お城への帰宅と明日の予定
「それじゃあ、お疲れ様でした!」
すっかり綺麗になった会場を後にした俺達は、いつものように専用厩舎の部屋で待っていてくれたマックス達を引き取り、満面の笑みのスタッフさん達とギルドマスター達に見送られてすっかり暗くなった夜道をランタンを灯してお城へ戻って行った。
街の中は並足くらいのゆっくり進み、貴族達の別荘地のあるところは早足くらいの速さ。アッカー城壁を超えたらもう、あとはマックス達に任せて好きな速さで走ってもらい、積もった雪の間に出来た獣道をわっさわっさと雪を跳ね飛ばしながら一気に駆け抜けていった。
さすがに毎日街まで通っていると、積もった一面の雪の中にもなんとなく道っぽいものが出来上がってきたよ。
「ええと、確か例の舞台は二日目って言っていたから明後日だな。じゃあもう明日は休憩でいいか?」
お城が見えて来たところで、ふと思いついて隣を走るハスフェルにそう話しかける。
「ああ、例の姉妹をお誘いしている舞台だな。それなら二日目だから、もう明日は休憩でいいんじゃあないか?」
笑ったハスフェルの答えに、俺も笑顔で頷く。
軽い気持ちでお誘いしたら、二人してめっちゃ喜んでいたもんなあ。それにしても、今度の舞台は一体どんな風になるんだろう。早く見たいような、絶対見たくないような複雑な気分だよ。
二度目の早駆け祭りの騒動を思い出して、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
「到着〜〜〜!」
雪をかき分け到着した広い玄関で、いつものように濡れた体や従魔達の体をスライム達に綺麗にしてもらう。
「お前達もよかったな。最後にご馳走いっぱいもらえて」
笑った俺が、廊下を歩きながらあちこちに転がっているスライム達に話しかけると、一斉にスライム達が大はしゃぎし始めたよ。
「すっごく美味しかったで〜〜〜す!」
「それにスタッフさん達も優しかったよ!」
「うちで働かないかって言われました〜〜〜!」
「あ! それアルファも言われた〜〜〜!」
「ゼータも、同じ事言われました〜〜〜!」
「皆、笑ってたもんね〜〜!」
「凄い凄いって大喜びしてくれました!」
「楽しかったで〜〜〜す!」
大はしゃぎするスライム達の報告に、思わず苦笑いする俺だったよ。
あれ、間違いなく即行で商人ギルドの名目でテイマー募集の広告を大々的に出していそう。
「どうなんだろうな? もし募集がかかったら、応募するテイマーとかいるかな?」
思わずそう呟くと、笑ったハスフェルが自分のスライム達を順番に大きな手でおにぎりにしながらこっちを見た。
「そりゃあいるだろうさ。冒険者なんて、それなりに腕がある奴でもよほどの貯金でもない限り怪我の一つもすれば下手すりゃ即座に借金生活だ。後遺症でも残って冒険者を続けられなくなったりしたら、その瞬間に色々終わるぞ。安定して雇ってくれるところがあれば、よほどの理由がない限り喜んで応じると思うぞ」
苦笑いしながらのその言葉に、なんとなく納得する。
確かに、冒険者って言ってみれば個人事業主のフリーランスな訳で、確かに安定した収入があるのならそっちへ行く奴はいそうだ。
「確かにスライムなら、テイマーになった奴ならほぼ間違いなく数匹程度なら最低でもテイム出来る。それを商人ギルドに貸し出して安定した収入を得られるのなら、確かに嬉しいかも。そんな理由であったとしても、テイマーになってくれる奴が増えてくれれば、俺は嬉しいけどな」
『そうだな。まあその辺りの匙加減は、シャムエルに任せるけどな』
にんまりと笑ったハスフェルの念話で届いた言葉に、思わず驚いてシャムエル様を探した。
『ええ、それってシャムエル様の采配なんだ。ちょっとあんまり大雑把にしないようにお願いしておかないと!』
思わず焦ったように念話でそう言うと、なぜかハスフェルとギイの二人が揃って吹き出しかけて咳き込んでいた。
「あれ? 街を出る時は肩にいたと思ったけど、どっかで落としたか?」
だけど肝心のシャムエル様がどこにもいない。慌てて周りを見たけど、どこにも落っこちていないし。
『ああ、シャムエルなら改めて神殿へ戻ったよ。今夜のうちには戻ってくるさ。祭りの最後に無事に務めを終えた神官達に祝福を贈る役目があるからな』
俺が何を探しているのか気づいたギイが、こっそり念話で教えてくれる。
『ああ、成る程。最後にそんなお役目があるんだ。そっか、じゃあそれはシャムエル様のお仕事だからしっかり頑張ってもらおう』
笑った俺の念話の言葉に、小さく吹き出すハスフェルとギイだった。
「じゃあ、もうすっかり遅くなった事だし、もう解散でいいな。ええと明日はもうゆっくりしてもらって、明後日は例の舞台があるので、明るいうちに街へ行きましょう」
「ああ、確かにずっと毎日人の中にいたのでちょっと疲れましたね。じゃあ、明日は休日って事でゆっくりしましょう」
笑顔で頷くランドルさんの言葉にアーケル君達も揃って頷く。
「次回の舞台は、ランドルさんもきっと登場しますよ。どんな風なんでしょうねえ」
にんまりと笑った俺は、そういってランドルさんの太い腕を突っついてやった。
「ブフォ〜〜!」
不意打ちだったらしいランドルさんの突然吹き出した変な音に、俺達も不意打ちを食らって揃って吹き出してしまい、廊下で全員揃って大爆笑になったのだった。