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大掃除と打ち上げ準備

「いやあ、驚きだよ。スライム達にこんな事が出来たとはなあ」

 腕を組んだヴァイトンさんは、すっかり綺麗になった会場内を見回して、先ほどからもう何度もこのセリフを言ってはうんうんと頷いている。

 汚れていたゴミ箱まで全部綺麗にしたスライム達は、今はギルドのスタッフさん達と一緒に表の道へ出ていて、屋台を出していた人達のところを回って、売り物にならなくなった焦げたり乾いたりした、処分する残りものを始め、各屋台で出た生ゴミなんかを集めて貰っているところだ。

 屋台の人達も最初は驚いていたんだけど、俺の名前を聞いて納得したらしく喜んでゴミを渡してくれたらしい。

 あっという間に大量のゴミを片付けてしまうスライム達を見て、スライムをテイムするにはどうしたらいいのかと真剣に悩み始める人が続出したらしい。

 ううん、必要は発明の母だよ頑張れ! あれ、ちょっと違うかな?

 だけど、もしかしたらあの様子だと本当にそのうちスライムくらいならテイム出来る人が、商人達の間でも出てくるかもね。

 シャムエル様曰く、魔獣使いになれるほどの強い力を持った人は限られるらしいけど、テイマーになれる程度の素質のある人は、実はかなりの数がいるそうだからね。

 俺はもうずっと笑っていて、外が見える扉の内側で暖を取りながらご機嫌で歓声を上げては次々に出されたゴミを平らげているスライム達を眺めていた。



「ああ、そろそろ打ち上げの会場準備が出来るみたいだなあ。おおい、差し入れなら何でも歓迎だぞ」

 ようやくスライム達が戻って来たところで、満面の笑みのヴァイトンさんに肩を叩かれた俺は、同じくらいににっこりと笑ってさりげなく小物入れの蓋を開けた。

 当然心得ているサクラが一瞬で俺の小物入れの中へ戻って来て飛び込んでくれる。

「もちろん喜んで差し入れますよ。ええと誰に渡せばいいですか?」

「ありがとうな。なんでも大歓迎だよ。じゃあ、向こうのスタッフ達に渡してくれるか」

「了解です。ええと、何を出そうかねえ」

 わざとらしくそう呟きながら、大きな机の上で肉の包みを取り出し始めたスタッフさん達のところへ駆け寄った。

「ああ、もう切ってあるんだ」

 机の上には幾つもの金属製の調理用のバットが並べられていて、三分の一くらいまでぶつ切りになった肉が並んでいる。他には、タレに漬け込んだ肉や野菜と一緒に串に刺したものもあるみたいだ。

「じゃあやっぱりこれかなあ。ええと、ここで切ったりも……ああ、出来るんですね」

 業務用なのだろう、大きなまな板と肉切り包丁が並んでいるのを見てにっこりと笑った俺は、そこにいつも使っている10キロくらいに切り分けた岩豚の肉の塊をそのまな板の上に取り出した。これは煮て良し焼いて良しなバラ肉だよ。

「ええ〜〜〜〜〜!」

 目の前の肉が、何の肉なのか理解したのだろう。悲鳴をあげるスタッフさん達。

「ちょっ、ケンさん! 何出してるんですか!」

 真正面で肉を見たスタッフさんが、割と本気で叫んで慌てている。

「何それ、自慢ですか!」

「やめてくれ〜〜〜〜目の毒だよ〜〜〜!」

 あちこちから上がる悲鳴。

「ええ、せっかく出した差し入れなのに文句言われたし。よし、もっと出してやる」

 笑ってそう言いながらもう一塊大きめのを取り出して隣に並べる。

「これは、俺からの、差し入れ、です! めっちゃ美味いから、遠慮なく食ってくれ! それからこれもな。ハイランドチキンの胸肉ともも肉。こっちがグラスランドチキンの胸肉ともも肉です!」

 さらに上がる悲鳴を見て、ついでにもう一塊岩豚の肉をおまけで取り出したんだけど、もうまな板の上には載せるところが無かったので、空のバットを取ってそこへ勝手に並べたのだった。



「本当にありがとうございます〜〜〜〜〜!」

「よし、これは俺が切る!」

「じゃあこっちは俺が切ります!」

「私にも切らせて〜〜〜〜!」

 肉の山に嬉々として群がり、早速手際よく切り始めるスタッフさん達。

 どうやら調理担当スタッフ達の間で、誰があの岩豚の肉を切るかで密かな争奪戦があった模様。

 満面の笑みのスタッフさん達全員からお礼を言われた俺は、後はやりますからどうぞ座っていてくださいと言われてしまい、大人しく言われた席に座った。

 ハスフェル達は、先ほどまで机やコンロを運ぶのは手伝っていたが、調理準備が始まった途端にさっさと戦線離脱して椅子に座ってしまった。

 まあ、彼らは力仕事担当って事だな。

 次々に大きな鉄板に肉が並べられ始めた時、ガチャガチャと音がしてまた別のスタッフさん達が台車を押して戻ってきた。

 台車に乗った積み上がった木箱の中身が何かなんて考えるまでもない。

 ハスフェル達と顔を見合わせた俺達は、にっこり笑って立ち上がり、お酒の入った大きな瓶を運ぶのを手伝ったのだった。

 ちなみにアーケル君達は、お皿やカトラリーを入れたこれまた大量の重い木箱を手持ちの収納袋に一旦入れて、こっちへ来てそこから取り出すと言う、ある意味冒険者ならではの豪快な運び方をしていた。

 だけど聞けば、重量物を運ぶ時なんかは収納袋を活用する人も多いらしい。

「確かに、あそこへ入れておけば重さは関係ないし安全だもんな。お皿なんか、運んでいる途中に割る心配無くなるしさ。それにしてもよく考えたら、この世界って俺のもといた世界よりも相当色んな事が便利だよなあ。そもそも、運ぶ物の重さや量を考えずにある程度までは自由に運べるなんて、向こうでは考えられないよ」

 小さくそう呟きながらふと、大型量販店の新店オープンの時の搬入口に並んだトラックの大行列と、全社員総動員の地獄の荷下ろしと荷運びタイムを思い出してしまった俺は、一人黄昏れてちょっと遠い目になっていたのだった。



「さて、準備は佳境に入っているようだが、そのまま聞いてくれ。手の空いている者は、ちゅうも〜〜〜く!」

 踏み台に上がったヴァイトンさんの大声に、手が空いて集まって来ていたスタッフさん達の注目が集まる。

 俺達も慌ててそっちを見た。

「間も無く打ち上げが始まるが、その前に一つ! 今から表彰式をするぞ〜〜〜!」

 踏み台の横には冒険者ギルドマスターのガンスさんの姿も見え、俺達は顔を見合わせて慌てて立ち上がったのだった。

 ええ? もしかして、ここで人気投票の表彰式、やってくれるんですか?

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