新たなるもふもふの仲間
「ええと、この穴の中にジェムモンスターがいるんだよな?」
以前よりも少し大きそうな、直径50センチぐらいの穴を覗き込んで俺はそう尋ねた。
「ああ、ここはレッドダブルホーンラビットの営巣地だ。あ、しまったな。セルパンに穴からの追い出しを頼むつもりだったが、ニニと一緒に狩りに行ってしまったな」
シリウスと並んで座っているマックスを見て、俺は納得した。
「どうする? ニニ達が戻って来るまで待ってるか?」
「ふむ、この後あの洞窟へもう一度行くつもりだったからな。先にそっちへ行くか」
ハスフェルが考えていると、クーヘンの肩に留まっていたミニラプトルのピノがぴょこんと地面に飛び降りた。
「それなら私がやりますよ。中の奴らを外へ追い出せば良いんですよね?」
俺が通訳してやると、ハスフェルはピノを見た。
「頼めるか?」
顔を上げたハスフェルにそう言われて、そう伝えてやると、ピノは嬉しそうに翼を広げた。
「この穴なら、私でも入れますよ。では準備はよろしいですか?」
胸を張ってそう言うと、ピノは何ともうひと回り小さくなった。
「おお、凄え。小さくもなれるんだ。そっか、ジェムモンスターは、自分の大きさをある程度変化出来るって言ってたもんな。大きくなれるんなら、当然小さくもなるよな」
俺が返事をしようとしたら、慌てたようにクーヘンが手を挙げた。
「待ってピノ。ケンに質問です。どうやってラパンを仲間にしたんですか? やはり弱らせて? それとも捕まえて目隠しですか?」
慌てたその声に、俺は自分がラパンをテイムした時のことを思い出して話してやった。
「ええと、あの時は確か……そうそう、まずはセルパンが追い出してくれたブラウンホーンラビットをジェム目的で倒していたんだよ。それで、ようやく出てこなくなってしばらくしたら、すごく小さいのが一匹だけ出てきてさ、それが、繋ぎの子。つまり空いた巣穴を確保する為に先に出て来るジェムモンスターで、一晩程度でまた仲間がどんどん出て来るんだ。ラパンは、一番最初に出てきたすっげえ小さい子だったんだよ。さすがにやっつけるのも気がひける程だったから、捕まえてテイムしてみたんだ。本当に小さかったから、そのまま掴んで仲間になれって言ったら、簡単にテイム出来たんだ。ここではどうなんだろうな?」
俺達の横で、腕を組んで話を聞いていたハスフェルを揃って振り返る。
「ジェムも集まるし、そのやり方でも良いんじゃないか? それなら、まずは巣穴から出て来る奴らと戦ってみろ。ケンの言う通りで、この程度の巣穴なら一通り出尽くしたらモンスターの出現が止まるから、そうすれば繋ぎの子が出て来る。それなら確かにそのままテイムできると思うぞ」
「分かりました。では、まずは戦えば良いんですね?」
「そうだな。じゃあ先ずは一面クリア目指して頑張ろうぜ」
俺が笑ってそう言うと、クーヘンは短剣を抜いて首を傾げた。
「一面クリア? 何ですか? それは」
あ、しまった。ゲーム用語はさすがに通じなかった。
「ええと、つまり出て来るモンスターを一通りやっつけよう! って事さ」
「ああ、成る程。それが一面クリア。良いですねその言い方。では、まずはピノに追い出してもらってジェムモンスターを一面クリアですね」
「あはは、そうそう、それで間違ってないぞ」
笑った俺に、クーヘンも笑い返す。
「それじゃあピノ、頼むよ」
「分かりました。気を付けてねご主人」
そう言うと、小さくなったピノはスルリと穴の中に入って行った。
俺達は少し離れて、それぞれの武器を構えてじっと出て来るのを待った。
しばらくすると、穴の中で何やら鳴き声が聞こえ暴れるような音も聞こえ出す。
「来るぞ」
ハスフェルの声が聞こえて、俺達が身構えた直後、まるで炭酸の栓を抜いた時みたいに、白と赤の塊が穴からあふれてきた。
「おお、すげえ出て来た!」
飛び出して来たのは、雑種犬ほどの大きさの垂れた長い耳を持った真っ白な巨大ウサギだった。しかも、その額にはラパンと違って太くて短い二本の真っ赤な角が生えていた。瞳も真っ赤だ。
見かけは可愛いが、その表情は凶暴そのものだ。
「うわあ、怒ってる怒ってる」
苦笑いした俺が言った通り、溢れ出て来たそのウサギ達は、大きな足を踏みならし長い前歯をむき出しにして、俺達に向かって一斉に威嚇して来たのだ。
その中でも一際デカいウサギが、予備動作もなしにいきなり跳ねて俺に向かって来た。
口を開けて噛み付く気だ。
「させるかよ!」
剣を構えて、飛び込んできた巨大ウサギを叩き斬る。
そこからはもう、前回と同じくひたすら乱れ飛ぶウサギを斬りまくったよ。
だけど、ブラウンホーンラビットよりもかなり動作も速く強い。
俺は一度、籠手に噛み付かれてひやりとした事があった。
幸い怪我は無かったけど、籠手に傷が入ったのを見てちょっと本気でビビったのは内緒にしておくよ。
クーヘンは、手にした剣を振りかざして火の魔法を連発していた。確かに、剣よりもあの方が数を相手にする時は有利だろう。
俺の横ではサクラとアクアが、クーヘンの横ではドロップとハスフェルのミストが盾となって守りの役目を果たしていた。
シリウスとマックスも俺達から少し離れたところで大喜びで戦ってるし、チョコもあの大きな足でウサギ達を相手に余裕で戦っていた。
「へえ、草食だって聞いてたけど、チョコも強そうだな」
「そうみたいですね。頼もしい限りです!」
また火の魔法を飛ばしながら、クーヘンが嬉しそうにそう言って笑っていた。
そろそろ腕が痛くなって来た頃、目に見えてウサギの数が減って来た。盾役だったアクアとミストは、今は地面に転がるジェムを拾ってまわっている。
「そろそろかな?」
俺も少し下がって、後はクーヘンに任せることにした。
クーヘンが残りのウサギを火の魔法で一気にやっつけ、地面に転がるジェムをミストが拾って回った。
「スライムにこんな事が出来るなんて、驚きですね」
感心したようなその声に、俺はちょっと慌てた。
「ああ、こいつらは特別だよ。まあ、普通じゃないからこれを標準にするなよ」
「あはは、そうみたいですね」
ハスフェルの言葉に、クーヘンは苦笑いしている。
「あ、穴からまた出て来たぞ」
見ると子猫サイズの小さなウサギが数匹、穴から出て来た。
ふわふわで丸っこい真っ白な体に小さな真っ赤な二本の角、そして垂れ耳。うわあ、ナニコレ超可愛い!
