打ち上げの終了
「ふああ、もうお腹いっぱいだね」
ハスフェル達から追加の肉の塊をもらっていたシャムエル様は、満足そうなゲップと一緒にそう言うと、お腹を上にして机の上に寝転がった。
もふもふ尻尾は、脚の間に投げ出されているんだけど、ちょっと触るのを躊躇するレベルにベチャベチャになってる。
「おいおい、自慢の尻尾が大変な事になってるけど良いのか?」
からかうみたいにそう言って、尻尾じゃなくて横の机を指で叩いてやる。
いや、正確に言うと尻尾だけじゃあなくて全身大変な事になってるよ。これがペットだったら飼い主大激怒で速攻シャワータイムだぞ。
「うん……もちろん綺麗にするけど……お腹一杯で幸せなの……」
目を細めてそう言ってるシャムエル様は、確かに幸せそうだ。
「まあ、自分で綺麗に出来るんだもんな。別に、放っておいていいよな?」
「いいんじゃないか。好きにさせておけ」
笑ったハスフェルが、お皿に残っていた最後の分厚い肉を指で摘んで口に放り込んだ。
「冗談抜きで、お前らとシャムエル様がどれだけ食ったんだかマジで聞いてみたいぞ。いつも思うけど、お前らの胃袋ってどこかに穴空いてるんじゃあないか?」
割と真顔の俺のツッコミに、ハスフェルとギイは揃って大笑いしていた。
ちなみにシャムエル様は机の上でへそ天状態で爆睡中だよ。
「まあ、この祭りはこいつのための祭りなんだから好きにさせてやれ。と言っても、さすがにこれは酷いな。ちょっとボロ雑巾みたいになってるぞ」
油とタレで全身ベタベタのネチョネチョになっているシャムエル様を見て苦笑いしたハスフェルは、大きな両手を爆睡中のシャムエル様の上にそっとかざした。
そのまま包み込むようにしてシャムエル様を完全に両手で覆ってしまう。
ごく軽く、押し込むような仕草をして両手を上げると、もうそこにいたのはいつものもふもふ尻尾と全身ふわふわなシャムエル様だった。
「ああ、浄化してくれたのか」
笑ってそう言うと、ハスフェルも笑って頷きながらそっとシャムエル様の横っ腹を突っついた。
「まあ、あのまま放置したらゴミと間違えられそうだったしな」
「ゴミと間違えられる創造主様って、なんだよそれ」
思わずそう言って吹き出すと、ハスフェル達も揃って吹き出していた。
「はい、ちゅうも〜〜〜く!」
その時、一回だけ手を叩く大きな音がしてヴァイトンさんの声が聞こえた。
会場中の人達が一斉にヴァイトンさんに注目する。
「皆食ったか〜〜〜?」
「はあい! 美味しくいただきました〜〜〜!」
笑い声と共に、あちこちから元気な返事が返る。
皆、食うだけじゃあなくて相当飲んでいたと思うんだけど、酔い潰れている人は皆無。いやあ凄いねえ。
「よおし。それじゃあ片付けを始めるから、まだ残っているやつはとっとと食って飲んでくれよな! それで食い終わった奴は、お皿と空瓶を片付けてくれ」
もうほぼ全員が食い終わっていたみたいで、その声を合図にスタッフさん達が一斉に立ち上がった。
「さてと、それじゃあまた出て来てくれるか」
俺が小さな声でそう言うと、ベルトに付けていた小物入れからスライム達がわらわらと飛び出して来た。当然だけど、ハスフェル達のところからも集まってきたし、会場内にいたリナさん達やランドルさんのところからもスライム達が跳ね飛んで集まってくる。
「じゃあ、また手伝わせてやってください。ゴミや食べ残しでいらない物も、全部あげてください」
笑った俺がスライム達を引き連れてヴァイトンさんのところへ行くと、拍手大喝采になった。
「スライムちゃん! こっちこっち!」
「こっちにも来てくれ!」
「はあい! 今行きま〜〜〜す!」
あちこちから声がかけられて元気よく返事をしたスライム達が、一斉に空になった焼き台や、汚れた食器を集めている机に跳ね飛んでいく
『金色合成やクリスタル合成は絶対に禁止だぞ』
『はあい、了解で〜〜〜す!』
分かっているとは思うけど、念話を使って一応念を入れておく。
「ほう、汚れた食器まで綺麗にしてくれるのか」
感心したようなヴァイトンさんの呟きに、俺は笑顔で頷く。
「テイムしたスライム達は知能が上がっているから、教えれば食べてはいけないものを覚えてくれますよ。まあ、最初のうちは失敗する事もあるでしょうけどね」
冗談抜きでヴァイトンさんはテイマーを雇う気満々になっているみたいなので、万一を考えてそう言っておく。
「ケンさんのところの子達もそうだったのか?」
真顔で聞かれて一瞬どう言おうか考えて口籠ると、何故かそれで納得してくれたみたいだ。
「そりゃあそうか。誰にだって新人の頃には失敗だってするよな。もちろん分かっているよ」
うんうんと頷きながらそう言われて、俺も誤魔化すみたいに笑って肩をすくめた。
浄化の能力を持っているのは俺とハスフェル、それからギイのスライム達だけで、リナさん達やランドルさんの子達はそんな技は無い。だけど見ていると、お皿やカトラリーくらいは充分綺麗になっているし、鉄板だってマルっと飲み込んで吐き出すと、それなりに綺麗になっているみたいだ。
「改めて見ると、手も無いのに器用なもんだよな。それに何だか楽しそうだ」
感心したように笑ったヴァイトンさんの言葉に、俺達も笑顔で大きく頷いたよ。
確かに、お手伝いしているスライム達は、皆とっても楽しそうにしているよ。
「テイマーや魔獣使いがもっと増えてくれたら、きっとこんな光景も当たり前になりますよ」
なんだか嬉しくなってそう言うと、ヴァトンさんもこれ以上ないくらいのいい笑顔でうんうんと頷いてくれたのだった。