街での手続き色々
「それじゃあ行くとするか」
食事を終え、机の上を綺麗に片付けた俺は、一旦部屋に戻って従魔達を連れて玄関へ向かった。
今日もニニとカッツェ、鱗チームとハリネズミのエリーとモモンガのアヴィ、それからお空部隊はファルコ以外はお留守番だ。
ニニは大事な体だし、カッツェはニニの側にいたいと言うので留守番をお願いしてきた。他の子達も寒がりだから、無理せずニニ達と一緒に暖かい部屋でゆっくりしていてくれ。
しかしニニとカッツェの両方が出て来てくれないとなると、普段ニニの背中に乗っている猫族軍団の面々の居場所が無くなる。
マックスの背中は、今日はウサギコンビが専用カゴの中で収まっているから、入れるとしてもあと一匹か二匹だろう。
玄関の大きな扉を開く前にどうしようか考えていると、ヤミーとティグが一気に大きくなっていつものカッツェくらいになった。
「じゃあよろしくね〜〜!」
タロンやソレイユ達、猫族軍団の寒がりな子達が二匹の背中に分かれて飛び乗る。フラッフィーも雪は平気なので大型犬サイズになって早くも大はしゃぎしている。
スライム達は合体して俺の鞄の中だ。オリゴー君とカルン君は大型犬サイズの狼コンビが背中に乗せている。
「よし、これなら大丈夫だな。じゃあまた、ティグとヤミーとセーブルに先頭をお願いするからよろしくな」
「はあい、お任せください!」
一気に大きくなったセーブルを先頭に、大きく開いた扉から外へ飛び出していく従魔達。
マックスに飛び乗った俺も大急ぎで外へ飛び出したよ。
ハスフェルとギイが扉を閉めて施錠してくれた。
「よし、それじゃあ行こう!」
セーブルを先頭にして、夜の間に降り積もっていた新雪をラッセルしながらどんどん進んで行く。
「いやあ、セーブルの迫力はすごいなあ」
もうもうと雪煙を蹴り立てて新雪をラッセルしながらガンガン進んでいくセーブル。簡単そうに見えるけど、もしも俺が自力でこの雪の中を進もうとしたら、多分一歩も進めずに新雪に埋もれて身動きが取れなくなってしまうだろう。まあ、どう考えてもこんな誰も通らないところでそんな事になったら、間違いなくそこで俺の異世界人生一巻の終わりだよな。
今更ながらに従魔達のありがたさに感謝しつつ、マックスの背の上にまでバシバシと飛んでくる大きな雪の塊を何とか手で弾いて防いでいたのだった。
いつもの如く、アッカー城壁を超えた所で一旦小休止して、まずはびしょ濡れになった俺達と従魔達をスライム達に手分けして綺麗にしてもらう。
まあ、水気を取るくらいならリナさん達やランドルさんのスライム達でも出来るからね。
ふわふわな毛並みが復活したところで改めて俺はマックスに飛び乗り、ここからはのんびりと並足くらいの速度でゆっくりと街へ向かった。
「じゃあ、まずはまだ時間も早い事だし、先に冒険者ギルドへ行こうか」
そう言いながらちょっと考える。よく考えたらあの豆腐懐石のお店って、午前中は営業していないかも。ううん、営業時間を聞いておけば良かった。
まあ、今日は駄目でもスライムトランポリンが終わった後に寄れるだろう。
「おう、ケンさんじゃあないか。商人ギルドから指名依頼が来ているぞ」
冒険者ギルドに入ったところで、丁度カウンターの中にいたギルドマスターのガンスさんがそう言って、手にした書類をひらひらと振って見せる。多分あれがその指名依頼の書かれた書類なのだろう。
「はい、それを受注しに来ました」
笑いながらカウンターに座ると、何故かギルドマスター直々に手続きをしてくれた。受注証明の書類にサインをしながら、ふと顔を上げて考える。
「ええと、これって俺の名前で指名依頼が来ているけど、よく考えたらスライムトランポリンに参加するスライムは、俺だけじゃあなくて全員のスライムなんだけどなあ? 報酬があるんだから、俺一人がもらうのは違う気がするんだけど、どうすればいいかな? 後で分ける?」
しかし、俺の呟きが聞こえたらしいランドルさんとリナさん達が、揃って俺を振り返った。
「その事ならどうか気にしないでください。だって、我々はスライムを貸し出しているだけで、何にも手伝っていませんから」
「それどころか、めっちゃ楽しませてもらっているもんな」
「そうですよ。それでも代金を受け取れないって言うのなら、我々の分は食費に当ててください!」
揃ってそんなことを言われてしまい、ハスフェル達に至ってはそもそも報酬代金を受け取る気なんて無いもんだから、結局全額俺が受け取る事になってしまった。
ううん、どうしよう。ここでも寄付とかした方が良いんだろうか?
以前、ハンプールでスライムトランポリンをやった時、商人ギルドからの依頼だと思ってその分は全額寄附してもらうようにお願いしていたんだけど、結局冒険者ギルドからも別途で報酬の振り込みがあったんだよな。一応その分はそのままにしてあるから、春にハンプールへ行ったらそれも寄付しておくつもりだよ。
「ええと、じゃあその分の報酬って全額寄付に回しても構わないかな?」
驚くリナさん達やギルドマスターのガンスさんに、俺達はハンプールの街で聞いた、孤児院出身の友達や仲間達に高級菓子店のお菓子を食べさせたくて奮闘した少年の話をしてやった。
「おお、それは素晴らしい。ケンさん、貴方のその暖かなお心遣いに心から感謝します。正直申し上げると、ここバイゼンでもギルド連合が管轄する孤児院や施療院が複数あります。鉱山主や貴族の方々をはじめとした寄付が主な収入源なので、予算は常に不足しがちです。臨時の寄付はいくらでも有り難いんです」
そんな話を聞いたら知らん顔出来ないじゃん。一応、定住する予定は無いけどここにも家を買っているわけだしさ。
って事で、ハスフェル達と相談の結果、代表して俺の口座から、バイゼンのギルド連合へも定期的な寄付を行うように手続きしてもらった。
これで、無駄に塩漬けになっている俺の口座のお金も、ちょっとは人様の役に立ってもらえるよな。
その後、リナさん達が連名で俺に指名依頼してくれた例の一件も受注して、別室を借りてギルドマスターのガンスさん立ち会いの元で、代金と引き換えにリナさん達にあの小さなひび割れた葉っぱを引き渡した。
その葉っぱはそのまま目の前で専門の職員さんが鑑定してから等分に割ってくれて、小さな皮の袋に入れて全員に渡された。
皆、それはそれは真剣な顔で皮袋を受け取るのを見て何だか申し訳なくなる。
だって、俺の収納の中には、結構な量の水晶樹の枝や葉っぱが収められているんだからさ。あんな気軽にバキバキと大量に手折って悪かったなあ。なんてのんびり考えた俺だったよ。
無事に冒険者ギルドでの手続きが全部終わったので、次に俺の防具の仕上がり具合を聞きにドワーフギルドへ行く事にしたよ。
まあ、もしもまだ仕上がっていなかったとしても、どれくらいで出来上がるのか予定くらいは聞けるだろうからね。
「ううん、新しい装備、楽しみだなあ」
冒険者ギルドの建物を出てマックスの背中に飛び乗った俺は、ワクワクしながら小さな声でそう呟いたのだった。