スライム達へのご褒美!
「まもなく、スライムトランポリンは全て終了となります。まだチケットをお持ちの方はお急ぎください」
先ほどから定期的に聞こえている終了のお知らせの声に、見張り台の上にいた俺は安堵のため息を吐いた。
かなり前に最終の乗合馬車が到着してからあと、もう会場内の人は減る一方なんだけど、それでもこうして見てみるとまだまだかなりの人数が残って遊んでいるのが分かる。
「チケットの払い戻しなんてないだろうから、まとめ買いしていてまだ残っている人なんかは大変だろうな」
苦笑いしつつ、チケットを手に走って列に並ぶ人達をのんびりと眺めていた。
その後も何度も終了間近を知らせるアナウンスは続き、なんとか行列も無くなりここで本当の終了となった。
「これにて全て終了です。皆様、お疲れ様でした」
最後はヴァイトンさんの声でアナウンスが流れ、会場内は拍手喝采となったのだった。
俺も見張り台の上に座ったまま、拍手をしたり口笛を吹いたりしてずっと笑っていた。
会場内にお客さんがいなくなったところで、開けっ放しだった大きな扉が全て閉められ、もう一度スタッフさん達の拍手が沸き起こる。
アーケル君達は残ってくれていたので、まずはそれぞれのスライム達を集めてもらった。
「お疲れさん、大きな事故も問題も起こさず、よく頑張ってくれたな」
目の前にいつものバスケットボールサイズになって整列するスライム達にそう話しかけ、順番におにぎりにしてからベルトの小物入れへ入れてやる。
一瞬で小さくなったスライム達が次々に小物入れの中に詰まっていき、まずレインボースライム達が金色合成してピンポン玉よりも更に小さくなる。
それから、メタルスライム達も同じように順番におにぎりにしてから小物入れの中へ入れていき、こちらもクリスタル合成したところで、更に二匹が合体して金色になる。これは聞くところによると単に金色とクリスタルがくっつき合って一体化しているだけで、金色合成とは違うらしい。ううん、よく分からん。
って事で、これも全部まとめて明後日の方向へぶん投げておく。
「お疲れさん。よく働いてくれたスライム達をしっかり労ってやってくれよな」
笑ったヴァイトンさんの言葉に、俺も笑顔で振り返る。
「ああ、お疲れ様です。スライム達も楽しんでいたみたいだから、全然大丈夫ですよ。ええと、もうこれで全部終了ですよね? この後ってどうするんですか?」
確か打ち上げがあるって聞いた覚えがあるんだけど、ここでするのかな?
俺の質問ににっこりと笑ったヴァイトンさんは、大きく頷いた。
「おう、今片付けをしているチームと、打ち上げ準備をしているチームに分かれてもう一働きしてもらっているところさ。向かいの解放していた会場の掃除もしなきゃならんから、後片付けだけでもかなり大変なんだよ。だけどまあ、それが終われば焼肉で打ち上げだからな。なんだかんだ言いつつ、皆張り切ってくれているよ」
その言葉に思わず俺は考える。
「向かい側の掃除って、もしかして……ゴミ拾いとかですか?」
「それもあるなあ。何しろ、この気温だからなあ。ほとんどの人が、建物の中で飲み食いしていたわけだから、そりゃあ汚されたりゴミが大量に出たりしているんだよ」
苦笑いしながら肩を竦めるその言葉に、俺の小物入れが音を立てる。
どうやらヴァイトンさんの声が聞こえていたスライム達が暴れているみたいだ。
分かった。お前達の言いたい事はよく分かったからちょっと待て。
「あの、それじゃあそのゴミはスライム達にください! 絶対大喜びしますって!」
驚くヴァイトンさんに、俺は小物入れの蓋を開ける。
