パイシチューは大好評!
「お待たせ〜〜〜!」
そう言いながらリビングに俺が戻ると、何故か拍手が起こった。
「お待ちしておりました〜〜〜!」
アーケル君達の歓迎の声に、思わず吹き出す。
「あはは、そこまで歓迎されると、ちょっと出し惜しみしたくなるなあ。じゃあまずはサラダからな」
そう言ってにんまりと笑った俺は、ゆっくりと大きめのサラダボウルを取り出し、葉物の野菜や温野菜の茹でたやつ、それからカットしたトマトとゆで卵の半分に切ったのも飾っておく。ゆで卵は入れるつもりは無かったんだけど、彩り的に欲しかったんだよ。
その上から粉チーズと砕いたナッツも散らして、師匠特製の胡麻ドレッシングと青紫蘇ドレッシングを並べておく。
「野菜もしっかり食ってくれよな。パンが欲しい人はここからどうぞ。ご飯が欲しい人はこっちからな」
いつもの食事用のパンを色々取り出し山盛りにして横に簡易オーブンも出しておく。それから、おにぎりとご飯の入ったおひつも取り出して並べる。
「そしてこれをどうぞ。本日のメイン! 一人一皿ずつだよ」
そう言って、まずはホテルハンプールのビーフシチューが入ったお皿を取り出して並べる。もちろん、オーブンから取り出してすぐに収納しているから、熱々のパリパリだよ。
「うおお〜〜〜それ何ですか!」
目を輝かせて身を乗り出す草原エルフファミリーとランドルさん。
「おお、買ったパイがこうなるのか。さすがだなあ」
そう言いながら、何やら嬉しそうに感心しているハスフェル達。
「中は、ホテルハンプールでまとめて作ってもらったビーフシチューだよ。スプーンやフォークで真ん中から割って、パイ生地を中に落としながら食べてもらうといいよ。ええと、ちなみに一つで足りるか?」
一応、大丈夫そうなら残りはまた別の日に出そうかと思ったんだけど、俺以外の全員が苦笑いしつつ首を振ってるし。
そうだよな。大食漢なお前らが、これ一つで足りるわけないよな。
「サラダとパンがあっても……出来ればもう少しいただきたいですねえ。では、もう少し何か出しましょうか」
ランドルさんが申し訳無さそうにそう言って、自分の収納袋を手にする。
「あはは、やっぱり足りないかあ。じゃあ、おかわりもあるから好きにどうぞ。ちなみにこっちは、中身は色々だから、何が入っているかは開けてみてのお楽しみだよ」
そう言って、色々作った分も取り出して並べる。
「中身が違うって、何が入ってるんだ?」
興味津々のハスフェルとギイが、揃ってこちらも身を乗り出すようにして尋ねる。
「ええと、赤ワイン煮と俺が作ったビーフシチュー。それからロールキャベツのトマト煮とクリーム煮だな」
それを聞いてまたしても拍手が起こる。どれだけ嬉しいんだよ。
「よし、じゃああとは好きにどうぞ!」
笑った俺がスプーンを手に持ってパイを叩く振りをしながらそう言うと、全員がそれぞれいただきますを言ってから自分のスプーンを手にしてパイを叩き始めた。
「ケンさん、これ良いですねえ。なんか、このパイ生地の中からシチューが見えただけでワクワクする」
目を輝かせたアーケル君の言葉に、全員が笑顔で頷いてる。
「あはは、大した手間はかかってないのに、そんなに喜ばれたら何だか恐縮するよ」
だって、これ全部出来合い品な訳で、言ってみれば買ってきた高級インスタント料理に、ちょっとだけ手間を掛けました程度。ある意味、俺的にはホテルの通販とかで売っていたレトルトパックのシチューと冷凍パイシートを使ってご馳走っぽくしてみました〜〜ってレベルなんだけどなあ。
「だけどまあ、楽して美味しいものが出来るんだから有り難いよな」
