お茶の専門店と和菓子盛り合わせ!
「ええ、これって……」
入った店は、一見ごく普通のカフェに見える。だけど案内されて座った大きなテーブルに置かれた湯呑みを見て、俺は目を見開いた。そう、マグカップのような取っ手が無い、いわゆる湯呑みだったのだ。しかも入っているのは香ばしいほうじ茶っぽい薄茶色のお茶。
ああ懐かしいこの香り。子供のころに母さんがよく淹れてくれた覚えがあるお茶の香りだよ。
そう、我が家の定番は、夏は麦茶でそれ以外の時期はほうじ茶だったんだよな。緑茶は、誰か来た時とか、何か特別な時しか淹れていなかった記憶がある。
まさかここでほうじ茶に出会えるとは。ううん、この茶葉も売っていたらマジで欲しいんだけど、どうなんだろう?
そんな事を考えつつ、メニューを見て大感激。何とグリーンティー、つまりお抹茶味のドリンク発見!
これは絶対にあるはず! と密かに期待しつつこっそりスタッフさんに聞いてみると、予想通りにこのカフェはコーヒーも一応あるにはあるが、お茶がメインのカフェらしい。しかも王都に本店があるお茶の専門店の直営店で、お茶っ葉の販売もやっているらしい。それならばとお願いして、持ち帰り用のお品書きも持って来てもらい、お抹茶やほうじ茶、もちろん紅茶や緑茶も全種類をまとめて缶単位で持ち帰りで買わせてもらったよ。
ああ、俺の心の故郷がここにもあった。
よし、これでお抹茶味のお菓子も作れるぞ! と、密かに拳を握る俺だったよ。
やっぱりまずは、買ったあんこも使って抹茶パフェからだな。師匠のレシピをアレンジすれば、抹茶アイスも作れそうだ。それから抹茶味のパウンドケーキ。ここには餡子を混ぜても良いと思う。ああ、上から餡子をトッピングするのも良さそうだなあ。
などと、何から作るのか割と真剣に考えつつ、とりあえず今頼むドリンクメニューを見る。
「やっぱりグリーンティーだよなあ。これの温かいのにしよう。多分甘いだろうけど、久々のお抹茶味飲みたい!」
って事で、俺とランドルさんはホットのグリーンティーを頼み、ハスフェルとギイは緑茶をポットで。リナさんとアルデアさんはミルクたっぷりの紅茶を頼み、アーケル君達もホットのグリーンティーを頼んだ。
「お菓子はお持ちでしょうか?」
手ぶらで入って来た俺達を見て、スタッフさんがお皿を用意しながら聞いてくれる。
「ええと、どれにしようかなあ……」
やっぱりここは餡子の饅頭だよなあ。などと考えていると、お皿を受け取ったアーケル君達が席を立った。
「じゃあ交代で見に行きましょう。ケンさんはどうしますか?」
意味が分からなくて驚いていると、空のお皿を見せながらアーケル君がにっこりと笑った。
「前金を払っておけば、今食べるお菓子を買いに行っても良いんですよ。それでここに載せてもらってそのまま戻ってくれば良いんです。どうしますか?」
もう一度そう聞かれて、ようやく意味を理解した俺はランドルさんと同時に立ち上がった。
「良いねえ、じゃあ俺はさっきの和菓子屋さんへ行って饅頭を買ってこよう。こし餡たっぷりの薄皮饅頭とみたらし団子が食べたい!」
「良いですねえ。それ、俺も食べたいです!」
目を輝かせるランドルさんと手を叩き合い、言われた通りに前金を払ってお皿を手に店の外へ出ていく。
少し歩いた先の和菓子屋さんに再訪して、みたらし団子と薄皮饅頭、それからシャムエル様リクエストのきんつばと栗きんとんも追加され、思わず栗きんとんも追加した俺だったよ。
もちろん、さっき持ち帰りでは全部大量に買い込んであるんだけど、なんか見逃せなかったんだよな。まあ多かったら自分で収納しておくよ。
「みったらっし団子に、薄、皮、饅、頭〜〜! きんつば、きんつば、栗きんとん!」
新曲和菓子の歌を歌いつつ、俺の右肩で高速ステップを踏むシャムエル様。
まあ、気持ちは分かる。俺もちょっと嬉しい。
頭上では収めの手も一緒になって手拍子しているし。
ハスフェル達は、クレープと焼き菓子の盛り合わせを、リナさんとアルデアさんはお皿に乗り切らないほどの生クリームたっぷりのカットケーキの数々。そしてアーケル君達も、カットケーキがぎっしりと並んだお皿を両手でささげ持つようにして戻って来ていた。
サクッと収納して手ぶらで戻って来てごめんよ。
俺達が戻って来たのを見て、スタッフさん達が飲み物を即座に運んできてくれた。
「おお、お抹茶の良い香りだ〜〜!」
ちょっと出そうになった涙を堪えつつ、席に座った俺は、まずは手を合わせてシルヴァ達にお祈りする。
「お待たせいたしました。温かいグリーンティーと和菓子の盛り合わせです。俺、このタレがかかったみたらし団子が大好きなんですよね。きっとシルヴァ達も気にいると思うので、少しですがどうぞ」
即座に目の前に現れた収めの手が、俺の頭を何度も優しく撫でてから、グリーンティーと和菓子の盛り合わせのお皿をそれはそれはゆっくりと何度も撫で、最後に順番に持ち上げる振りをしてから消えていった。
「相変わらず、はしゃいでいるのが分かるって、面白いよなあ」
小さく笑ってそう呟き、もう一つ取り出した小皿に、シャムエル様ご希望のきんつばと栗きんとん、それから俺の薄皮饅頭を半分に割って並べた。みたらし団子は二本あるので一本そのまま横に添えておく。
「飲み物は……ああ、ここに入れるんだな。ちょっと待って」
いつもの杯にスプーンを使ってグリーンティーを入れてやり、また高速ステップを踏み始めたシャムエル様の目の前に置いてやる。
「はい、お待たせしました」
「うわあい、ではいっただっきま〜〜〜〜す!」
薄皮饅頭の餡子部分に顔から突っ込んでいったシャムエル様の尻尾をこっそりともふりつつ、俺もまずは薄皮饅頭に大きな口を開けてかぶりついたのだった。
はあ、久々の餡子、美味〜〜〜!