洞窟へ!
無事にテイム出来たので一旦その場を離れた俺達は、ハスフェルの案内で林の側にある草地で、まずは昼食をとる事になった。
「あ、おかえり。お腹いっぱいになったか?」
丁度、草地に到着して準備を始めようとしたところでニニが戻ってきた。上空にはファルコの姿も戻っている。
それを見てマックスとシリウスが、二匹揃って狩りに出かけた。
ニニは、少し離れた所で転がって満足そうに身繕いを始めている。
「さてと、野外の昼ご飯なら手早く食べられるこの辺りかな?」
大きい方の机の上に、屋台で買った各種サンドイッチやバーガーなどを並べて置き、それぞれのカップにコーヒーを入れてやる。
それからリンゴを一つ出してやり、ナイフで小さく切ってアヴィとフラールに食べさせてやった。残りはチョコが芯まで平らげてくれた。
各自、好きに取って食べ始めるのを見て、俺もタマゴサンドと野菜サンドを手に取った。
「それじゃあこの後は、またあの洞窟か?」
野菜サンドを齧りながらそう聞くと、大きなバーガーを3口で食ったハスフェルが、コーヒーを飲みながら頷いた。
「ああ、今日はお前達には、洞窟にいるブラックトライロバイトと戦ってもらうつもりだよ。余裕があれば、草食系の大型恐竜とも戦ってみると良い。クーヘンの炎の術や、ケンの持っているその武器ならまあ何とかなるだろうからな。いざとなったら俺が手伝ってやるよ」
ハスフェルの言葉に、俺は残りの野菜サンドを飲み込んで首を振った。
「絶対王者以外なら何でも良いよ……いやいや! んな事言ったって肉食系は絶対無理だからな!」
満面の笑みで何か言いかけたハスフェルを見て、俺は先にそう叫んで必死で首を振った。
ミニラプトルでもあれだけ怖かったのに、自分と同等かそれより大きい肉食恐竜と戦うって、どれだけ無茶クエストだよ。絶対無理だって!
「何だ、ブラックディノニクスがいるから、良いならそこへ連れて行ってやろうと思ったのに」
「謹んで遠慮させていただきます! 草食系が良いです!」
俺の叫びに、クーヘンも一緒になって必死で頷いていた。
食べ終わって少し休憩してから、またハスフェルの案内であの洞窟へ向かった。
マックス達が戻るまで、俺とハスフェルは歩きだ。
「それならケン、私の後ろに乗ってくださいよ」
チョコの横に立ってクーヘンがそう言ってくれた。
「良いな。そうさせてもらえ。それなら俺は、ニニに乗せてもらおう」
ハスフェルは、どうやらニニの上でも平気なようなので、俺がチョコに、ハスフェルはニニに乗せて貰って洞窟へ向かった。
見覚えのある白っぽい石が散らばる草原を抜け、洞窟の入り口に到着する。
「またあそこへ行くのか。いやいや、絶対大丈夫。皆がついてるんだから!」
クーヘンが手綱を握りしめて、不安げな小さな声で呟いている。
「任せろって。俺も洞窟の中でも方角が分かるからさ」
そうなんだよ。前回、洞窟の中で思った。確かに、どっちが入り口のあった方角なのかが分かるんだよ。
多分、これが以前シャムエル様が言ってた体内磁石ってやつの効果なんだろう。うん、これも有難い能力だよね。
「おお、さすがですね。分かりました。では、よろしくお願いします」
振り返ったクーヘンの嬉しそうな声に、俺も笑って頷いてやった。
チョコとニニから降りた俺達は、ランタンに火を入れて準備をしていると、マックスとシリウスが戻って来た。
「早かったんだな。お腹はいっぱいになったのか?」
笑ってマックスの鼻先を撫でてやる。
「ええ、シリウスと一緒だと、狩りがとても楽ですよ」
嬉しそうなマックスを抱きしめてやり、全員揃ったので一緒に入る事にした。
ハスフェルを先頭に、クーヘンとチョコ、俺とマックスやニニ達の順で洞窟の中へ入って行った。
その時、俺達の横を小さな揺らぎが通り過ぎて行った。
「奥へ行くのなら、大丈夫だとは思うけど無茶はしないようにな」
まあ、何しろケンタウロスだから大丈夫だとは思うけど、やっぱり心配になるよ。
「ええ、私もこの程度の洞窟なら簡単に道は分かりますから大丈夫ですよ。でも、心配してくださってありがとうございます。ええ、無茶はしませんよ」
