ミルフィーユ鍋バイキングな夕食!
「お待たせ〜〜じゃあ、夕食にしようか」
笑った俺がリビングへ戻ると、何故か机の上は空になったワインの瓶が並んでいた。
「ええ、俺が頑張って夕食の準備をしていたのに、お前らは飲んでいたのかよ」
サクラの入った鞄を椅子に置きながらわざとらしく口を尖らせて文句を言うと、即座に俺の前にワイングラスと新しいワインの瓶が置かれた。
「あはは、素早い対応だな、おい。しかもこれって、俺が美味いから気に入ったって言ったあのワインじゃんか」
「おう、まだまだあるから好きなだけ飲んでくれ」
見覚えのあるワインのラベルを見てそう言うと、ハスフェルがドヤ顔でサムズアップをしてきたので、俺も笑ってサムズアップを返したよ。
「開けるよ。貸してくれ」
それを見ていたギイが、笑いながら瓶を手に取り手早く封をしていた蝋を掻き落として開けてくれた。
この、封をしているワインの瓶を開けるのって俺はあんまり得意じゃあない。ってか、正直に言うとやり慣れていないからなんだろうけど、上手く蝋を落とせないんだよ。なので、俺が使う時はスライム達に開けてもらっているし、飲む時にはいつもハスフェルかギイが開けてくれるんだよな。
「はいどうぞ」
あっという間に栓を開けてくれたギイが、俺の持つグラスに並々と入れてくれる。いくらなんでも、これはちょっと入れすぎだと思うぞ。
「おいおい、どれだけ飲ませる気だよ」
笑いながらそう言ったけど、皆笑顔でワインの入ったグラスを掲げているのを見て俺も並々と入ったグラスを高々と掲げた。
「では、愉快な仲間達に、カンパ〜〜イ!」
「愉快な仲間達にカンパ〜〜イ!」
笑った声が重なり、それぞれにワインを口にした。
「ちなみに今回は、鍋の具は全部同じなんだけどいろんな味のスープで作ってみたんだ。じゃあ順番に出すからな」
火から下ろしてすぐに収納しているので、まだどれも熱々だ。
そう言いながら木製の鍋敷きを並べて、順番にまずは一つずつ並べていく。
「ええと、この鍋の具は、全部白菜と岩豚のバラ肉だよ。これを層になるみたいに重ねてから切って鍋に詰め込んでスープで煮込んであるんだ。で、まずこれがシンプルバージョン。一応スープにも味付けしているけど薄味だから、足りなければポン酢か胡麻だれで食べてくれよな」
そう言って最初に作った和風出汁の鍋を取り出し、ポン酢と胡麻だれの入った瓶も並べてから鍋の蓋を開けると、湧き上がる拍手。
「これは味噌味で、それからこっちが豆乳味だよ。スープも美味しいから一緒に食べてくれよな」
そう言いながら味噌味と豆乳味の鍋も並べて蓋を開けると、また拍手。
「これはトマト味。とろけるチーズも入ってるよ」
だんだん面白くなってきたので、ちょっとポーズを決めながら蓋を開けると、また歓声が上がった。
まあ、見た目的にもトマトスープの鍋にチーズインは確かに嬉しいよな。
「それからこれがカレー味。これは、チーズありとチーズ無しバージョンがあるから、お好きな方をどうぞ」
両手で一気にカレー鍋の蓋を開けてそう言うと、またしても起こる拍手大喝采。
「あとは、ご飯とパンがあればいいな。よし、好きに食ってくれよな!」
そう言っていつものご飯入りのおひつと、カゴに山盛りにしてあるパンを取り出しておいた。
大きめの取り皿用のお椀をありったけ取り出して並べて、俺も争奪戦に参加したよ。
とはいえ、さすがにこれだけ種類があるといつものようなものすごい争奪戦にはならず、割とのんびりと選べて楽勝だったよ。
逆に、皆もいつもの鍋みたいな争奪戦がなくてなんだか拍子抜けしたみたいで、取りながらお互いに顔を見合わせては苦笑いしていた。
「で、どれにする?」
自分用に、豆乳鍋とトマト鍋、それからチーズ入りカレー鍋の三種類を取ってきたところで、待ち構えていたシャムエル様に尋ねる。
「当然、全種類ください!」
小さめのお椀を持って、高速ステップを踏み始めるシャムエル様。
「まあ、そうなるよな。了解、ちょっと待ってくれよな」
苦笑いして、残りのお鍋も順番に取っていく。もちろんポン酢バージョンとごまだれバージョンの両方確保したよ。
人気はトマト鍋と豆乳鍋だったみたいで、残りが少なくなっていたので追加の鍋も出しておく。
「うわあ、まだあったんですね! じゃあ遠慮なく!」
それを見たアーケル君達草原エルフ三兄弟が、目を輝かせてトマト鍋と豆乳鍋に集まってきた。
「あはは、まだまだあるから遠慮なく取ってくれよな。で、どれが良かったか感想を聞かせてくれ」
「了解です! だけど、どれも美味しかったって感想一択な気がしますけどね」
山盛りに取っているアーケル君の言葉に、思わず吹き出した俺だったよ。
って事で、結局全種類取ってきた俺は、まずはいつもの敷布を敷いてからシルヴァ達にお供えする。
「白菜と岩豚のミルフィーユ鍋です。いろんな味で作ってみました、味の違いを楽しんでください。ちょっと飲んじゃってごめんよ。ワインも一緒にどうぞ」
一応ちょっと飲んじゃったけど、さっきのワインも一緒にお供えしておく。あとはご飯もね。
いつもの収めの手が現れて、俺の頭を何度も撫でてから、順番にお椀を撫でては持ち上げるふりをして消えていった。
「気に入ってくれたみたいだな。よし、じゃあ食べよう!」
顔を上げてシャムエル様を見ると、シャムエル様の前には当然のように七つの空のお椀が並んでいて、俺はもう堪える間も無く吹き出したのだった。
「うわあ、やっぱり岩豚の脂のおかげなんだろうけど、スープの時よりめっちゃ濃厚になってて最高に美味しいぞ。何だこれ」
豆乳鍋バージョンを一口食べた途端に目を見開き、あとはもう夢中になって順番に平らげていったよ。
シャムエル様も、トマト鍋の最初の一口を食べて美味しいと叫んだあとは、もう尻尾を三倍サイズに膨らませてもの凄い勢いで爆食してました。
って事で俺は時折ご飯も食べてはワインも飲みながら、シャムエル様のもふもふ尻尾をこっそりともふりつつ豪華な夕食を楽しんだのだった。
はあ、岩豚最高〜〜〜!