夕食準備
「ただいま〜〜〜! ニニ、良い子にしてたか〜〜〜?」
玄関を入ったところでスライム達に濡れた体を綺麗にしてもらった俺達は、一旦解散してそれぞれの部屋に戻った。
「おかえりご主人。早かったのね」
ご機嫌で喉を鳴らしたニニが、産室として置いてある小屋から出て来る。
「あれ、コタツに入ってなかったのか? 寒くないか?」
「少し前まで入っていたわ。だけどコタツだとちょっと窮屈かなって。それでカッツェとくっついて寝ていたの」
ドヤ顔のカッツェが小屋から出てくるのを見て、ちょっと嫉妬の炎が燃え上がった俺は、間違ってないよな?
「まあ、どこでも好きなところで休んでくれていいんだからな。ううん、改めて見ると、お腹が大きくなって来たなあ」
本当に、こんなになるまで気が付かなかった自分に呆れるよ。
「早く生まれておいで。待ってるからな」
ニニのお腹をそっと撫でてやったところでハスフェルから念話が届いた。
『おおい、そろそろ腹が減って来てるんだけどなあ』
『あはは、了解。じゃあリビングへ行くから待っててくれ』
返事を返した俺は、従魔達はそのまま部屋に置いて、スライム達だけを連れてリビングへ向かった。
「ええと、買って来たパイ生地を使って作ってみたい料理があるんだけど、もうちょい待ってもらっても構わないか? 駄目なら適当に作り置きを出すけど?」
リビングにはもう全員集合していたので、そう聞いてみる。
「もちろん、まだ大丈夫ですよ!」
ハスフェル達が何か答える前に、アーケル君が嬉々として返事をする。
「大丈夫か?」
「ああ、そこまで飢えているわけじゃあないから構わないよ。それより何を作るんだ?」
「ふふふ、それは出来上がってのお楽しみに! じゃあちょっと待っててくれよな」
そう言って、リビングに併設されているキッチンへ向かった。
「あれ、案外ここのオーブンは小さいんだな。じゃあ厨房へ行くか。あっちならオーブンがいくつもあるから一気に焼けるな」
ここのキッチンにあるオーブンは一つだけで、それほどの大きさが無い。これだと全員分を焼こうと思ったら何時間もかかってしまう。
苦笑いした俺は、リビングへ戻った。
「ごめん、ちょっと厨房で作業してくるよ。ここのオーブンだと全員分を焼くのに何時間もかかっちまう」
「ええ、何を作るんですか?」
アーケル君だけでなく、リナさん達やランドルさんも不思議そうにしている。
「まあ、それは出来上がってのお楽しみにな。じゃあちょっと待っててくれよな」
笑ってそう言い、急いであの広い厨房へ向かった。
「ご主人、お掃除終わりました〜〜!」
一応念の為、スライム達にお掃除してもらい、足元が寒いので置いてあった暖房器具のスイッチを入れてから、戸棚から今から使う食器を取り出した俺は腕を組んで考える。
「サクラ、作り置きのシチューって何がある?」
「ええと、赤ワイン煮とビーフシチュー、こっちはポトフとロールキャベツのトマト煮とクリーム煮。ホテルハンプールのビーフシチューもまだまだありま〜す!」
得意げにそう言って、大小の鍋を並べていく。
「ううん、ポトフはちょっと違うか。よし、じゃあそれ以外で色々作って、何が出るかはお楽しみ! ってのもいいな。そうしよう」
にんまりと笑った俺は、取り出した大きめのお皿を手に取り嬉しくなって頷いたよ。
そう、これはここのキッチンに備え付けられていた、まるで業務用ってレベルに数があるお皿のうちの一つの耐熱製のお皿で、オーブンに入れても大丈夫なタイプ。ちょっと大きめなので、ハスフェル達でも一個あれば大丈夫なはず……。
うん、一応一人二個計算で作っておくか。
まずは一番量がある、ホテルハンプールのビーフシチューを取り出し、お皿を並べてたっぷりと入れていく。
「ああ、その前にオーブンを温めておかないと」
パイ生地を取り出したところで気が付き、一旦手を止めて近くにあるオーブンのスイッチを入れて温めておく。
「じゃあ、作りますよっと」
取り出したのは、ここの備え付けの調理器具で大きな麺棒。俺が持っているのよりも長くて太かったので、こっちを使わせてもらう。
「ええと、ちょっと伸ばして使ったらいいって言っていたよな」
一応、お店の人に作り方を確認しておいたんだよ。なので、教えてもらった通りの手順でやってみる。
「だいたいこれくらいまで伸ばしたら、お皿に蓋をするみたいに被せて縁の部分を押さえながらちぎるんだったな」
シチューを入れたお皿の上に伸ばしたパイ生地をかぶせ、縁に沿ってちぎっていく。
そう、今から作るのはシチューの上にパイ生地をかぶせて焼いたパイシチューだ。これをザクザク削りながら混ぜて食べるんだよ。これは絶対に皆のテンションも上がるはず!
って事で、ホテルハンプールのビーフシチューでまずは全部で十二個作ったのを順番にオーブンに並べて入れていく。
予想通り、一つのオーブンに四個のお皿が入ったので、オーブン三つ分だ。
「誰か時間計ってくれるか。一応砂時計一回分で呼んでくれ」
「はあい! 計りま〜〜す!」
ゼータを先頭に、砂時計を持ったスライム達が元気な返事と共に、それぞれのオーブンの前にすっ飛んでいく。
「じゃあ他のも色々作っておくか」
って事で、取り出したシチューやロールキャベツまで、いろいろお皿に入れてはパイ生地をかぶせてオーブンに入れるのを繰り返した。
「すげえ、どれだけオーブンあるんだよ。全部入ったぞ」
苦笑いしていると、ゼータの声が聞こえた。
「ご主人、そろそろ一回分砂が落ちるよ」
「おう、どれどれ……ううん、もうちょいだな。じゃああと五分お願い」
「はあい、半分だね」
ゼータの声に、待ち構えていた三匹のスライム達が持っている砂時計も綺麗にひっくり返される。
他の子達のも順番に見て周り、ほぼ十五分で綺麗に焼き上がる事が分かったよ。
次からは砂時計一回と半分だね。
「よし、じゃあ出来上がりだ。腹減り小僧達が待ち構えているだろうから、戻るとするか」
最後のシチューが焼き上がったところで、そう言って伸びをする。まあ後半は俺は待っていただけで、何もしていないんだけどさ。
今日使ったのは、パイ生地を伸ばした作業台だけで、洗い物はほとんど無い。
あっという間に綺麗にしてくれたスライム達を順番に撫でたり揉んだりしてやり、オーブンから取り出した最後のお皿を収納した俺は、スライム達を引き連れてリビングへ戻ったのだった。