ミルフィーユサンド鍋の楽しみ方
「何これ、どれも美味すぎるんだけど……」
「だよなあ。どれも美味しいしか言えないよなあ」
「うああ、美味しいすぎる。具が肉と白菜だけなのに、味が違うだけでいくらでも食べられるぞこれ」
早くもおかわりの豆乳鍋バージョンを食べながら、草原エルフ三兄弟が感動に打ち震えている。
それにしてもさすがは最高と謳われる岩豚。スープに染み出す脂の甘みがもうどの味の鍋でもハンパない旨味を醸し出している。
スープだけの時に味見をしたけど、それとはもう全くの別物になっているよ。
俺も密かに感動していたので、同意するようにうんうんと頷く。
「ねえ、このトマト味のが気に入ったからもう少しください!」
同じく豆乳バージョンを食べていると、既に半分以上を平らげていろんなお出汁でベトベトになったシャムエル様に腕を突っつかれた。
「トマト味ね、はいどうぞ」
まだ食べていなかったそれを、半分ぐらいたっぷりと入れてやる。
別に構わないけど、これで俺の分が元々取ってきた分量の四分の一になったぞ、おい。
「いやあ、さすがは岩豚だなあ。白菜がいくらでも食える」
「確かに。こんなに野菜を食うのは初めてかもしれんなあ」
こちらも早くも全種類制覇しておかわりに突入しているハスフェルとギイ、その横ではお椀とお箸を持ったランドルさんも大きく頷いている。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。まだまだあるからしっかり食ってくれよな。それで俺は、ここにご飯を入れるぞ」
具を食い終わって半分くらいの豆乳味の濃厚スープが残ったお椀に、俺はニンマリと笑ってお茶碗からご飯をお箸で一塊摘んでお椀に入れる。
「こうやって解せば、即席雑炊の完成だ。うおお、これまた最高に美味しい。よし、別の味でもやるぞ」
かき込むみたいにして平らげ、少しになっていたトマト味のお椀を見て先におかわりをもらいに行く。
「ケンさん、何めっちゃ美味しそうな事してるんですか! それは是非とも真似させていただきます!」
真顔になったアーケル君が、即座にお茶碗を取り出してご飯をよそり始める。そしてそれを見て慌てて後ろにお茶碗を持って並ぶハスフェル達。
「このチーズカレー味のスープに、このパンをつけて食べるのも美味いですよ」
そう言いながら、オーブンでカリカリに焼いたフランスパンのスライスしたのを、具を食べ終えたカレー味のお椀の中に割り入れているリナさんとアルデアさん。
「ああ、カリカリに焼いたのも美味しそうですねえ。だけど、この丸パンの中に具を挟んで食べるのも良いですよ」
にっこり笑ったランドルさんが、トマト味バージョンの白菜と岩豚のミルフィーユをガッツリお箸で挟み、切り目を入れた丸パンに無理やり押し込んでいる。
「若干無理矢理だけど、確かにあれも美味そうだな。よし、やってみよう」
ミルフィーユの具の方をパンに挟むってアイデアは無かったので、手を伸ばして丸パンを確保した俺は、少し考えてチーズカレーバージョンの具を挟んでみた。
「何これ、美味すぎるよ」
とにかく岩豚の脂がめちゃいい仕事をしているから、どれもスープが激ウマなんだよ。
皆、それぞれに工夫して味わって食べてくれている。
「ねえ、それも食べたい!」
慌てて俺の横にすっ飛んで来て腕を叩くシャムエル様。
「はいはい、好きなだけどうぞ」
苦笑いした俺は、持っていたカレー味ミルフィーユサンドパンをシャムエル様の前に差し出してやった。
「カレースープでこれだけ美味しくなるんだったら、もしかして岩豚でポークカレー作ったら、めっちゃ美味しくなる気がするなあ……」
半分程になったミルフィーユカレーサンドパンをシャムエル様に齧らせつつ、ふと思いついてそう呟くと、全員がもの凄い勢いで一斉にこっちを振り返った。
「ええ、カレーって岩豚でも作れるんですか?」
代表してアーケル君がそう聞いてきたので、半分ほどになったカレー味の鍋を見ながら頷く。
「おう、俺が普段作っているのはビーフカレー、つまり牛肉を使うんだけど、別に豚肉でも鶏肉でも出来るよ。ああ、岩豚でカレーを作って、さらに岩豚トンカツを乗せれば岩豚カツカレーの完成だ。完璧じゃね?」
さらに思いついたアイデアに、全員から大拍手いただきました。
「手伝うから、是非作ってください!」
「カレールウなら、完璧に作れるぞ!」
目を輝かせた全員からお手伝いやります宣言いただきました。
「あはは、了解。だけどもうこれで手持ちの岩豚の残りはほぼ無くなったから、明日街へ行くついでに冒険者ギルドに立ち寄って、また次の岩豚を捌いてもらうように頼んでくるよ。それが出来上がったら岩豚カレーパーティーにしよう。岩豚ステーキとかも乗せても絶対美味いと思うから俺も食いたい」
「是非お願いします!」
またしても起こる拍手。
「あはは、じゃあその時はお手伝いよろしくな」
カレーだけは、大勢でワイワイ言いながら作るのが定番になっている。
笑ってそう言った俺は、喜ぶ仲間達を見ながらかなり小さくなったカレー味のミルフィーユサンドパンの残りを口に放り込んだのだった。