まるで手品のように次々に跳ね飛んで出てくるスライム達。会場内にいたハスフェル達やリナさん達、ランドルさんの連れていたスライム達までが、聞こえていたみたいで次々にこっちへ集まって来る。
「良いですよね?」
「ええ、一体何をするんだ?」
集まってきたものすごい数のスライム達を見て目を見開いて固まるヴァイトンさんの腕を叩いた俺は、にっこり笑ってずらっと並んだスライム達を示した。
「こいつらは、野生のスライムと違って食っちゃいけないものと食ってもいいものの判断がつきます。なんなら一緒に行きましょう。ほら!」
そう言いながらヴァイトンさんの腕を掴んでそのまま会場を出て道路を挟んだ向かい側の建物へ駆け込むと、こちらももうお客さんはいなくなっていて、コマ付きの大きなゴミ箱を引っ張ったスタッフさん達が、散らかるゴミを集めて回っていた。
「みなさん、お疲れ様です! ええと、ゴミは全てスライム達が片付けますから、とにかく集めていただけますか! それから床が汚れている箇所があれば言ってください。それも全部スライム達に掃除させます。これは働いてくれたスライム達へのご褒美なので、遠慮せずに全部持ってきてください!」
両手を上げて出来るだけ大声でそう言うと、一瞬静まり返った後に拍手大喝采になった。
「本当によろしいんですか?」
大きなコマ付きゴミ箱を引きずったスタッフさんが駆け寄ってくる。当然ゴミ箱はもうあふれんばかりのゴミが入っている。屋台で出た油紙や竹串、使い捨ての葉っぱや薄く削った木のお皿も大量にある。
俺のいた世界に比べたら、リサイクルするものも多いが、こういった場ではやっぱりかなりのゴミが出るみたいだ。
「もちろんです。じゃあここにその中身全部ぶちまけてください!」
「ええ、ですが……」
戸惑うスタッフさんからゴミ箱を受け取った俺は、にっこり笑ってそのゴミ箱をゆっくりと倒して中身を全部ぶちまけてやった。
「よし、食っていいぞ!」
「わあい、いっただっきま〜〜〜〜す!」
まるでいつものシャムエル様みたいな声を上げたスライム達が、一斉にゴミに群がる。
そりゃあもう、一瞬で全部無くなったよ。
「ああ、もう無くなっちゃった〜〜〜!」
「もっとくださ〜〜〜〜い!」
「我々にも〜〜〜!」
「食べる権利を〜〜〜〜!」
俺のスライム達だけでなく、他の皆のスライム達もワラワラと集まって来て、綺麗になった床を前に揃って抗議の声を上げ始めた。
「分かった! じゃあ適当に会場内に散らばってスタッフさん達からゴミを貰ってくれ」
『絶対に金色合成とクリスタル合成はするんじゃないぞ!』
「はあ〜〜〜い!」
最後は念話でしっかりと注意してから手を振ってやると、元気に返事をしたバスケットボールサイズのスライム達が一斉に会場内へ跳ね飛んで散らばって行く。
最初はビビっていたスタッフさん達も、集めたゴミを全部食べているスライム達を見て、もう途中からは大喜びで集めて来て渡してくれたり、中にはスライム達を連れて会場内を案内するスタッフさんまで現れて、もう俺とヴァイトンさんは途中からゲラゲラと声を上げて大笑いしていたよ。
まあそんな感じで、食事用に解放していた広かった場所の掃除も終わり、元の会場へ戻ってこちらで出たゴミも全部スライム達が片付けてくれたところで、もう一度拍手喝采になったのだった。
スライム達の働きっぷりを見ていたヴァイトンさんは、本気で今後、商人ギルドで魔獣使いやテイマーを雇うべきだと考え始めていたらしい。
まあ、スライム達がいれば、ゴミ問題は全部解決するだろうからな。
きっとこれからはテイマーや魔獣使いも俺達だけじゃあなくどんどんと増えてくるだろうから、新人のソロのテイマーでも活躍出来る新たな働き口が出来たみたいだよ。
頑張れ、将来のテイマー達!