のんびりダラダラ夕食準備
「はあ、ごちそうさまでした。美味しくてちょっと食べ過ぎたよ」
思った以上に美味しかったコーンスープをおかわりした為に、冗談抜きでちょっと食い過ぎたよ。
皆も口々にごちそうさまを言ってくれたけど、やっぱり食い過ぎたみたいで、背もたれに仰け反って撃沈している。
その後は何をするでもなく、なんとなくまったりとした時間が流れる。
達磨ストーブもどきの上でしゅんしゅんと湯気を立てているヤカンを見て、俺は緑茶の美味しいのを淹れる事にする。
いや、これは単に自分が飲みたかったからなんだけどさ。
「はい、緑茶をどうぞ。熱いから気をつけてな」
全員分を淹れてやり、いつもの杯に入れた緑茶をシャムエル様の前に置いてやる。
「ふわあ、ありがとうね。もうちょっとなにか飲みたいと思っていたの。気が利くねえ」
尻尾のお手入れを終えて寛いでいたシャムエル様が、ご機嫌でそう言って杯を受け取る。だけどかなり熱かったのか、飲めないみたいで必死でフーフーやってる。
それを見た俺は、指の先くらいのごく小さな氷を一粒だけ作ってシャムエル様の杯の中へ入れてやった。
「あはは、ありがとうね。ちょうどいい温度になったよ」
みるみる溶けていく氷を見て、嬉しそうに笑ったシャムエル様は両手で杯を持ってグイッと一気に飲み干した。
「おお、豪快にいったなあ」
出来ればお茶はもうちょっと味わって飲んで欲しいが、まあどうやって飲むかなんで個人の自由だよな。
「ううん、美味しい。おかわりってある?」
空になった杯を差し出してそう聞かれてしまい苦笑いした俺は、まだ飲んでいなかった自分のマグカップから取り出したスプーンで何度もすくっておかわりのお茶を入れてやった。
その後はもうする事も無くて、時間を持て余した俺はリビングに備え付けのキッチンで、のんびりと夕食の準備をする事にした。
「もう祭りは終わったから当然なんだろうけど、ずっとシャムエル様が側にいるのがなんだか新鮮だよ」
ついてきたシャムエル様のもふもふ尻尾を笑って突っつきながら、何を作るか考える。
「明日は、観劇で料理が出るんだよなあ。多分またがっつり肉料理が出るだろうから、出来れば野菜を食いたいんだけど……俺は和食の煮物とかでOKなんだけど、ハスフェル達はそれだと全然足りないだろうからなあ。さて、なにを作ってやるかね」
スライム達は、指示待ち状態なので全員揃って俺をガン見している。
「よし、岩豚の肉がまだ少しはあったから、あれを薄切りにして白菜と交互に並べて鍋にぎっしり詰め込んだミルフィーユ鍋にしてやる。あれなら肉もたっぷり入れればハスフェル達でも食ってくれるよな。味付けは師匠特製のポン酢と胡麻だれがあるから、それでいいな。よし、じゃあ作るぞ」
コンロに一番大きな陶器製の土鍋をありったけ取り出して並べておく。
「サクラ、白菜ってまだあるよな」
「うん、たくさんあるよ。どれくらい出しますか?」
ひと抱えくらいはありそうな大きな白菜を一つ机の上に取り出してくれる。
「ええと、十個分くらい仕込んでおくか。それと、岩豚の脂身の多い部位って後どれくらい残ってる?」
「白菜は十個出すんだね。ええと、岩豚のお肉で脂身が多いのならバラ肉かな。塊ならこれがあるよ。まだ有るけどもっと出す?」
サクラがそう言った直後に、どどんとまな板の上いっぱいに取り出された巨大な塊。普通では有り得ないサイズだよ。
「充分だよ。じゃあこれ全部、いつもの薄切りに切ってくれるか」
「はあい、じゃあアクアがお手伝いしま〜す!」
「アルファもお手伝いするよ〜〜!」
さすがにこの塊をサクラ一人でするのは無理だったみたいで、アクアとアルファがサクラにくっついて合体してからバラ肉の塊を一瞬で飲み込む。
そのままモゴモゴと動き始めたサクラ達をそっと撫でてやり、深呼吸をした俺は、他のスライム達にまずは白菜を全部縦に四等分に切ってもらい、葉の間に泥汚れやゴミなんかが入っていたら全部綺麗にしてもらうように頼んだ。
以前の世界と違って、こっちでは野菜の中に虫がいたり泥や枯れ草が入っているのなんて当たり前だ。
これに関しては、洗浄と浄化の能力持ちのスライム達の有り難みを本当に思い知っているよ。
これを自分で全部洗って掃除するとか、絶対無理だって。
「ご主人、全部綺麗になったよ〜〜!」
机の上に山積みになったカットされた白菜の山。
「ご主人、岩豚のお肉も切れたよ。どこに出せばいいですか〜〜?」
バラけたサクラ達がそう言って俺を見る。
「ああ、じゃあお肉は大きいバットにまとめて入れておいてくれるか」
「はあい、じゃあこれだけです」
バットと呼ばれる金属製の、料理用に使っている一番大きなトレーを取り出してそこにバラ肉の薄切りを山積みにしていく。
「うわあ、めっちゃあるなあ。よし、じゃあこんな感じで下ごしらえするからな。見本を見せるから手伝ってくれるか」
そう言って白菜の四等分したのを一つ手に取る。
「こんな感じで、薄く切った肉を葉の間にしっかり端まで挟んでいくんだ。あいつらは肉を食いたがるだろうから多めにな。この、芯の部分は切り落とすから無理に肉を詰める必要は無いぞ」
手で切る振りをして見せると、もうそれだけで理解してくれるんだから最高だよ。
そんな感じでやり方を詳しく説明しながら目の前で一塊分作って見せる。
「分かりました!」
「じゃあこれ全部やればいいんだね!」
「お任せくださ〜〜い!」
初めての作業にめっちゃ張り切るスライム達。
「じゃあ、あとはよろしくな」
って事で、張り切るスライム達に下ごしらえは任せて、俺はお出汁の準備をする事にした。
「あ、鍋がこれだけたくさん有るんだから豆乳鍋とか味噌味とかでも良さそだな。よし、ミルフィーユ鍋でいろんな味を作るぞ」
自分の思いつきに嬉しくなった俺は、ニンマリと笑ってまずは出汁を取るために一番大きな寸胴鍋を取り出して水を入れて、カットした出汁昆布を入れて火にかけたのだった。