もう俺ここから動きたくないよ〜〜」
しみじみとしたアーケル君の呟きに同意する声があちこちから上がり、部屋は笑いに包まれる。
あれだけ用意した色んな味のミルフィーユ鍋は、そりゃあもうスープのひとしずくまで残らず綺麗に平らげられた模様。
ううん、絶対余ると思って多めに作ったんだけど、まさかの全鍋完食……この世界の人は、やっぱり食う量がおかしいとマジで思うぞ。
「ふわあ、満足満足」
そしてこちらもスープでベタベタになった毛皮をあっという間に綺麗にしたシャムエル様が、ご機嫌で鼻歌なんか歌いながらもふもふ尻尾のお手入れの真っ最中だ。
大満足で空になった鍋と机の上を綺麗に片付けたあとは、もうダラダラとハスフェルが追加で出してくれた赤ワインなんかを飲みながら過ごし、いつもより少し早めに解散となった。
はあ、良いダラダラ休日を満喫したよ。
「はあ、じゃあもう休むとするか。ええと、明日は街へ行くからまたニニと鱗チームは留守番だな。その後ってどうする? オリゴー君とカルン君が乗れる従魔を欲しがっているらしいから、それを狩る為に、久し振りにちょっと遠出するみたいなんだ。また留守番でいいか?」
なんだかまたお腹が大きくなった気がするニニを、そっと撫でてやりつつそう話しかける。
「そうね。じゃあもうセルパン達と一緒にお留守番してるわ。別に少しくらいなら出掛けてもいいんだけど、お外は寒いもんね」
「元々ニニは寒がりだからなあ。構わないから、それならしばらくお留守番だな。ええとちゃんと食事は食べているよな?」
「もちろん、いつもベリーが用意してくれているわよ」
目を細めたニニの言葉に安心して大きな顔に抱きつく。
「そっか、ゆっくり休んで大事にしてくれよな。子猫が生まれてくるのを待ってるからな」
「うん、私も楽しみ」
嬉しそうにそう言って、甘えるように喉を鳴らすニニはたまらなく可愛い。
「ああもう、どうしてそんなに可愛いんだお前は! 俺を萌え殺す気か〜〜!」
頬のあたりを両手でワシワシとすくように指で毛を撫でてやり、それから顎の下や額の辺りも指を立ててガシガシと掻いてやる。
ニニの喉の音が一層大きくなる。
両手を広げて抱きつき、もふもふなニニの毛並みを堪能した。
「はあ、だめだ。このまま寝てしまいそうだけど、俺は風呂に入るぞ」
なんとか起き上がった俺は、苦笑いしながらもう一度ニニを撫でてやる。
「よし、風呂に行ってくるからな」
「私は濡れるのが嫌だからお風呂には入らないけど、戻ってきたご主人がすっごくあったかいから、お風呂に入ったご主人は大好きよ」
足元にわざとらしくじゃれつく真っ白なタロンの言葉に思わず吹き出す。
「あはは、確かに猫はお風呂は嫌いだろうなあ。気持ち良いんだけどなあ」
苦笑いしながらそう言い、手を伸ばしてタロンの小さな顔を両手でおにぎりにしてやる。
「ニニとタロンばっかりずるい〜〜〜!」
「私達も〜〜〜」
ソレイユとフォールの声と共に、猫族軍団がなぜか全員巨大化して飛びついてきた。ちなみに何故かセーブルまでがティグと同じくらいの大きさになってるし。
「待て待て! お前らは自分の大きさを考えろって! だからそのサイズで舐めるの禁止〜〜〜!」
慌てて飛び掛かってきた巨大なティグの頭を両手で捕まえて押さえる。
とはいえ、このサイズの子達を止められる訳も無く、床に押し倒された俺は両掌をティグの大きな舌で思い切り舐められ、さらには顔と首筋、それから手の甲まで他の子達に一斉に舐められて情けない悲鳴をあげる羽目になったよ。
