会場の設営!
「到着〜〜〜! うわあ、ものすごい人出だなあ。これってバイゼン中の人が、全員来てるんじゃないか?」
ようやく到着した、イベント開催場である広い長屋倉庫のあたりは、そう言いたくもなるくらいに、もう見渡す限り目の前の道路いっぱいに広がるものすごい数の人、人、人で埋め尽くされていた。
倉庫前の広い通りは、すでに屋台というか移動式キッチンカーみたいなのでこちらも埋め尽くされていて、それはそれはものすごい大賑わいを見せていた。
どうやらまだ肝心の建物の中には入れないみたいで、道路を挟んだ反対側にある別の長屋倉庫の一部が開放されていて、そっちで食べたり休憩したり、追加のチケットを買う販売所も用意されているみたいだ。
まあ、これは勝手に他の倉庫へ行かないようにするためと、寒さ対策もあるのだろう。なかなか良い考えだな。あっちの倉庫もかなり広そうだから、これだけの人が全員入ったとしても、余裕で全然大丈夫だろう。
見ていると、皆屋台で買った料理や飲み物を持って、楽しそうに笑いながら向かいの長屋倉庫へ向かって行く。
この目の前の道路は端から端まで歩行者天国になっていて、乗合馬車や自分の馬車や馬でやって来た人達は、道路に入る前に設けられている特設駐車スペースと仮設厩舎に馬車や馬達を預けているみたいだ。
多分どちらもイベント価格なんだろうから、儲けられるところは絶対に見逃さないって感じがバシバシと伝わって来るよ。さすがは商業ギルドだなあ。
そして俺達は、その歩行者天国の道路へ入る前で立ち止まり、どうしたら良いか考えていた。
さすがにあの人混みの中に、マックス達が入るのはどう考えても物理的に無理だ。
もうこの際、誰か一人が歩いて行って誰かスタッフさんを呼んでくるべきかと割と真剣に悩んでいると、一番端の倉庫の壁面にある小さな通用口みたいな扉が開き、ギルドマスターのヴァイトンさんが出て来た。
「あ、いいタイミング〜! 今呼びに行こうかと思っていたところなんです! おはようございます!」
マックスの背中から飛び降りた俺の言葉に、ヴァイトンさんも笑顔になる。
「おう、おはよございます。待っていたぞ。さあ、ここから入ってくれ。従魔達は……入れるか?」
その扉は、普通の家の扉くらいしかないので、マックスとシリウスには入るのはちょっと無理そうだ。
無言でマックスとシリウスを見たヴァイトンさんは、苦笑いして首を振った。
「どう見ても無理だな。じゃあ、悪いがこっちから回ってくれるか」
そう言って、そのまま歩行者天国とは反対方向へ歩き出したので、俺達も素直について行く。
長屋倉庫の裏側部分には、いかにも関係者用って感じの道があり、確かにここならマックス達でも余裕で通れる広さになっていたよ。
そのままヴァイトンさんについてその道を少し進み、いかにも非常用って感じの大きな扉から建物の中に入った。
「従魔達は、ここにいてもらってくれるか。ここなら広いから、その大きな子達でも大丈夫だろうからな。そっちの砂場に浄化の魔法をかけておいたから、そこをトイレとして使ってくれ。水はそっちの水場からどうぞ」
どうやらこの建物は、動物達を一時的に入れておくために用意されている場所らしく、ちょっとした体育館なんかよりもはるかに広くて天井も高い。
部屋の足元は土を固めた土間みたいになっていて、ヴァイトンさんが指差した場所は確かに砂場になっているから、トイレ完備ってわけだ。
壁側の一部には干し草が敷き詰められているので、確かにここならマックス達でも余裕で寛げるだろう。
「分かりました。ではご主人がお仕事している間は、ここでゆっくりさせてもらいますね」
嬉しそうなマックスの言葉に笑って頷き、鞍や手綱を外してやる。
スライム達は俺の所へ集まってもらい、従魔達をここに残してスライム達を俺に預けたリナさん一家は、ここから別行動になった。
彼らは一旦外へ戻り、さっきの歩行者天国の道を通ってまずは屋台を見て回るんだって。うう、羨ましい……。
笑顔で手を振って戻って行くリナさん一家を見送り諦めのため息を吐いた俺は、待っていてくれたヴァイトンさんの案内で、また外へ出て別の建物の中へ入った。
「はあ、ようやくメイン会場に到着だな。ええと、ここ全部使って良いんですよね?」
見覚えのある広い倉庫の中を見回し、忙しそうに走り回っているスタッフさん達を見る。
あちこちに巨大な暖房器具が設置されていて温風を吹き出している。まあさすがに全部を暖めるほどの威力は無いみたいだけど、会場内は外とは違ってちょっと冷えるな、くらいになっている。
まあ、これなら大勢人が入って来れば、すぐに充分過ぎるくらいに暖かくなるだろう。
「ああ、一応大きなスライムトランポリンの場所は、こっちで円を描いてあるからそこに用意してもらえるか。グループ用や一人用の小さめのスライムトランポリンは、こっちの枠内に適当に散らばって用意してくれればいい」
指差す床を見ると、チョークみたいな白い線で円が描かれていて、その横にはチケット入れと思しき木箱がそれぞれ置かれている。
「了解です。じゃあ順番に設置して行きますね」
俺に気付いて何人ものスタッフさんが集まってきて挨拶してくれるので俺も笑顔で挨拶を返しつつ、まずはスライム達を順番に描かれた丸の中に設置して回った。
チケットもぎり役のスタッフさん達も集まって来てくれて、俺が設置したらすぐに配置についてくれる。
しかもほとんどのスタッフさんは、こっそり巨大なスライムトランポリンを撫でながら、よろしくね。とか、しっかり頑張ってね。などと話しかけてくれている。
当然その言葉はスライム達には聞こえているわけで、ご機嫌で大張り切りするスライム達を見て、調子に乗ってやりすぎないか密かに心配になった俺だったよ。
巨大スライムトランポリンの設置を終え、小さめのスライムトランポリンも指定された場所に適当に離して設置していく。
「ケンさんは、ここにいてくれるか。ここなら見晴らしもいいだろうからな」
そう言ってヴァイトンさんとスタッフさん達が運んできてくれたのは、高さ2メートル超えの足の長い金属製の椅子だ。足の部分がハシゴになっているから、そのまま登って座れるようになってる。
「了解です。じゃあここでいいかな」
スライムトランポリン達から少し離れた場所に置いてもらい、マントを脱いで収納した俺は、ハシゴをよじ登って椅子に座る。
会場内にいたスタッフさん達が笑って手を振ってくれたので笑顔で手を振り返し、次々に配置につくスタッフさん達を眺めていた。
ハスフェル達も、冒険者ギルドから来たと思われる人達と顔を寄せて楽しそうに話をした後は、それぞれ会場内に散らばって行った。彼らは警備担当役だ。ご苦労さん。
もう俺はする事も無いのでのんびりと座って寛いでいたら、そろそろ時間になったみたいで締め切ったままになっていた道路側の大きな扉の前にスタッフさん達が集まって行く。
「それではただいまより、スライムトランポリン開始となります。事故の無いように十分に気をつけるよう、よろしくお願いします!」
ヴァイトンさんの大きな声に、スタッフさん達が元気よく返事をして拍手が起こる。
そしてゆっくりと扉が開かれていく。
さあ、スライムトランポリン祭りの開始だ!