無言で悶絶した後、一瞬で決めた。
よし、俺もテイムしよう。
しかし先ずはクーヘンに一番最初の選択権は譲る。
だって、彼にテイムさせるのが一番の目的だもんな。
深呼吸したクーヘンは、少し考えて一番最初に出て来た子を捕まえた。
その丸いウサギは掴まれてプルプルと震えている。
「お前、私の仲間になるか?」
震えていたそのウサギは、嬉しそうに顔を上げた。
「はい、よろしくお願いします!」
おお、この子は雄だったみたいだ。
一瞬光ってまた元に戻る。
地面におろしてやると、一気に大きくなった。
おお、ラパンより大きいぞ。
「ええと、名前は……」
だから、そんな縋るような目で俺を見るなって!
首を振って目を逸らす。
「そうですよね、自分の従魔ですから。じゃあ、安直かもしれないけど……ホワイティ。どうだ? お前のお名前はホワイティ」
「ありがとうございます!ご主人!」
また光って、元の小さなウサギに戻った。
無事にテイム出来たのを見て、俺も、穴に戻ろうとしてピノに阻まれて固まって怯えていたウサギ達を見た。
「こいつにしよう、一番小さい奴」
端にいた子をひょいと掴んで、顔の前まで持ってくる。
「俺の仲間になるか?」
「はい! よろしくお願いします!」
おお、こいつも雄だったみたいだ。
一瞬光って元に戻ったので地面におろしてやる。
すると、一気に大きくなった。
うわあ、ラパンの倍サイズ! 俺、めっちゃ良い仕事したかも。
密かに感動に打ち震えつつ、右手の手袋を外す。
「紋章はどこに付ける?」
「額に! 額にお願いします!」
大きな頭を差し出すようにしてそう答える。
「了解だ。お前の名前はコニーだよ」
また一瞬光って、元の小さなウサギに戻った。
「嬉しいです。ありがとうございます」
そう叫ぶと、ピョンと跳ねて俺の胸元まで飛び跳ねた。
「うわあ、これはまた最高の手触りだよ。よしよし、よろしくな」
抱き上げたままマックス達の所へ連れて行き、今いる子達に紹介してやった。
「なんだよ。お前までテイムしたのか?」
笑ったハスフェルにそう言われて、俺も笑って振り返った。
「いや、あのもふもふを見せられたら絶対欲しくなるだろう? あの子なら小さくなれるし、邪魔にならないと思ってね。移動の時も、ラパンのカゴに一緒に入れるだろうからさ」
「まあ、気持ちは分かるな。確かに可愛い」
手を伸ばして、コニーの背中を撫でる。
「おお、こりゃあ堪らんな」
吹き出したハスフェルは、クーヘンを振り返った。
「良いのをテイムしたな。どちらも、レッドダブルホーンラビットの亜種だよ。よく走るし強いぞ。それじゃあ少し場所を変えて昼飯にするか」
その声に、俺は頷いてマックスの背に飛び乗った。
「お前はここな」
普段、アヴィは俺の左腕にしがみついている。戦う時はマックスの首輪に取り付けたラパン用のカゴにしがみついているので、ちょっと定員オーバーかもしれない。まずはラパンとコニーを籠の中に二匹並べて入れてみた。
「アヴィ、掴まれるか?」
左腕にいたアヴィに聞くと、ふわりと飛んで、そのままカゴの横の部分にくっつくようにしてしがみ付いた。
「大丈夫ですよ。カゴが少し広がったので掴まりやすくなったくらいです」
「網を掛けるとどうなる?」
折りたたみ式の網を引っ張って被せてやると。そのままアヴィも籠の中に収まってしまった。
「あ、これで良いよ!」
「ほんとだ!よろしくね」
「うん、よろしく!」
仲良く三匹並んで、ぎっしりと収まったようです。
「じゃあお前らの定位置は決まり。仲良くな」
網の隙間から指を入れて突っついてやると、俺の指が全部もふ毛の塊の中に埋もれていった。
なにこのプチパラダイス!
声なき悲鳴を上げて悶絶する俺を、ハスフェルとクーヘンが呆れたような目で見ていたのだった。
良いんだよ!
もふもふは俺の癒しなんだから!