今日の予定と指名依頼
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……起きるよ……」
翌朝、いつものモーニングコールに起こされた俺は、いつも以上にふわっふわな抱き枕役のフランマを抱きしめながら、半ば無意識に返事をしていた。
いやいや、この幸せ空間から起きるなんてそんな無茶言わないでくれよ。
何しろ今俺がもたれかかって寝ているニニを筆頭に、もう俺の周りにいる子達全てがそりゃあもう最高のもふもふでふわふわになっていて、ここは超幸せパラダイス空間なんだからさ!
「もう、相変わらずお寝坊なご主人」
笑ったフランマが俺の腕からするりと抜け出しそうとしたので、寝ぼけていた俺は慌ててしっかりと抱きしめ直す。
「駄目……行かない、で、くれ……」
「駄目です。起きなさいご主人!」
俺の頬に、笑ったフランマの肉球が押し当てられる。おお、もふ毛に埋もれた大きめの肉球も良きかな……。
思わずフランマの前脚を捕まえてスリスリしてしまう。
「げふう!」
思い切り押しやられてちょっと首がグキっていったぞ!
「待って待って! 痛いって!」
フランマに押しやられて、堪えきれずにマックスのお腹の上に転がり落ちていく。
「おお、これも良きむくむくだなあ……」
転がった先のマックスのお腹に乗り上げるようにしてそう呟くと、マックスが嬉しそうに甘えたみたいに鼻で鳴いて俺に頬擦りしてきた。
その時、バサバサと羽音がして俺の耳たぶと上唇、それから鼻の横の薄い身の部分をガリッとやられた。
「うぎゃ〜〜〜!」
「キャウン!」
情けない悲鳴を上げた瞬間、俺の顔のすぐ横で鼻を押し付けていたマックスが同じく悲鳴を上げて飛び上がった。
ごめん、今思いっ切り耳元で叫んだよな、俺……。
結果、また転がった俺はニニの腹ヘ逆戻りして胸の辺りに顔を突っ込んで止まった。
「ふ、振り出しに戻った……」
いつもよりも大人しめの振り出しに戻るが、なぜか激ツボにハマってしまい笑いが止まらない。
その時また羽音がして、俺の周りにメイプルとブランとローザが舞い降りてくる。
「ごしゅじ〜〜ん」
「そろそろ起きないと〜〜〜!」
「また噛むわよ〜〜〜!」
語尾にハートマークが付いていそうな甘えた声だけど、言っている内容は全然甘くない。
「わかったわかった、起きるから噛むのはやめてくれって!」
何とか笑いを収めて起き上がった俺は、膝の上に乗ってきた三羽を順番におにぎりにしてやった。
「おお、これも良きふわふわだなあ」
痛くないように甘噛みしてくれるローザ達をもう一回おにぎりにしてから、欠伸を一つした俺はベッドから下りて水場へ向かった。
顔を洗ってサクラに綺麗にしてもらってから、いつものように跳ね飛んでくるスライム達を順番に水槽に放り込んでやる。
「じゃあ、俺は退散するから水遊びは程々にな」
冷たい水場から早々に退散した俺は、暖かい部屋に戻ってまずは身支度を整えていった。
「ああ、そうだ。胸当てが出来上がっていないかも、街へ行ったらついでに聞いて来よう」
いつもの胸当てを身に付けながらそう呟く。ふふふ、装備一新する日も近いぞ。
『おはよう、もう起きてるか?』
その時、丁度タイミング良くハスフェルから念話が届いた。
『おう、おはようさん。ちょうど今身支度が終わったところだよ。じゃあリビング集合な』
『了解、他の皆にも声をかけてから行くよ』
笑ったギイの声も聞こえて、すぐに気配が途切れる。
「さて、それじゃあ俺は食事に行って来るからな。今日は街へ行くからよろしく〜〜」
