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トライロバイト退治と槍の使い方

「それで、どこから行きますか?」

 短剣を手にしたクーヘンに聞かれて、俺はちょっと考えた。

「クーヘンは火の術で戦うんだよな。それなら、水から出て来た方が良いって言ってたから……あっちの方の、百枚皿の浅い所が良いんじゃないか?」

 俺が指差したその場所は、一枚一枚が平たく大きいお皿が重なっている場所で、お皿に溜まっている水がごく浅い為、三葉虫が体半分近く水から出ている。

「ああ、確かにあの辺りなら火の術が使えそうですね。分かりました。では、私はそっちへ行ってみます」

「おう、気を付けてな。ええと、お前らはどうするんだ?」

 振り返ってそう聞くと、少し離れてこっちを見ているマックス達も全員揃ってめっちゃやる気になってる。

「もちろん参加させてください!」

 尻尾フル回転のマックスが答える。

「やるに決まってるわよ!」

「そうですよね。こんな楽しそうなのを見ていろなんて言わないわよね? ご主人」

 ニニとタロンのニャンココンビも巨大化してやる気満々だよ。ってか、その隣には他の子達も全員巨大化して整列してます。

 アヴィとフラールのモモンガコンビは、参加しないようで二匹揃ってハスフェルの所へ飛んで行った。

 そうだよな。あいつらは戦うったって武器はあの小さな爪くらいだから、三葉虫の硬そうな体にはあんまり歯が立ちそうにないもんな。

「じゃあお前らは、そこで見ていてくれよな」

「ごめんね、ご主人。今回はあんまりお役に立てなさそう」

 二匹が揃って申し訳なさそうに言ってくれるので、俺とクーヘンは笑って首を振った。

「良いって良いって。こっちはどう見ても過剰戦力だから、休んでてくれて良いぞ」

 俺達がそう言って笑った時、腕を組んで離れて見ていたハスフェルが口を開いた。

「そろそろ来るぞ。油断するなよ。奴らは跳ねるからな」

 その言葉を聞いて、俺は慌てて剣を握り直した。

 そのまま低く剣を構えて、ゆっくりと百枚皿に近付いて行く。


 次の瞬間、ハスフェルの言った通りに三葉虫達が一斉に跳ねたのだ!

