大量の差し入れと昼食!
「じゃあ、ここで渡しちゃいますね」
休憩室前に到着した俺達は、とりあえず邪魔にならないように少し離れた壁際に集まったよ。
にっこり笑ったアーケル君が、手にした収納袋からもの凄くいい匂いのする包みを次から次へと、とめどなく取り出してくれる。
「いやいや、一体どれだけ買ったんだよ」
受け取りながら苦笑いする俺に構わず、延々と出し続けるアーケル君。しかも持っている収納袋の中身を出し終わると、次の収納袋を即座にオリゴー君やカルン君が渡している。
どうやら屋台の定番串焼きのお肉だけじゃあなくて、肉団子やソーセージにフランクフルト、焼き魚やおにぎりなんかも大量にある。そして、これもと言って渡されたのはなんと大きな寸胴鍋で、中身はめっちゃ美味しいスープらしい。
他にも、パンケーキや焼き菓子、クレープなんかの甘味も大量にあるみたいだ。
もちろんそれだけの訳はなく、サンドイッチ各種にはじまりホットドックやハンバーガー。そしてなんとここでベーグルの登場。聞けばアーケル君達はこの新製品のパンが気に入ったらしく、彼らも自分用にまとめ買いしているんだって。おお、ベーグル好き仲間発見だよ。
「これは俺も以前別の街で見つけて買った事があるんだけど、ハスフェル達はあんまり口に合わなかったみたいで、全然減らなかったんだよ。だから、これは俺専用にして一人で食べていたんだ。もう無くなってちょっと悲しかったから、また手に入って嬉しいよ。ありがとうな。今度売っているお店の場所を教えてくれよ」
「ええ、そうなんですか? 美味しいのに。でもまあ、確かにちょっと好みはありそうですよね。ケンさんは大丈夫ならよかったです。ええと、もしお口に合わないのがあったら、遠慮なく言ってくださいね」
「いやいや、どれもめっちゃ美味しそうですっごく嬉しいよ。それにしてもタダでこんなに沢山貰って、なんだか申し訳ないな」
「いやいや、ケンさんこそ何おっしゃるんですか。いつも俺達がどれだけご馳走になっているか」
総額幾らになるのか考えてなんだか申し訳なくなってそういうと、割と真顔で突っ込まれた。
「あはは、ありがとうな。じゃあ遠慮なく頂きます!」
「はい、そうしてください!」
笑って手を叩き合い、冗談抜きでこれは業務用の仕入れだろうってレベルの差し入れの引き渡しが完了した。
「時間取らせちゃって申し訳ありませんでした。明日からは家に戻ってから引き渡しますね」
空になった時間遅延の収納袋を確認しながらオリゴー君達だけじゃあなくて、後ろで見ていたリナさん夫婦やランドルさんにも渡している。
それが終わると、笑ったアーケル君達は手を振って会場へ戻って行った。一緒にいたリナさん達も、引き渡しが済んだのを見てそれぞれ散って行ったよ。
「ああ、そういう事か。今日の分は、全員分の差し入れだったからあんなに大量だったんだな。自力で収納出来て良かったよ」
正直に言うと、予想以上の大量の差し入れに全部入る自信は無かったんだけど、一応大丈夫だったみたいだ。
シャムエル様によると、もしも限界を超えて無理に収納しようとすると、弾かれるみたいな感じがして入れられなくなるから、すぐに分かるんだそうだ。
「そう言う事なら、まだまだ全然大丈夫っぽいよな。冗談抜きで、俺の収納って今どれくらいなんだろうなあ」
苦笑しつつそう呟き、とにかく腹が減ってるのでまずは自分の食事をいただく事にしたよ。
「お疲れ様です。こちらのお弁当をどうぞ。それから差し入れが来ておりますので、よかったらお好きにお取りください、でも残さないようにね」
休憩室の入り口にいたスタッフさんから、昨日と変わらないくらいの大きな弁当箱と飲み物の瓶を渡され、さらに大きなお皿を一枚渡される。
「おいおい、一体どれだけ差し入れてくれたんだよ」
苦笑いしつつ部屋に入った俺は、目の前に積み上がった大量の串焼きと揚げ物、それからおにぎりの山を見て、堪える間も無く吹き出したのだった。
しかも、どのスタッフさんももらった弁当箱を置いて嬉々として山盛りに差し入れを取っている。
細い女性でも、おにぎり三つに串焼き三本に揚げ物山盛りはおかしいと思う。俺だとあれで一食分は余裕である。
やっぱり、この世界の人達は食う量がおかしい。絶対ここだけバグってるよ。
遠い目になった俺は、いざとなったら収納するつもりで一応一通り一つずつ差し入れも取り分けてから席についた。
「で、今日は何が入っているのかなあ。かなり重かったから……うわあ、おにぎりがぎっしり!」
俺の感覚では余裕二人前サイズの弁当箱の中に入っていたのは、半分を埋め尽くす大きなおにぎりで、全部で六個入っていた。しかも一つの大きさがコンビニおにぎり二個分くらいは余裕でありそうだ。
やっぱり、この世界の人達は食う量がおかしい。
そして弁当箱の残り半分を埋め尽くす勢いで、分厚い照り焼きチキンが胸肉丸ごと一枚入っていた。はっきり言って超デカい。サイズがおかしい。
これは以前鉱夫飯でも出た、青鶏っていう普通の倍くらいあるって聞いたバイゼンで人気のあの鶏肉なんだろう。
それ以外にもこれまた巨大なソーセージが丸ごと一本と、申し訳程度のブロッコリーが一切れ、それから何故か、きゅうりの漬物っぽいのが入っていた。あ、これはちょっと嬉しいかも。
「もうこの照り焼きだけでお腹いっぱいって感じだよなあ。一応食べやすいように切ってくれてあるのか。ええと一切れでいいか?」
いつの間にか弁当箱の横に現れてもの凄い勢いで横っ飛びステップを踏むシャムエル様を見る。
「じゃあここに、いろいろお任せでお願いします!」
さっきもらった差し入れ用のお皿よりも大きなお皿を差し出されて遠い目になった俺は、諦めのため息を一つ吐いてからお皿を受け取り、おにぎりを丸ごと一つと、照り焼きも真ん中の大きいところを一切れ、それから差し入れの串焼き肉を一つ外して並べ、揚げ物はナイフで三分の一くらいを残して大きい方を並べた。
差し入れのおにぎりは、もうこのまま収納するつもりなのでそのままにしておく。
「はいどうぞ。もしも足りなかったら言ってくれよな」
瓶の中身はリンゴジュースだったので、ちょっと考えて自分で収納していた水筒を出しておく。
それから食べる前に手を合わせて、いつものシルヴァ達にお供えだ。
いつもの収めの手が俺を撫でてから弁当を順番に撫でていき、最後にシャムエル様の尻尾を突っついてから消えていくのを見送った。
「よし、届いたな。じゃあ俺も、いただきます!」
改めて手を合わせた俺は、大きな照り焼きを一切れ、豪快に口に入れたのだった。
ううん青鶏の胸肉、肉厚で超ジューシーだよ!