笑った声が聞こえて、揺らぎは見えなくなった。
「そう言えば、ベリーも収納の能力持ちなのか?」
あれだけのジェムをどうやって運んだのか気になってそう呟くと、肩に座っていたシャムエル様が笑って頷いた。
「ケンタウロスは、知識の精霊って呼ばれているけど元は幻獣だからね。収納は全員が持っているよ」
「そっか、それなら果物はベリーに渡しておいても良かったんじゃないか?」
歩きながらそう聞くと、シャムエル様は驚いたように顔を上げた。
「だって、一緒に旅をするんだからさ。食料は、ケンがまとめて持っていてくれた方がいいかと思ったんだけど、迷惑だった?」
「いや、全然。だけど、ベリーは自分で持ってる方がいつでも好きに食べられるかと思っただけだよ。まあ、俺はどっちでも構わないよ。俺達だって、ちょっとは果物も食べてるからさ」
肩を竦めてそう言って、足元の大きな段差を乗り越えた。
しばらく狭い通路を通り、到着したのは以前とは違う、これまた大きな百枚皿のある広場だった。
「うわあ、ちょっとすごい光景だな」
「そうですね。虫系が苦手な人は、叫んで逃げ出しそうな光景ですね」
苦笑いした俺達の目の前は、百枚皿の一つ一つから、掌ぐらいはある平べったい三葉虫達がウジャウジャ湧いて出てきている光景だったのだ。
「ちなみに、クーヘンはあれって大丈夫か?」
「ええ、私は平気ですね。ケンは?」
「俺も平気。ってか、俺はあそこにいる奴らをもっと近くで見たくてウズウズしてるよ」
その言葉に、クーヘンは堪えきれずに吹き出した。
「気が合いますね。実は私も、もっと近くで見たくて仕方がなかったんです」
「だよな! あれは絶対どうなってるのか見たくなるよな!」
顔を見合わせて吹き出した俺達は、揃ってハスフェルを見た。
「なあ、あれって俺達でも倒せるって聞いたけど、実際にはどうやって倒すんだ?」
腕を組んで見ていたハスフェルが、俺の質問に振り返った。
「ああ、クーヘンの火の術はかなりの効果がある。水の中から出てきた所をやっつけてやると良い。ケンの持っているその剣も、トライロバイト程度なら普段と同じに斬れるぞ。ただし、あの時々いる角のある奴は気を付けろ。あれは亜種だからな」
「了解、亜種って事は、あの角も取れるのか?」
「ああ、だが短いから剣にはならない。ナイフ程度だな。それよりも、砕いて粉末にして錬成の際に混ぜる強化アイテムとして使われる。工房都市へ持って行けば、大喜びで高値で買ってくれるから、売らずに置いておくと良いぞ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ頑張って集めないとな」
すると、足元にいたアクア慌てたように伸び上がった。
「ご主人! 報告してなかったね。さっきベリーが、まだ渡してなかったねって言って洞窟の入り口で追加で渡してくれたよ。ブラックトライロバイトの亜種の角、2239個とジェムが995個、それからブラックラプトルの亜種のジェムが59個と爪が118個、ブラックイグアノドンの亜種のジェムが295個と爪が590個、ブラックステゴサウルスの亜種のジェムが306個と背板が大小合わせて3060個だよ!」
その突然の報告を聞いて、俺はまたしても気が遠くなった。
亜種のジェムの事を言わなかったから、てっきり恐竜にも亜種は無いのだと思っていたのに、まさかの渡し忘れ。
いや、これって絶対確信犯だろう。一気に渡すと俺が遠慮すると思ったんだろうよ。
周りを見たが、もうベリーは何処にもいない。
うん、外へ出たら、これは絶対ハスフェルにも半分押し付けてやろう。
「さてと、あれは洞窟最弱のジェムモンスターらしいから俺達でも戦えるんだって。だから、少しは自力でジェムを確保しないとな」
ゆっくりと剣を抜いた俺を見て、クーヘンも真剣な顔で頷き短剣を手にした。
俺達は、顔を見合わせて頷き合い、二人並んでゆっくりと百枚皿にいるブラックトライロバイトに近付いて行ったのだった。