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平和な理由とお祭りの終わり際

「ううん、どれもすっごく美味しいんだけど、残念ながら俺の腹に入る量は有限なんだよなあ。って事で、差し入れ分も含めて残りは自分で収納しておくか」

 一応空のお皿も何枚か収納してあるので、弁当の残りはそこに取り出して適当に盛り合わせ直してから収納しておく事にする。

「ううん。このおにぎりだけでも、俺ならあと二食分くらいは余裕であるぞ。だけど本当にどれも美味しいんだよなあ。ご飯だって冷めてもすっごくもちもちしていて甘いし、パンだってお肉だってどれも美味しい。まあ、何であれ食事が美味しいのは良い事だよな。ちょっと量がバグってるだけだって」

 笑った俺は小さくそう呟き、空になったお弁当箱を手に取り、机の上に置いたままになっていた、飲んでいなかったジュースの瓶を見る。

「ええとこれって……まあ、また後で飲んでから返せばいいか」

 そう考えてとりあえずジュースの瓶はそのまま収納しておく。

 それから、腹ごなしにまた会場内をゆっくりと歩いて回り、ついでに張り切っているスライムトランポリン達の様子も見て回った。

 どこのスライムトランポリンからも、楽しそうな悲鳴や笑い声が聞こえて、その度に俺も笑顔になったよ。

「良いねえ、これでこそお祭りって感じだ」

 小さく笑ってそう呟く。それから、歓声を上げて手を繋いだままミニサイズのトランポリンに飛び込んでいく親子の姿を眺めていた。

「なんか良いよな。頑張ってな」

 親子が飛び込んで行ったスライムトランポリンをそっと撫でてやり、またのんびりと会場内を歩いて定位置へ戻った。



「おう、おかえり。特に問題無しだよ。思うにバイゼンの人達はハンプールの人達より大人しい気がするなあ」

 椅子から降りてきたハスフェルの言葉に、同じ事を考えていた俺は思わず笑って大きく頷いた。

「ああ、それは俺も思っていたなあ。確かハンプールでスライムトランポリンをやった時って、もうちょい忙しかったよなあ。わりと揉め事とか横入りとかが頻発していたと思うんだけどなあ」

「だよなあ。何が違うんだ? 冒険者も多いし職人達も大勢いるんだから、もうちょい賑やかになるかと思っていたんだがなあ。残念だよ」

「待て待て、にっこり笑って何物騒な事を言ってるんだ。平和で良いじゃあないか。皆行儀が良くてさ」

 確かに何もなさ過ぎて若干不安になるけど、揉め事が多発するよりはずっと良いので、このまま平和でいてくれた方がいいって。

 慌てたように俺がそう言った時、背後で誰かが吹き出す音が聞こえて慌てて振り返った。

「ああ、ヴァイトンさん。どうしたんですか?」

 俺の背後で吹き出していたのは、商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんで、笑いを収めて俺達を見たヴァイトンさんは、なぜか凄く嬉しそうにサムズアップした。

「街からここまで、全員が乗合馬車で来ているだろう。雪の中を進むから割と時間があるんで、その間にスライムトランポリンに参加する際の注意事項を説明しているんだよ。これが案外皆、聞いてくれているんだなあ」

 うんうんと嬉しそうにそう言って笑うヴァイトンさんを見て、俺とハスフェルは思わず顔を見合わせた。

「ええと、具体的にはどんな事を話しているんですか?」

 ちょっと興味を引かれたので聞いてみる。

「いや、大した事は言っていないよ。お前さん達が教えてくれた、武器や突起のある防具についての取り扱いに関する注意事項や、きちんと並んでもらう事。あとは横入りをしないとか、まあ一般常識的な事だよ」

 その程度なら、まあ当然と言えば当然の注意事項だろう。

 となると、やっぱりこの街の人達が意外に大人しいって事なのかなあ?

 若干納得が出来なくて、ハスフェルと二人して首を傾げていると、にっこり笑ったヴァイトンさんは俺達を見てひとつ頷いた。

「ああ、最後にこれも言っているなあ。今回のスライムトランポリンはお試しの意味もあるので、もしも何らかの問題が起れば、以降は開催しないってな」

「絶対、皆が大人しいのってそれのせいじゃん!」

 思わず叫んだ俺は、間違ってないよな。

 そりゃあ、あれだけ皆が大喜びで遊んでいるスライムトランポリン。もしも何らかの揉め事が起きてもうやらないってなったら、その揉め事の犯人は、間違いなく街中の人達から吊し上げを食らうよ。下手をすりゃあフルボッコされるかも。

 にんまりと笑って頷くヴァイトンさんに、俺達二人は揃って乾いた笑いをこぼしたのだった。

 いやあ、さすがは商人ギルドの長だねえ。人の考え方や行動の原理をよく理解しているよ。

 そんな感じでのんびりと平和で楽しい時間が過ぎていき、無事に二日目も終了した。

 またしても超デカい弁当をもらい、俺達は揃って小雪がちらつく中をお城まで戻ったのだった。



 それから残り二日も同じように全員揃って朝からここに来て、一日働いてサイズのおかしい弁当箱をもらっては雪の中をマックスに乗って帰る日を過ごした。

「何だかサラリーマン時代に戻ったみたいだなあ。朝起きて出勤して、一日働いてお昼には休憩もあって、昼と夜の食事付きだもんなあ。めっちゃホワイトじゃん」

 最終日の昼食を食べ終えた俺は小さく笑ってそう呟き、また半分は残ったので自分で収納して空っぽになった大きな弁当箱に蓋をしたよ。

「お疲れ様。とうとう長かったお祭りも最終日だねえ。いつも思うんだけど、お祭りって、この終わる時の何とも言えない寂しさみたいなものがあって、実は私はこれも好きなんだよねえ」

「ああ、分かる気がするなあ。何とも言えない寂しさ。あるある」

 うんうんと頷く俺を見て、シャムエル様も笑っていた。

「今回は、皆の笑う声をいっぱい聞けたから、私もすっごく楽しかったよ。あのね、参拝に来てくれている子供達の何人もが、このスライムトランポリンの話をしていたよ。また来年もやってくれるかなあ、ってさ」

「ああ、せっかくあんな大きなお城を買ったんだからさ。春と夏と秋は、ハンプールの早駆け祭りに参加するんだから、あの辺りを中心に動く事になるから、冬はここでのんびり過ごすのも良いかもな。狩りがしたくなれば庭の地下にはダンジョンまであるんだしなあ」

 苦笑いしながらそう言うと、シャムエル様は何故か大笑いしながら何度も頷いていたよ。

「あそこのダンジョンも、かなり大きいからねえ。しかもまだ育っている最中だし、最終的に、どこまで育つのか、すっごく楽しみだよ」

「ちょっと待て! 今なんつった? あのダンジョンって……まだ成長中?」

「ああ、言っちゃった。後でびっくりさせようと思って楽しみにしていたのに〜〜〜〜!」

「水晶樹の森があり、絶対王者まで出るあのダンジョンが、まだパワーアップするってか? 勘弁してくれ〜〜!」

 ジタバタと机の上で暴れるシャムエル様を見てちょっと気が遠くなったんだけど、これは俺は悪くないよな?

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