大量の差し入れいただきました〜〜!
パンパンだったお腹も落ち着いたのでそろそろ戻ろうかと振り返ったところで、満面の笑みで手を振る草原エルフ三兄弟と目が合った。
「あれ、ケンさん。警備担当ですか?」
そう言って駆け寄ってくる三人に手を振りかえした俺は、笑って首を振る。
「いや、今休憩が終わって腹ごなしに会場をひと回りして様子を見てきたところ。もう戻るよ」
遠くに見える、高い椅子に座って監視役をしてくれているハスフェルを指差すと、納得したみたいに三人揃って頷いた。
「ああ、ほら見ろ。やっぱり出遅れちゃったじゃないか!」
「昼休憩終わっちゃっただろうが!」
「うわあ、ごめんなさい!」
オリゴー君とカルン君が、揃ってアーケル君の頭を叩く。
「何? どうかした?」
「いや、昼食に食べてもらおうと思って、屋台で色々買い込んできたんですよ。早めに届けようと思ったのに、こいつがいきなり通りすがりに見つけた屋台の射的をするんだって言って聞かなくてさ」
そう言って弓を引く振りをする。
「兄貴達だって、結局一緒に遊んでた癖に」
苦笑いするオリゴー君の説明に、開き直ったアーケル君が口を尖らせながら口答えする。
「延々と何度もやっていたのはどこのどいつだよ。俺達は、交代で一回ずつやっただけだ」
「いくら大人も遊んでいい屋台だったからって、普通は一回やったら並んでる子供に譲るもんだぞ」
「それを全部で十五回も遊びやがって!」
またしても左右から頭を引っ叩かれて情けない悲鳴をあげるアーケル君。
「うわあ、誰もいなくて暇してるならいざ知らず、並んで待っている子供がいるなら、そこは大人なら譲ってやれよ」
「だって、これが欲しかったんだよ!」
そう言って収納袋から取り出したのは、小さな木彫りの飾りで、鎖が付いているので鞄に取り付けられるキーホルダーみたいだ。
「へえ、これってもしかして……イーグレット?」
見せてくれたそれは、リナさん達が神様の使いとして考えていたあの白鷺の形をしている。なかなか上手な出来栄えだよ。
「なんて言うか……これが呼んでいる気がしたんです!」
「で、十五回もやって手に入れたわけか」
苦笑いしつつ頷かれて、俺はもう笑うしかない。
だけどまあ、必須の品じゃあないけど、欲しいって思ったら何としても取りたくなる気持ちは分かる。俺も大人になってから、ガチャで鬼回しした事あるもんなあ……。
「って事でお昼休憩には間に合わなかったけど、午後の休憩の時にでも食べてください。余ったら買い置きの在庫にしてください。俺達からの差し入れです!」
そう言って収納袋から何やら取り出そうとするのを見て慌てて止める。
「待った待った。ちょっとここは人が多いから端っこへ行こう。人の多い通路の真ん中で立ち止まっているのはまずいって」
気がつくと通路の真ん中に立ち止まっていた俺達のせいだろう。周りの人の流れが若干遅くなっている気がする。
「ああ、確かにそうですね。じゃああっちへ行きましょう」
アーケル君達も気付いたみたいで、慌てたようにそう言って奥の壁面の何もない場所を指差す。
何となく休憩スペースっぽくなっているそこで集まり、串焼きやハンバーガーやホットドッグ、それから甘いお菓子などなど、三人からそれはもう大量の差し入れをもらったのだった。
その中にあの弁当に入っていた巨大ハンバーガーのセットが大量にあって、俺は思わず歓声を上げた。
しかも、メニューはあのベーコンダブルバーガーだけでなく、これまた分厚い照り焼きチキンバーガーセットと、巨大ミンチカツにたっぷりのソースが絡んだミンチカツセットの三種類があったのだ。
「ああ! これ、ギルドからもらった今日の弁当と同じだ。めっちゃ美味しかったから、どこで売ってるか聞こうと思っていたんだよ!」
渡されたそれは弁当箱ではなく薄く削った木で包まれていて、一つ開けて見せてくれたそれを見て思わずそう叫ぶ。
「あれ、そうだったんですね。それじゃあ後でもっとたくさん買っておきます。この店ってバイゼンに住んでる俺の冒険者仲間の友人に教えてもらった屋台なんだけど、元はバイゼンにある普通のパン屋なんですよ。だけどこのお祭り後半の数日しか出さない限定メニューの屋台で毎回大人気なんですよね。毎回、メニューはこの三点だけなんですけど、とにかく大量に作っているからまとめ買い大歓迎なんですよね」
「うわあ、そうだったんだ。じゃあお願いだから買えるだけ買って来てくれるか! ああ、お金は持ってるから……」
慌てて手持ちのお金を渡そうとしたんだけど、三人から断られて受け取ってくれなかった。
「いいんですって、いつもあれだけ美味い飯食わせてもらっているんですから。たまには買い出しの手伝いくらいさせてください! ああ、いい事思いついた! じゃあこのお祭り後半は、俺達がここだけじゃあなくて、他にもおすすめの屋台飯をガッツリ買い出しして来てあげます。お城へ戻ってから渡せば、ケンさんの手も煩わせずにすみますよね」
にっこり笑ったアーケル君にそう言われて、俺も笑顔でお礼を言ってお願いした。
話がまとまったところで、まだあるからと残りもガンガン出されて慌てて収納していく。
冗談抜きで全部入るか一瞬心配になるくらいの量があったんだけど、問題なくサクッと収納出来てしまった。
ううん、俺の収納力って確か鞄十個分だったはずなんだけど、間違いなくそれ以上入ったぞ。しかも元々色々持っているのに……俺の今の収納力ってどれくらいになっているんだろう?
一応何かあった時の為にも上限は知っておくべきだろう。戻ったらアクア達に協力してもらって、収納の限界量を測ってみてもいいかもな。
そんな事を考えつつ、ようやく全部収納し終えた俺は、笑って草原エルフ三兄弟と別れたのだった。
さて、午後からも頑張って見張りのお仕事だよ。