街へ行くぞ!
翌日は一日中酷い吹雪になり、俺達はお城から一歩も外に出られなかったのでこれ幸いと一日のんびりダラダラと過ごさせてもらった。
そしてその翌日はもう、スライムトランポリンの初日だ。
朝からやたらテンションの高いアーケル君達草原エルフ三兄弟を眺めつつ、おにぎりを齧りながら俺は外の雪の具合を密かに心配していた。
一応、今日はお天気が良いから吹雪の心配はしなくてもいいみたいなんだけど……冬の天気って、割とすぐに変わるって聞くから、人がそんな日に外へ出るようなイベントを四日間も連日開催しても大丈夫なのかちょっと不安なんだよ。
「だけどまあ、皆、俺とは違って雪には慣れているんだろうからな。本当にまずくなったらギルドマスター辺りがいくら何でも止めてくれるよな」
ってか、よく考えたらこれは俺が心配する事じゃあないよな。俺は商人ギルドから依頼を受けてスライムトランポリンを行う、いわばイベント業者扱いなわけで、イベント自体の運行や開催の是非に口出し出来る立場じゃあないよな。よし、ここは経験豊富なギルドマスターにお任せしておこう。
って事で、脳内で心配事を全部まとめてひっくるめてふん縛って明後日の方向へ全力でぶん投げておく。
そう、俺がすべきは無事にスライムトランポリンを街の人達に楽しんでもらうって事だよな。
「よろしくな。頼りにしてるぞ」
食事中は、バスケットボールサイズになってあちこちにバラけて好きに転がっているスライム達を見回し、近くにいたアクアとサクラをそっと撫でてやった。
「はあい、任せてね〜〜!」
「街の人達と一緒に、いっぱいいっぱい遊んじゃうもんね〜〜〜!」
「遊ぶよ〜〜〜〜!」
「遊ぶよ〜〜〜〜!」
「我々にも〜〜〜遊ぶ権利を〜〜〜!」
「遊ぶ権利を〜〜〜〜〜!」
アクアとサクラの元気な返事に続き、転がっていたスライム達が口々にそう言ってポヨンポヨンと飛び跳ね始める。
「分かった分かった。分かったから落ち着け。食事が終わって少し休憩したら街へ行くから、もうちょっとだけ待っててくれ。イベントが始まったら思いっきり遊んでやってくれていいぞ。あ、だけど安全面には絶対に気をつける事。お客さんに怪我なんかさせちゃ駄目だぞ。だけどもし何か嫌な事をされたり、いじめられそうになったらすぐに俺に言うんだぞ」
ゼータをおにぎりにしてやりながら、一応ここは真面目に言い聞かせておく。
「任せて〜〜〜!」
「ちゃんと心得てま〜〜〜す!」
小さな触手がニュルンと出てきて、ピシッと敬礼してから引っ込んでいったよ。
スライム達は、このちょっとした仕草がいちいち可愛いんだよな。
今回は、一日人が大勢いる場所なので、モモンガのアヴィやハリネズミのエリー、鱗チーム、それからニニをはじめ猫族軍団の寒がりな子達とウサギコンビ、ファルコ以外のお空部隊にも留守番をしてもらう。リナさん達も騎獣以外は留守番させるみたいだ。
なので一緒に行くのは、この降り積もった大雪の中を街までラッセルする役の巨大化したセーブルとティグとヤミー、それからオリゴー君とカルン君を乗せているテンペストとファインの狼コンビ、あとはそれぞれが乗る騎獣達だけだ。
「じゃあ、マックス。街までよろしくな。猛吹雪の後だから、雪は多いだろうから無理せずゆっくり行けば良いからな」
くっついてくるマックスの大きくて太い首元に抱きつき、むくむくな毛並みを満喫した俺は一つ深呼吸をしてから顔を上げた。
「ご主人、何を言ってるんですか。その新雪をかき分けて走るのが最高に気持ち良いんですよ!」
尻尾扇風機状態でそう言われ、シリウスを見るとこっちも同じくらいにものすごい勢いで尻尾扇風機状態。テンペストとファインもにたようなもんだ。皆、元気だねえ。
防寒対策にガッツリ着込んだ俺達は、顔を見合わせて頷き合った。
「よし、それじゃあ行くか。皆、準備は良いか〜〜〜?」
「おお〜〜〜!」
皆の元気な掛け声が返ってきて、笑った俺はマックスの手綱を引いて玄関へ向かった。
一応、サクラが持っていた食材を縛っていたリボンがちょうど良さそうだったので、お城の鍵に結びつけておいた。これで万一落としてもこの前みたいな事にはならないだろう……多分。
ベリーとフランマは、途中で様子を見に来てくれるみたいだけど、今はもう少しゆっくりするみたいだ。
まあ、賢者の精霊と最高位の火の魔法使いだもんな。俺達ごときが心配するなんて失礼だよ。
って事で、こっちはお任せしておき、俺達はそれぞれの従魔に飛び乗って玄関先に降り積もった文字通りのパウダースノーの中へセーブルを先頭に突っ込んでいった。
「うわあ、何度見ても、あの三匹はすごいよなあ」
先頭が巨大化したセーブル、その斜め後ろに三角を描くみたいにして同じく巨大化したティグとヤミーが続く、この三匹が走ると除雪車が走るみたいにものすごい雪煙が上がり、見事に積もった雪が巻き散らかされて道が出来るんだよ。ティグとヤミーの左右後ろにマックスとシリウスが付き、他の子達は巻き散らかされて広がった雪の道をさらに押しのけて広げながら進んで行く。
目が痛くなりそうなくらいの真っ白な世界の中を、俺達は遠くに見えるアッカー城壁目指して勢いよくラッセルしながら進んで行ったのだった。
「よし、アッカー城壁超えたぞ!」
冬場は開けたままにしてあるアッカー城壁にある門を潜って、貴族達の別荘地である高級住宅地の道へ出る。
さすがに道にまで雪が雪崩れてきているけど、ここまでわざわざ来るのは俺達だけだから少々散らかっていても別に問題無いみたいだ。
スライム達にびしょ濡れになったマックス達や俺たちの体も綺麗にしてもらってから、それぞれの従魔に乗って街へ向かった。
建物の中から時折聞こえる子供達の歓声に手を振ってやりながら、スピードを落として並足くらいの速さで街へ向かう。
一応、俺達はこのまま倉庫街へ行って良い事になっているので行くのはそっちだ。
途中の道には、早くも人をいっぱいに乗せた馬車が何台も列を成して道を進んでいる。
「おお、まだ始まるまでかなり時間があると思うんだけど、そんなに早く行って大丈夫なのか?」
「そりゃあ、並ぶに決まってるでしょう。俺達も、また遊ばせてもらいますね。屋台も色々と出るみたいだから、たくさん差し入れも持っていきますね!」
目を輝かせるアーケル君の言葉に、屋台大好きなのになぜか祭りの屋台に全然行けない俺は、密かに悔し涙を飲み込んだのだった。
うう、俺だって屋台巡りしてその場で買い食いしたいよ〜〜!