スライムトランポリン二日目!
「うひゃあ。今日もものすごい人出だなあ。これ、絶対街の商店はガラガラだろう」
食事を終えて、いつものように留守番組をお城に残した俺達は、巨大化したセーブルを先頭にいつものように雪を掻き分けてラッセルしながら街へ向かった。
到着した倉庫街は、早朝にもかかわらず既に大勢の人であふれていて、屋台は大賑わいを見せている。
向かい側に開放されている倉庫へ、屋台で買い込んだものを抱えて駆け込んで行く人達を見て、ちょっと羨ましかったのは内緒だ。
いいなあ、俺も自分で屋台巡りしたいよう……。
「じゃあ、また後で!」
「頑張ってくださいね。また、たっぷり差し入れしますから!」
従魔達を昨日と同じ場所に預けた俺達は、リナさん一家と別れてから建物の中へ入っていった。
当然、リナさん一家のスライム達も預かっているよ。
「よし、じゃあ昨日と同じ場所でいいな。皆、今日も頑張ってな〜〜!」
「はあ〜〜〜〜い! 頑張るよ〜〜〜!」
スライム達は元気な返事の後、それぞれ昨日と同じ場所へ跳ね飛んで行き、あっという間にくっつき合って巨大トランポリンになった。
小さいスライムトランポリンも、昨日と同じ場所に並べていく。
「おはようございます!」
チケットもぎり役のスタッフさん達が、俺に気付いて駆け寄って来てくれる。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
笑顔で挨拶すると、揃って一斉に挨拶を返してくれた。ううん、さすがに統率取れてるなあ。
俺はまた、見張り用の背の高い椅子に登って座り、のんびりと周囲を見渡す。
チケットもぎり役のスタッフさん達が、それぞれ自分が担当するスライム達にそっと手を当てて話しかけている姿があちこちに見えて、なんだか嬉しくなる。
ここのスタッフさん達は、ほんとうにスライム達を大事にしてくれているのが分かるよ。
スタッフさん達に優しく話しかけられて、大喜びで張り切るスライム達の元気な返事を聞かせてあげたい。
時折こっちに向かって手を振ってくれるスタッフさんに俺も手を振り返し、そろそろ時間になってきたので閉まったままの扉を振り返る。
今日もきっと大盛況なんだろう。
久々に働いてるって気分になった俺は、小さく笑って背筋を伸ばした。
「おはようございます! それでは時間となりましたので、只今より開場となります。本日も事故の無いよう充分に注意してください! それではよろしくお願いします!」
ギルドマスターのヴァイトンさんの声が響き、スタッフさん達の元気な返事が聞こえる。俺も笑って大きな声で返事をしたよ。
そしてゆっくりと扉が開かれ、昨日と同じくらい、いやそれ以上の大勢の人達がゆっくりと進んで来たのだった。
「危険ですから、走らないでくださ〜〜い!」
「ご希望のスライムトランポリンの列に並んでください! 大きさに関わらず一回一枚です。チケットのご用意をお願いしま〜〜す!」
「きちんと列にお並びください! 横入りはいけませんよ〜〜!」
「押さないでください。小さなお子様の手は、必ず繋いで離さないようにお願いいたします!」
開始早々、スタッフさん達の注意を促す大声があちこちから聞こえる。
どうやら昨日の評判を聞いて集まってきた観光客が多いみたいで、昨日よりも若干治安が荒れ気味だ。
ハスフェル達もあちこち走り回って、横入りしようとする人達を止めて、にっこり笑って後ろへご案内している。
ううん、適材適所って言葉が実践されているよ。俺だったら間違いなく鼻で笑われて終わって、誰も俺の言う事なんて聞いてくれないだろうからな。
苦笑いした俺は、新入社員の頃に初めて行った量販店の新店オープンのお手伝いの時、オープン初日の朝一番、数量限定特価商品の掴み合いをする人達に弾き出されて鼻血を噴いた時の事を思い出して、ちょっと遠い目になって黄昏ていたのだった。
「はあ、そろそろ腹が減ってきたぞ。ううん、ほぼ座っているだけだけど、それでも腹って減るもんなんだなあ」
平和すぎて少々退屈気味な俺は、小さくそう呟いて収納していた水筒を取り出して一口飲んだ。
ありとあらゆるバリエーションの笑い声や悲鳴が賑やかに響き渡る会場内は、だけど心配した程の無法地帯にはならず、まあ時折横入りしようとする人がつまみ出されたり、並んでいる時に押した押さないで揉めている人がいる程度で、特に大きな揉め事も問題も無く平和に過ぎていた。
いや、もしかしたら裏では色々あったのかもしれないけど、一応ここから見る限り大きな揉め事は起こっていない。
時々、スライム達に悪戯しようとする人達に念話を通じてハスフェル達にお願いして注意をしてもらったくらいで、本当に拍子抜けするくらいに平和だ。
「お疲れ様で〜〜す! 今日は早めに差し入れ持ってきましたよ〜〜〜!」
その時、足元からアーケル君達の声が聞こえて、俺は笑って下に向かって手を振り返した。
ちょうどタイミング良く、ハスフェルがこっちに来ているのも見えたので、ようやくお待ちかねの休憩時間のようだ。
「ああ、来ていたのか。俺は今からケンと交代だよ」
笑ったハスフェルが、アーケル君達に笑いかけて笑顔で手を叩き合ってる。
「今日は俺もいますよ」
三兄弟の後ろにはランドルさんとリナさん夫婦の姿も見える。
「おやおや、お揃いだな」
ちょうど見回りに来ていたヴァイトンさんの声に、皆が笑顔で振り返る。
俺は、座っていた椅子から降りてアーケル君達と手を叩き合った。
「ああギルドマスター! 俺達、何にもお手伝いしていないのに、食事まで用意していただいてありがとうございます。昨日のお弁当、昼も夜もめっちゃ美味かったです!」
「いやいや、お前さん達のスライム達はしっかり働いてくれているんだから、主人であるお前さん達も当然スタッフ扱いだよ。弁当くらい気にせず食ってくれ」
笑ってアーケル君達の背中をバンバンと叩くヴァイトンさん。
「あはは、ありがとうございます! じゃあまた遠慮なくいただきます! でも、さっきお弁当をいただくついでにあっちの休憩所にも沢山差し入れしておきましたから、よかったら食べてくださいね!」
「おお、そうか。それじゃあ有り難くいただくとするよ」
これまた笑顔でバンバンと背中を叩くヴァイトンさん。そろそろやめないと、アーケル君の背骨が心配になるレベルだ。
「じゃあ、見張りはよろしく」
笑った俺はハスフェルと交代して、ヴァイトンさんに挨拶してからアーケル君達と一緒に休憩場所へ向かった。
彼らはもうお弁当はもらったらしいんだけど、まずは午前中に集めて来た分をまとめて渡してくれるらしいよ。
君達、一体どれだけ買ってきたんだ。全部収納出来るかちょっと不安になった俺だったよ。