いつもの朝の光景
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……」
翌朝、いつものように従魔達総出で起こされたんだけど、胸元のもふもふフランマを抱きしめた俺は、残念ながら目を開く事が出来なかった。
「全く、相変わらず起きないねえ」
「そうですねえ。でもまあ今日はお休みだって言っていましたから、このまま休ませてあげても良いのでは?」
遠くでシャムエル様とベリーの笑っている声が聞こえる。
「うん……今日は、お休みなんだ、って……」
そこまで言った時、フランマが俺の喉元に甘えるみたいに鼻先を突っ込んできた。
フランマの鼻は、犬と違って濡れていないからくっつかれても平気なんだよ。
俺は首周りにくっついて来たもふもふの毛を半ば無意識に撫でてやった。
「ああ、何これ……超幸せ……」
大きな欠伸をしながらそう呟いたんだけど、その後の記憶は俺には無い……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、だから今日は、休み、なんだってば……」
相変わらずの従魔達総出のモーニングコールに、いつの間にかタロンに変わっていた腕の中のもふもふを抱きしめながら答えた俺は、ニニのすっかり大きくなったお腹の下へ潜り込もうとした。
その時、軽い羽音と共に俺の腕に舞い降りたお空部隊に俺は慌てて起きてるアピールをしながら目を開いた。
「うわあ、起きてるって!」
しかし時既に遅し。
横向きになって寝ていた俺の耳たぶの上下二箇所と上唇横をガリッとやられたよ。
「痛い!」
俺の悲鳴に、胸元にいたタロンがすっ飛んで逃げる。当然、俺の腹を思いっきり蹴っ飛ばして。
「げふう!」
まさかの鳩尾へのキック攻撃に一瞬息が止まる。
そのまま背中から転がったところで羽ばたく音がして、お空部隊の面々が逃げていく。
反対側に起きて座っていたマックスの、モコモコなお腹に頭から突っ込んで止まる俺。
「おう、これはまたいつもと違う良き腹毛だぞ」
頭を突っ込んだままそう呟くと、後頭部から首筋の辺りをマックスに思いっきり舐められてしまい、またしても悲鳴を上げて転がる羽目になったのだった。
「だから、今日は休みなんだからゆっくりするって言ったじゃんか」
なんとか起き上がって文句を言うと、ニニのお腹の上に立っていたシャムエル様が、呆れたように俺を見てわざとらしいため息を吐く。
「あのね、もうとっくにお昼過ぎてるんだけどねえ。いくらなんでも寝過ぎじゃない?」
カーテンの開いた窓を見たけど、どうやら今日は曇り空のようで差し込む光は見えない。
「あはは、もう昼過ぎてたのか。じゃあ起きるよ。ええと、ハスフェル達は?」
「ハスフェルとギイは、部屋にいるけどもう起きているよ。ランドルさんも起きてるねえ。リナさん達は、さっき起きてリビングに誰もいないのを見て、部屋に戻って寛いでるね。だけどアーケル君はお腹が空いたとか言って、自分で買い込んでいたパンをこっそり食べていたよ。飲み物がないのに食べ始めてから気付いてショックを受けていたね」
ケラケラ笑いながらそんな報告をされてしまいなんだか申し訳なくなった俺は、小さなため息を吐いて立ち上がり、とにかく顔を洗いに水場へ向かった。
いつものように顔を洗ってサクラに綺麗にしてもらってから、跳ね飛んでくるスライム達を水場へ放り込んでやる。今日の投げ方は、バスケットボールのフリースロースタイルだ。これだとあんまり疲れないから、俺は楽でいいよ。野球のピッチャー投げは疲れるので、もうやらない。
『おおい、そろそろ起きて欲しいんだけどなあ』
身支度を整えようと収納していた胸当てを取り出したところで、遠慮がちなハスフェルからの念話が届く。
『ああ、おはようさん。寝過ごして悪かったな。今身支度しているところだから、すぐに行くよ』
『おはよう。急かすみたいで申し訳ない。じゃあリビングにいるよ』
『おはようじゃあリビングで』
笑ったギイの声も聞こえて、俺も笑いながら胸当てを装着しようとして考える。
「そっか。もう、今日は休憩って言っていたんだから別に装備する必要は無いよな。鎖帷子は着ているんだし、もうこれだけでいいか」
小さく笑っていつもの服の上から、以前街へ行った時に見つけて買ったモコモコの毛糸のセーターを着てみる。
立体的な模様が入った割と太めの毛糸で編まれているんだけど、これがびっくりするくらいに暖かいんだよ。
なんでも、川漁師達が寒い季節の漁をする時に着ているセーターらしく、いろんな柄があるんだとか。
「本当にあったかい。よし、じゃあ今日はこれを着て心置きなくゴロゴロするぞ〜〜!」
大きく伸びをしてそう宣言した俺は、戻って来たスライム達を引き連れて、サクラが飛び込んでくれた鞄を手にリビングへ向かったのだった。