「ひええ〜〜!」

 小さいので20センチ、大きいので40センチ近くある巨大三葉虫達が、一斉に飛び跳ねてこっちへ向かってきた。


 うん、はっきりってちょっとした悪夢である。


 とにかく必死で剣を振り回して、飛びかかってくる巨大なダンゴムシみたいなのを叩き斬った。

「硬っ!」

 まるで石を切ったかのような衝撃が腕まで響く。そして地面に転がるジェム。

「確かに剣で斬れるよ。だけど毎回これじゃあ、腕が持たないぞ」

 数個のジェムが転がったところで、俺の掌が痺れてきた。

 振り返ると、クーヘンは火の術を使って水から出て来たトライロバイトをどんどんジェム化していっている。

「やっぱり魔法は広範囲だから、こういう相手だと有利だよな」

 角の生えた巨大なのが飛び跳ねてこっちへ吹っ飛んでくるのが見えた。

「だから嫌だってば!」

 目標が大きかったので、剣の先で突き刺すみたいにしてやった。

「あれ? あんまり衝撃が無かったぞ」

 見事に串刺しになったトライロバイトが巨大なジェムになって転がった。

「おお、これは亜種だったのか。角も落ちたぞ」

 何度か剣を突くポーズで確認すると、背後からハスフェルの声が聞こえた。

「ようやく気付いたか。こいつは斬撃には強いのだが一点集中の突きに弱い。剣よりもこっちの方が突きやすいぞ。貸してやるから使うと良い」

 振り返ると、一振りの槍を取り出して差し出してくれている。

 慌てて剣を鞘に収めて、駆け寄ってそれを受け取る。思ったよりも少し重いが扱えない訳ではなさそうだ。

「ありがとう、借りるよ」

 槍なんて持った事無いけど、何故か全く不安はなかった。

 剣の時と同じで、俺の身体はちゃんと戦い方を知っている。

 両手で構えて、何度か振って見て頷いた。

「よし、これなら大丈夫だ」


 って事で、後半はひたすら槍で突きまくったよ。面白いくらいにどんどん串刺しになるトライロバイト。そして転がるジェム。

 反撃といえば、不意に跳ねて飛びついてくる程度。それだって、落ち着いて払えば何の問題も無い。

 拍子抜けするくらいに、コツさえ掴めば戦うのは容易だった。


 俺の横の、別のお皿の周辺では、マックスとシリウスをはじめとした従魔軍団が、大喜びでトライロバイトを叩きまくっている。

 プティラとピノのミニラプトルコンビとファルコは、トライロバイトを咥えて、もしくは足で掴んで舞い上がり、地面に叩きつけるというかなり乱暴な手段に出ていた。しかし、これは効果があるようで、見事にジェム化している。

 ラパンとコニー、それにホワイティのウサギトリオとイグアノドンのチョコは、あの大きな脚でサッカーボールよろしくトライロバイトを蹴りまくっているし、巨大化したセルパンは、あの大きな身体で硬いトライロバイトを見事に叩き潰している。

 皆、それぞれ個性的な戦い方でジェムを量産してくれている。


 負けじと俺もガンガン突き続け、そろそろ腕が痺れはじめた頃に、目に見えてトライロバイトの数が減って来た。

「ご苦労さん。そろそろ下がって良いぞ」

 ハスフェルの一声で、その場は終了になった。


「疲れたー! 思っていた以上に硬かったな」

「私も疲れました。さすがにこれだけ立て続けに術を使うと……」

 フラフラになったクーヘンが、濡れるのも構わず百枚皿の段差に座り込んだ。

 俺も足元がふらついてしまい、思わず並んで段差に座り込んだ。

「はあ、さすがに疲れたよ」

 お尻もズボンも、靴の中までびしょ濡れだ。

 大きな深呼吸を一つして振り返ると、散らかったジェムを集めているアクアとサクラ、それからミストの姿が見えた。


「お疲れ様、かなりのジェムが集まったね」

 右肩に現れたシャムエル様の声に、俺は頷いた。

「おう、そうだな、かなり頑張ったぞ」

 苦笑いした俺は、ジェムを集めているスライムを見て、それからクーヘンを見た。

「そう言えば、スライム達があのジェムを集めているのって、クーヘンはどう思ってるんだ? スライムが収納の能力持ちなのは、普通は無いんだよな?」

「ああ、一旦取り込んでそのまま返すのなら、普通のスライムでも出来るよ。だから、彼はスライムが集めたジェムを君が後で受け取って管理してると思っているね。ほら、ドロップも少しだけど集めてるでしょう」

 その声によく見ると、一回り小さいドロップも、確かにジェム集めに参加していた。

「成る程ね。そもそもありえない事だから、誰もスライムが収納の能力持ちだなんて考えもしない訳か」

「そうそう。まあ上手くやってね」

「了解」

 笑って立ち上がると、マックスに乗せている鞍袋から水筒とチョコレートの入った箱を取り出した。

 一つ口に放り込んで水を飲む。

 クーヘンにもやろうと思って振り返ると、彼も自分の鞄から缶を取り出して飴を舐めていた。

「甘い物、ちゃんと持ってるんだ。ならいらないな」

 鞍袋に戻して大きく伸びをした。


「ハスフェル、これありがとう。助かったよ」

 使っていた槍を、まずはハスフェルに返す。

「ああ、上手く扱っていたな。お前も、剣だけじゃなくてこういった武器も持っておくべきだぞ。ジェムモンスターの中には、刃物が効かない奴もいるからな」

「確かにそうだな。ハンマーはもらったのがあるんだけどなぁ」

 苦笑いしながら言うと、ハスフェルはまだ持ったままの槍を見た。

「それならあとは槍だな。今度街へ行ったら探してみると良い。西アポンには、良い武器屋が沢山あるぞ」

「へえ、そうなんだ。西アポンって、橋を渡った対岸の街だよな。じゃあ、戻ったら行ってみないとな」


 笑い合った俺達は、まだ時間があるのでもうすこし奥まで行ってみることにした。

 目的は、大型の草食恐竜だったんだけどね。



 うん、まあ正直言って、このまま終わるとは思ってなかったけどさあ……あれは駄目だよ。

 これまた、とんでもないのが出たんだって。

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