帰宅ともふもふタイム!
「ううん、冬の日暮れは早いなあ」
雪の道をラッセルしながら進んで来て、ようやくお城へ到着した頃には、もうすっかり日が暮れて辺りは真っ暗になっていたよ。
だけど玄関周りに幾つも備え付けられている玄関灯はちゃんと点灯しておいたから、真っ暗な中で煌々とした頼もしい光を放っている。
これ、実を言うと途中で明るいうちに点灯しておけばいいんだって事に気が付いて、今日のところはベリーにこっそりお願いして点灯しておいてもらったんだよな。
アーケル君達やランドルさんは、あれ、こんなランタン点灯していたっけ? って感じだったんだけど、当然のようにしらばっくれて、出かける前にハスフェル達が気を利かせて点灯しておいてくれたって事にしておいたよ。
うん、真っ暗な中を明るいお城目指して帰れるのはいい感じなので、明日からは忘れずに点灯してから出かけるようにしよう。
「ふああ、寒い! とにかく中へ入ろう!」
急いで玄関の鍵を取り出し、ガチャリと音を立てて鍵を開ける。これ、いかにも大きな鍵が開きました。閉まりました。って感じの地響きみたいな音がするので、実はかなり気に入っていたりする。
幸い、もう鍵を持ち損ねて吹っ飛ばすような事態にはならず、とりあえず無事に全員が家の中へ入る事が出来たよ。
広い玄関ホールの暖房器具を急いで全開にして、まずはびしょ濡れになった従魔達と俺達の服や靴をスライム達に綺麗にしてもらう。
それが終われば、一旦解散して俺は従魔達と一緒に部屋に戻った。
「ニニ〜〜ただいま〜〜〜!」
暖房をかけっぱなしにしている俺の部屋は、とても暖かい。一応、風取り用の小窓は開けてあるから換気は出来てるよ。
「おかえり、ご主人!」
産室用に設置してある木製の小屋からニニが顔を出す。
「ああ、そっちにいたのか」
駆け寄って中を覗き込むと、カッツェとピッタリとくっついたニニが見えて、ちょっと嫉妬の炎を燃やしたのは内緒だ。
うう、でもまあ仲が良いのは結構な事だもんな。
しかもよくみると、ニニの腹の辺りには留守番組のマロンやタロン達が子猫みたいにニニの腹に潜り込んでとろけている真っ最中だったよ。
見ていると、ニニはそんな周りはお構い無しに起き上がるとゆっくりと小屋から出てきて俺の目の前で思いっきり伸びをした。
「おお、さすがによく伸びるなあ」
笑って手を伸ばしてふかふかなニニの首周りを撫でてやる。
「うわあ、なにこのフッカフカ。最高だな。しかもぬくぬくじゃないか!」
俺の手が冷えていたのもあるんだろうけど、手袋を脱いだ俺の手がニニを撫でると、驚くぐらいにニニは暖かく感じたよ。
「ご主人、手が冷たくて気持ちいい」
うっとりと目を細めたニニが、甘えるみたいに俺の腕にセルフよしよしをするために頭を突っ込んで上下させてくる。
「ああ、もう! お前はどれだけ可愛いんだ! 俺を萌え殺す気かよ〜〜〜!」
両手で、額から後頭部にかけてをワシワシと力一杯撫でてやり、両手を広げて大きな頭に抱きつく。
「ご主人大好き!」
もの凄い音でゴロゴロと喉を鳴らしながら、俺の体に今度は頭突きをしてくる。
「ああ、ニニばっかりずるい〜〜〜!」
タロンの声が聞こえた直後、俺の脇の辺りになぜか巨大化したタロンが背後から頭を突っ込んできた。
「こらこら、どうしていきなりデカくなってるんだよ。今まで小さくなってニニの腹に潜っていたくせに〜〜〜!」
ニニを離してタロンを抱きしめてやると、今度はこれまた巨大化したマロンとソレイユとフォールが三匹揃って俺とタロンごと押し倒してきた。
「うわあ! やられた〜〜〜!」
棒読みの台詞と共に待ち構えていたニニの所へなすすべもなく倒れ込み、飛び掛かってきたタロン達と共にもふもふの海に沈む俺。ああ、なにこの幸せ空間。
「ちょっと、何やってるかなあ。お腹空いてるんですけど!」
そのまま暖かくてもふもふな幸せ空間を堪能していると、ちっこい手でペシペシと額を叩かれた。
おう、シャムエル様に空腹だって言われちゃったよ。
「はいはい、じゃあリビングへ行くか。ええと、お前らは……またそこか。まあ、ニニが構わないならいいけどさあ」
ニニの後についていそいそと小屋に入っていく小さくなった猫族軍団を見送り、苦笑いした俺は立ち上がってぐしゃぐしゃになった服を戻すと、シャムエル様を右肩に乗せてスライム達の入った鞄を手にリビングへ向かった。
「ああ、やっと来たな。いつまで経っても来ないから、呼びに行くかって言っていたところだぞ」
リビングに入るともう全員揃っていて、振り返ったハスフェルにからかうみたいにそう言われて、笑った俺は肩をすくめた。
「そりゃあ悪かったな。従魔達が大歓迎して離してくれなくてさ」
ちょっとドヤ顔になってそう言うと、何故か全員から生ぬるい目で見られたよ。解せぬ!
「じゃあ今夜は、ギルド支給の弁当って事でよろしく。だけどせっかくだから、暖かい味噌汁くらい用意するよ。もうちょっとだけ待っててくれよな」
一応そう言ってもらったあの弁当箱を机の上に並べてから、鞄を持った俺はリビング横のキッチンへ向かった。
それから急いでワカメと豆腐の味噌汁の入った鍋を取り出し、ひと回り小さな鍋に人数分になるように取り分けてから火にかけた。
「後は、何か……箸休め的なものと、俺的には多分野菜が不足しそうだからサラダぐらい出しておくか」
一応栄養的な事など考えつつ、味噌汁が温まったところで、鍋ごと収納してリビングへ戻った。
温めた味噌汁を取り出したお椀に順番によそってやりながら、俺がいなかった間に当然のように机の上に並んでいる大量の酒瓶の数々を見て、ちょっと気が遠くなったのは内緒だ。
「うん、俺は冷えたビールにしよう」
一応、まだお祭り終了まで毎日朝から晩まで働かないといけないので、無茶な飲み方はしない事にする。
「じゃあ、無事に一日目のスライムトランポリンが終了しました〜〜〜皆様お疲れ様でした〜〜〜! 引き続き明日もよろしくお願いしま〜〜〜す!」
栓を開けた白ビールの瓶ごと手にした俺は、全員の注目を集める中、笑いながらそう言って瓶ビールを高々と掲げた。
「カンパ〜〜〜イ!」
笑った皆の声が重なり、何故か全員がビールやワイン等々、瓶ごと持って乾杯していたよ。
よし、食おう!