人気投票の最終順位は?
「お疲れさん。あともう少しだな」
昼休憩を終えて、すっかり習慣になった食後の散歩を兼ねた場内一周中に、笑顔のヴァイトンさんが話しかけてきた。
「ああ、お疲れ様です。もう今日でお祭りも終わりかと思うと、何だか寂しいですよ」
広い会場内を見回しながらそう言って笑うと、ヴァイトンさんはそれはそれはとても良い笑顔でうんうんと大きく頷いた。
「いやあ、これは受けるだろうとは思っていたが、予想を上回る大盛況だったよ。素晴らしい提案をしてくれたケンさんと仲間達にも心からの感謝を」
「俺も、皆が喜んでくれて嬉しいですよ」
笑ったヴァイトンさんと握手を交わしたところで、何故かにんまりと笑って背中を叩かれた。
「ところで、忘れているかもしれんが、雪像の人気投票の集計が間も無く終わるよ。もし投票券を持っていたら、忘れずに投票しておいてくれよ」
その言葉に、まだもう少し持っていた投票券の存在を思い出した。
「ああ、忘れてた! ありがとうございます! すぐに行って……いやいや、スライム達全員と言葉が通じる俺はここにいないと、何かあった時に即座に対応出来ないでしょうが!」
ううん、投票券をどうするべきだ?
割とマジで困りながら考えていると、にっこり笑ったヴァイトンさんは何故か外を指差した。
「ここの通りに出している屋台も、当然だが投票券を配っているんだよ。それで、スタッフ達から街の会場まで投票に行けないって抗議が出てな。確かにお客さんからも、せっかくもらった投票券を使えないと言われたので、急遽昨日からギルド管理の臨時投票所を設けているんだ。まあ、当然雪像はここには無いから、リストを見て投票してもらう訳だけどな」
何か言いたげなヴァイトンさんを、俺は無言で見つめる。
「もしかして……」
「まあ、自分の順位は自分の目で見てくれたまえ。ちなみに投票は三時までで、集計はギルド本部で行われる。結果がわかるのは五時の予定だ」
もう一度背中を叩かれて、俺は笑ってお礼を言って外へ駆け出して行った。
成る程。建物を出た右側の壁面には、初日には無かった大きなテントがあって、会議机みたいな横長の机がいくつも並べられている。
机の上には大きな投票箱が並べられていて、数が多い人には横に控えたスタッフさんが個別に投票を受け付けている。
「じゃあ、急いで並ばないとな」
投票券は自分で収納していて良かったと割と本気で思いつつ、俺は一番手前側の列に並んだ。
「はい、投票ありがとうございます。ではこちらを全て『愉快な仲間達パート2』に投票で受付いたしました」
笑顔でそう言ったスタッフさんが、もの凄い勢いで渡した投票券に受付済みのチェックをしていき、隣にいた別のスタッフさんの手によってチェック済みの投票券の束が『愉快な仲間達パート2』の名前が書かれた大きな鍵付きの箱に入れられていく。
「じゃあ、よろしくお願いします」
壁面の掲示板に大きく書かれた自分のチーム名を見ながら、何だか照れ臭くなった俺は、スタッフさんにお礼を言ってすぐにその場を離れたんだけど、後ろに並んでいた冒険者らしき二人組が、これまた投票券の束を取り出しながら俺達のチーム名を言ってくれている声が聞こえて、思わず振り返ったよ。
目が合ったその二人組は、俺ににんまりと笑いかけて揃ってサムズアップをしてくれた。
「投票ありがとうございま〜〜す!」
にっこり笑ってサムズアップを返した俺に、その周りにいた人達の何人もが、自分達も投票したよと声をかけてくれた。
何だか嬉しくて何度もお礼を言いながらちょっと目がうるうるしてきてしまい、もう途中からは必死になって誤魔化したよ。
「うう、俺達のチームが〜〜〜〜〜!」
行列から離れて建物の中へ入ったところで壁面に移動しながら思わずそう呟いて、あまりの嬉しさにぴょんぴょんと飛び跳ねてしまう。顔はもうさっきから笑み崩れているよ。
だって、だって今朝の段階までの投票の集計結果は、俺達の『愉快な仲間達パート2』が何と一位を爆走中! 僅差でアーケル君達の『草原エルフ一家』が第二位で、その後も、これまたものすごい僅差で雪祭りの常連なのだという『ドワーフの杯』と『北の一番星』が続いている。
スタッフさんによると、もうこの4チームが上位を占めるのは間違いないらしい。
だけど、毎日集計を取る毎に順位が入れ替わるくらいに本当に僅差らしく、今日の投票次第な部分が大きいんだって。
「マジか〜〜〜それって今一位だからって全然安心出来ないって事だよなあ。だけどまあ、これくらいの僅差の方が、見ている方は絶対面白いよなあ」
もう完全に他人事気分な俺は、そんなことを考えて苦笑いしつつも、自分のチームが現状一位と書かれていた掲示板を思い出して、また一人笑み崩れる不審な奴になっていたのだった。
ああ、最終集計の結果を早く知りたい!