快適お風呂タイム!
「うああ〜〜〜やっぱり良い湯加減だよ〜〜〜〜」
準備をして温かいお湯を張った湯船に肩まで浸かった俺は、思わずそう声を上げてしまう。だって本当に気持ちいいんだからこれは仕方がないよな。
ゆっくりと深呼吸をした俺は、完全に脱力した手足を伸ばして全身で暖かなお湯を満喫していた。
ぼんやりと湯船に浸かりながら周りを見ると、一緒にお風呂に入って来ていたスライム達が、楽しそうに湯船の中を右に左に泳ぎ回っている。
透明の色付き水みたいな中に肉球マークがあり、それがあちこち動き回っているのはなかなかにシュールな光景だよ。
普段はメタリックな金属的な輝きを放っているメタルスライム達も、お湯に入ると不思議な事にメタリックには違いないんだけど何故か半透明になる。要するにメタリックに見えていても、やっぱりスライムである以上元は透明だって事なんだろう。
レース模様のクロッシェも、ここでは遠慮なく姿を現していて伸び伸びと泳ぎ回っている。
近くに来たクロッシェを手を伸ばしてちょっとだけ突っついてやると、ニュルンと伸びた触手が俺の指に一瞬だけ絡まってすぐに離れた。
クロッシェのこの遠慮がちな甘え方が、もう堪らなく可愛い。
「ここならゆっくり遊べるな」
笑ってそう言い、両手で水鉄砲を作ってクロッシェに向かってお湯を軽く撃ってやる。
「迎撃しま〜〜す!」
何故か急に張り切ったクロッシェが、お湯をぽこって感じに飲み込んでこっちに向かって吹き出して攻撃してきたよ。
まあ、攻撃といっても緩めのホースから出たくらいの水量なんだけど、これが何故かいつまで経ってもお湯が止まらない。どれだけ吸い込んだんだよ。
「ぶわあ! ちょっと待て、降参降参! 溺れるって!」
ザバザバと顔面に噴射されるお湯鉄砲の威力に負けた俺は、慌てて顔の前に両手を上げてお湯を遮りながらそう叫んで湯船の端へ逃げる。
「勝った〜〜〜〜!」
湯船の縁に飛び乗ったクロッシェが、得意げにそう言ってビヨンと伸びる。
俺には分かるぞ。あれはドヤ顔だ。
「あはは、俺の負けだよ。勝者クロッシェ〜〜〜!」
笑ってそう言いながら大きく拍手をしてやると、湯船の中にいたスライム達の肉球が一斉にこっちを向いた。
嫌な予感に立ちあがろうとしたその瞬間、そりゃあもう四方八方からものすごい勢いのスライムシャワーが浴びせかけられて、情けない悲鳴を上げた俺は冗談抜きで溺れそうになり、もう必死になって咽せながら負けたアピールをする羽目になったのだった。途中で不意に思いついて洗面器代わりにしている大きな桶を顔面に被せて防御したよ。
はあ危ない危ない。自分家の風呂で溺死とか、冗談抜きで洒落にならないって!
俺が敗北宣言したから気が済んだのか、スライム達は大喜びで湯船の中を転がりまくって、俺の体にもポヨンポヨンと当たっては跳ね返るのを繰り返していた。
うん、人肌温度に温まったスライムは色々と危険なんだよ。
あらぬ所がナニしそうになったので、逃げるみたいに慌てて湯船から飛び出た俺は、収納していた風呂用の低い椅子と石鹸と手ぬぐいを取り出し、ガシガシと無駄に勢いよく体を洗ったのだった。
去れ〜〜煩悩〜〜〜!
「ごめんねご主人、ちょっとやりすぎました。お詫びにお湯を流しま〜〜す!」
洗い終わり、湯船のお湯をすくおうとしたところでアクアが出てきて湯船の縁に留まり、俺に向かって今度は湯量を調整しながらシャワーを噴き出してくれた。
「おお、マジでシャワーじゃんか。ありがとうな。あ、こっち側もお願いします」
頭の上から降り注ぐ久しぶりのシャワーに目を細めて俺が背中側を指差すと、別の方向からも優しいシャワーが降り注いだ。
他のスライム達までが、全員湯船から伸びあがってこっちを見ていて、代表してサクラとアルファが伸ばした触手の先からシャワーが噴き出していた。
「おお、これくらいの湯量なら溺れる心配もしなくていいな。相変わらずお前らは凄いなあ」
お陰で綺麗さっぱり石鹸が流れたところで、軽く顔を拭いてからもう一度湯船に浸かった。
「ああ〜〜〜やっぱり風呂は良いよなあ」
手足を伸ばして思いっきり寛ぎつつ上を見ると、壁面の段差になった部分でシャムエル様がのんびりと温まりながら身繕いをしていた。
シャムエル様的には、お湯に浸かって体が濡れるの嫌だけど、蒸気で大事な毛並みをしっとりさせて整えたり、温まったりするのは気に入ったみたいで、俺が風呂に入っている時は大体一緒になって温まっている。
「この世界に、もっとお風呂が普及してくれたら良いのになあ」
あまりの気持ち良さに欠伸をしながらそう呟くと、こっちを向いたシャムエル様が何故かドヤ顔になってる。
「それ、案外有り得るかもね」
まさかの言葉に、思わずシャムエル様を見る。
「ここのお城を買った時に修理を依頼したケンが、大工さん達にお風呂の仕様の希望を説明しながら、いかにお風呂が気持ち良いかって言って、お風呂の良さを力説していたでしょう」
その覚えはあったので、苦笑いしながら頷く。最初は、こいつ何言ってるんだって感じで、全然話が通じなかったもんな。
「あの後、ここの仕事を終えた大工さん達がね、空き家を使ってケンが希望したのと同じお風呂場を再現したみたい。それで試しに入ってみたら気持ちが良かったらしくて、大工さん達の間で一時話題になっていたんだ。それでこの冬、いくつかの貴族の別荘に急遽お風呂場が設置されてるよ。それからあの部屋の中に別の部屋を作るのもどうやら面白かったみたいで、こちらも既にいくつかのお屋敷に設置されて大好評になっているみたいだね。貴族の人達が気に入って流行らせれば、目敏い商人達の耳に入るのは時間の問題だろうから、いずれは他の人達や他の土地にも普及していくんじゃあないかな。お湯を沸かすのにジェムは必要だけど、今なら充分にあるだろうしね。それに体も清潔になるし、良いんじゃない?」
笑ったシャムエル様の言葉に、思わず拍手した俺だったよ。
ギルドの宿泊所とかにお風呂があったら、めっちゃ嬉しいんだけどなあ。