渡してあった果物の箱を取り出して食べ始めていたベリー達に手を振り、跳ね飛んで来てくれたサクラを鞄にキャッチしてそのままリビングへ向かった。
「おはようございます」
寝ぼけ眼のアーケル君達が起きて来たところで、ハスフェルが淹れてくれていたコーヒーをもらっていつものサンドイッチやバーガーで朝食にする。
「俺、今日は街へ行こうと思うんだけど、お前らはどうする?」
シャムエル様にタマゴサンドを丸ごと一つ渡してやり、自分用の鶏ハムと野菜サンドを食べながらハスフェル達を振り返る。
「ああ、そろそろ防具が仕上がっているだろうからな」
こっちを見たハスフェルの言葉に俺も笑顔で頷く。
「ああ、楽しみだよ。それに以前、豆腐懐石のお店で追加で注文していた西京漬けの樽が、そろそろ出来上がっているんじゃあないかと思ってさ」
「ああ、あの店で飲んだドワーフ潰しの吟醸酒は美味かったよなあ」
「あれならもう少し買っておいても良いなあ」
「確かに美味しかったですよねえ」
ハスフェルの言葉に、ギイだけでなくリナさん達やアーケル君まで一緒になって頷いている。いやいや、お前らあの時、かなりの量のドワーフ潰しを買っていたよな? まさかもう全部飲んだのか?
しかし、嬉々として美味しかったお酒の話を始めた彼らを見て、思わず笑っちゃったよ。
まあ良いか。美味しいものは、買える時にしっかり買い込んでおくべきだからな。
「あはは、じゃあ皆で一緒に行きますか? ついでに、あのスライムトランポリンをするための指名依頼を受けておかないと駄目らしいので、俺は冒険者ギルドにも寄って来ま〜す」
皆で一緒に行くのは予想通りの展開だったのでそう言うと、揃って笑顔で頷かれた。
「ああ、それなら私達も一緒に冒険者ギルドへ行って、ケンさんに私達の連名で指名依頼を出しますから、ついでにそれも受けてください」
真顔のリナさんの言葉に思わず立ち上がりそうになった体が止まる。
「へ? 俺に指名依頼?」
驚いてそう尋ねると、リナさんだけでなくアルデアさんやアーケル君達、それにランドルさんまでが真顔で俺を見ている。
「装備が整ったら、いよいよ狩りに行くのでしょう? それなら以前仰っていた、従魔達が万一理性を無くした際に有効なのだという、あの水晶樹の葉を買い取らせてください」
「ああ、これ」
取り出したのは、半分に割れた小さな葉で、更にはひび割れ付きのやつだ。
「はい、指名依頼を受けていただけたら、別室にてギルド職員の立ち会いの下で代金を支払いますので、それを渡してください。すぐに割ってもらってそれぞれが肌身離さず持っておく事にします」
リナさん達の真剣な様子に若干ドン引きしつつもなんとか頷く。
ううん、水晶樹のやりとりに関してはもっと軽く見ていたけど、実はすっごく大変な事みたいなんだよなあ……。
別室にある祭壇に、今もまだ飾ったままにしてあるあの水晶樹の枝はどうしたら良いんだろう。
『ああ、あれなら守護の結界を張ってあるから、俺達以外には見えないようになっているよ。だから心配するな』
唐突に頭に響いたハスフェルの念話の声に、もう少しで驚き過ぎて声を上げそうになったよ。
『あれ、そうなんだ。じゃあ、あのままにしていても大丈夫?』
一応念話で確認しておく。
『冬の間はあのままで構わないよ。春になって別の街へ移動する時には祭壇も片付けて閉じるから、その時に回収しておくといい』
『了解、じゃあ忘れずに片付けないとな』
そう返して、一つため息を吐く。
「それじゃあ、食べたら片付けて、皆で街へ行くとするか」
俺の言葉に皆も笑って頷き、それぞれ食べかけていたパンを食べ始めたのだった。