完全に出遅れてしまったセーブルが、オタオタしながら右に左に動き回って潜り込める隙間を探しているのを見て、俺だけじゃあ無く完全に猫団子状態になってた猫族軍団までが一緒になって大笑いしていたのだった。
「はあ、なかなか風呂に入れないぞ」
猫団子の中に埋もれてしまいそのまま寝そうになったんだけど、なんとか起き上がって抜け出す。
「ええ、せっかく捕まえたのに逃げられちゃったよ〜〜」
甘えたティグの声に、振り返った俺は笑って両手で大きな顔を掴んでやる。
「なんなら一緒に入るか? お風呂は気持ち良いぞ」
「ええ、水なら良いけど、お湯は嫌」
濡れても平気なティグなら一緒に入ってくれるかと思って誘ったんだけど、お湯は自然界には無いからなのか嫌がられてしまった。ううん、残念。
「そっか、そりゃあ残念だ。それじゃあ風呂に行ってくるよ」
何とか立ち上がった俺は、それを見て小さくなった猫族軍団を改めて順番におにぎりにしてから風呂へ向かった。
当然のようにスライム達が一緒に来てくれる。
「お前らは、お風呂大好きだもんな」
「うん、水浴びも大好きだけど、お風呂も気持ち良いもんね〜〜!」
「ね〜〜〜!」
サクラの声に、他のスライム達もご機嫌でそう答える。
人肌温度に温まったスライムは色んな意味で危険なんだけど、まあ一緒に入ってくれる貴重な子達だから俺が気をつければ良いんだよな……。
って事で、まずはお湯を出して湯船をお湯でいっぱいにしておき、その間にサクッと服を脱いでサクラに綺麗にしておいてもらう。
タオル代わりにしている手拭いサイズの布を手にいそいそと風呂場へ入った。
「ああ、この立ち込める湯気。良いねえ、これぞ冬のお風呂って感じだ」
部屋いっぱいに広がる湯気、もちろんかなり暖かくなっているからもう寒くないよ。
ちゃんと掛かり湯をしてから風呂に入った。
「うああ〜〜〜気持ち良い〜〜〜〜」
広い湯船に手足を伸ばして脱力する。頭を湯船に引っ掛けておけば溺れる心配も無いもんな。寛ぐ俺の周りでは、バレーボールサイズになったスライム達が気持ち良さそうに泳ぎ回っている。
普段はアクアの中に隠れているレース模様のクロッシェも、お風呂に入る時はいつも出てきている。
笑った俺は、足元に転がっているレース模様をそっと足の先で軽く蹴飛ばしてやる。
「きゃあ〜〜〜蹴られた〜〜〜」
嬉しそうな悲鳴と同時に、ゆっくりとお湯の中を転がるクロッシェ。そしてその先にいたアルファとベータとゼータに当たり、ビリヤードよろしく弾けて四方に転がっていく。
「あはは、肉球模様が大変な事になってる〜〜〜」
若干酔いがまだ残っていたみたいで、何だかツボにハマってしまいお湯の中を転がるスライム達を見てゲラゲラと笑う俺。
「きゃ〜〜転がって止まらないよ〜〜〜!」
何故か嬉しそうな声と同時に散らばっていたスライム達が、湯船に当たった後に俺に向かって一斉に跳ね返って来る。どう見ても角度的に無理があるからあれは明らかにわざとだ。
「待て待て、色々大変だからそれはやめてくれ〜〜!」
必死で叫んだが俺の静止は全く聞かず、次々に俺の体のあちこちに当たって跳ね返るスライム達。
はうっ、その温かさと柔らかさが色んな意味で危険なんだって! あの……俺の愚息が大変な事になるのでそろそろ勘弁してほしいんですけど〜〜〜!
我慢の限界を感じた俺は、人として駄目になる前に慌てて湯船から飛び出し、ガシガシと石鹸をこすって泡立てた手拭で必死になって体を洗ったのだった。
はあ、危ない危ない。