苦笑いしてそう呟きたべようとしたところで、スライム達が久々に祭壇を用意してくれたのに気付いたので、俺の分のサラダと塩むすび、それから自分用のパイシチューともう一つ、適当に取って敷布の上に綺麗に並べた。持っていたスプーンも一緒に並べておく。
「ここに合わせるなら、やっぱりビールよりはこれかなあ」
少し考えてそう呟き、ハスフェルから追加で貰ったあの美味しい赤ワインの瓶とグラスも並べて置く。
「お待たせしました。ええとパイの専門店で生のパイ生地を買ったので、ホテルハンプールの美味しいビーフシチューにちょっと手を加えて、こんなの作ってみました。パイシチューです。こっちは中に何が入っているかは俺にも分かりません。まあどれが入っていても美味しいと思うので、少しですがどうぞ」
シルヴァ達ならきっと大はしゃぎしながらパイ生地を叩き割るんだろうな。そんな事を考えつつ、手を合わせて目を閉じる。
いつもの収めの手が俺を何度も撫でて、サラダやパイシチューを嬉しそうに順番に撫で、最後にパイシチューのお皿ごと順番に持ち上げる振りをしてから消えていった。
「よし、ちゃんと届いたな。じゃあ俺もいただくとしよう」
もちろん俺は一つで充分なので、食べるのはホテルハンプールのビーフシチューだよ。
「おお、確かにこれを割って食べるのは、なんかテンション上がるなあ」
バキバキと真ん中部分を叩き割ってパイを中に落としながらそう言うと、またしても起こる拍手。
「あはは、嬉しいのは分かったから、いいから食え」
「はあい!」
アーケル君達の元気な返事に俺も笑いながら、いつの間にか現れてパイシチューの横でステップを踏んでいるシャムエル様を見る。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜っじみ! じゃじゃじゃ〜〜〜ん!」
深めのお椀を手にしたシャムエル様は、これまた器用に横っ飛びステップを踏みつつお椀を振り回している。当然のようにすっ飛んできて一緒になって踊り出すカリディア。最後は二人でキメのポーズだ。
「あはは、お見事お見事。じゃあ、カリディアにはナッツをどうぞ」
サラダのトッピングのナッツを渡してやり、シャムエル様のお椀を受け取る。
「ああそっか、小さなココット皿があったから、今度はアレにパイ生地をかぶせて焼いてやればいいんだよな。ごめんな気付かなくて。シャムエル様も割りたかっただろう?」
不意にそれを思いついて小さな声で謝ると、驚いたシャムエル様は笑って首を振った。
「へえ、そんな小さなお皿もあるんだね。じゃあ、パイを割るのは次回のお楽しみにするから、今回はそのお椀に入れてください。あ、サラダはこっちで赤ワインはこれにお願い!」
いつもの小皿とショットグラスが出てきて、思わず笑った俺はハスフェルを振り返った。
「なあ、この赤ワインを飲みたいから開けてくれるか」
実を言うと、ワインの栓抜きって案外難しいんだよな。オープナーがまっすぐに入らなかったりするとコルクが割れたり、中にコルクの粉を落としたりするし、そもそもコルクを留めている蝋を落とすのも結構面倒臭い。
「ああ、あのワインだな。じゃあ俺達も一緒にいただくよ」
「もちろん、ってかハスフェルから貰ったワインだって」
笑って瓶を渡し、手早く開けてくれるのを眺めながら俺もビーフシチューをいただく。
ううん、やっぱりホテルハンプールのビーフシチューは美味しいよなあ。ああ、パイもサクサクなところと、シチューにまみれてふにゃふにゃになったとこがあって、これも美味しい。
入れてもらった赤ワインを楽しみつつ、俺もちょっと贅沢な夕食を楽しんだのだった。
はあ、美味しいものを食べるって幸せだなあ……。