今夜はすき焼き!
「さて、もうすっかり遅くなっちゃったけど、夕食はどうしようかなあ」
気がつけばかなりの時間が経っていて、かなり腹が減っている。
「とりあえずリビングへ戻ろう。ちょっと冷えているし、何か温かいものが食べたいなあ」
従魔達全員のブラッシングは割と重労働だったので、出来れば料理はしたくない。やっても材料を切る程度だな。廊下を歩きながら、何を作ろうか考える。
「昨夜は作り置きだったし、その前は焼肉パーティーかあ。その前も作り置きだったもんな。ううん、それなら材料を切るくらいならかまわないから鍋にするか。よし、牛肉ですき焼きにしよう。正月だもんな」
よくわからない理由をこじつけて今夜のメニューが決定した。
「さて、それじゃあサクッと準備するか」
従魔達を暖房器具の前に残して、俺はリビングに併設されているキッチンへ向かう。スライム達はもちろん全員ついてきてくれているよ。
まずは手分けして白菜と長ネギなどの野菜を切ってもらい、メインの牛肉は普通の牛肉のロースと肩ロースの部位の塊肉を取り出す。これはセレブ買いの時にまとめて買った高級肉だ。ううん、見るからに脂が乗っていて美味しそうな良い肉だ。
「これを全部、出来るだけ薄くスライスしてくれるか」
「はあい、薄切りですね! やりま〜〜す!」
アクアとアルファが、それぞれ張り切って牛肉の塊を飲み込む。
「出来たのはここに出してくれよな」
大きめのお皿を出しておき、その間に俺は割り下を作る。
「ええと、二番出汁に醤油と味醂とお酒、それから砂糖だな。簡単簡単」
大きめの片手鍋に順番にオタマで計って入れながら軽く温める。
「味は……よし、良い感じだ」
ちゃんと味見もしてから、火から下ろして置いておく。
「後は木綿豆腐とキノコ、ごぼうとにんじんは細く刻んでもらえばいいな」
フライパンを取り出し、木綿豆腐は軽く焼いて焦げ目を付けておく。本当は、焼き豆腐があれば良いんだけど、無いからこれで代用だ。
コンロに一番大きな浅型土鍋を取り出す。まあ土鍋って俺は呼んでいるけど、要するに浅めの陶器製の両手鍋だ。
まずは割り下を入れて火をつけ野菜やキノコをガッツリ投入する。豆腐と根菜類も並べて入れて一煮立ちさせる。
「よし、野菜に火が通ったら、ここでお肉を大量投入だ!」
本来なら、肉から焼くのが良いんだけど、ここでそれをやったら瞬殺でいつまで経っても野菜に到達しないだろうから、強制的に野菜も食べてもらう作戦だ。
って事で、大量の肉の上にもたっぷりと割り下をかけてから火が通るのを待っている間に、スライム達に生卵を大量に割ってもらう。
一応、ちょっとでも火を通せば大丈夫らしいので、片手鍋にまとめて溶き卵を入れてごく緩いスクランブルエッグを作っておく。これが生卵の代わりだ。
「これは余熱でも火が通るから、これくらいで火から下ろすっと」
一見ほぼ生だけど、余熱で火が通るので大丈夫なんだよな。
「おお、肉もいい感じになったな。よし、じゃあ第一弾はこれくらいにしておくか」
ゆるゆるスクランブルエッグをもう一度軽く混ぜてから、一旦収納しておく。
「お待たせ! 出来たぞ〜〜」
熱々の鍋も一旦収納してからリビングへ向かう。
「携帯用のコンロを出して、ここに鍋を出すよ。どうだ〜〜〜!」
どどんと大きな鍋を出すと、何故か拍手が起こった。
「おお、これは美味しそうですね!」
目を輝かせたアーケル君の声に笑って頷き、片手鍋にたっぷりと作ったゆるゆるスクランブルエッグを取り出す。
「お椀にこの卵をこれくらい入れて、肉や野菜をつけながら食べるんだよ。味は割としっかりついているから、卵でまろやかになるんだよな」
にっこり笑って、取り出したお椀にゆるゆるスクランブルエッグを入れてから、肉と野菜や豆腐などをガッツリと取って見せる。
「おお、素晴らしい! ではいただきます!」
「いただきます!」
目を輝かせた全員のいただきますの声の後、全員揃ってお椀を手に鍋に突撃していったよ。先に取っておいてよかった。
「ちなみにこれが肉と野菜の追加分。味付けはこの割り下をかけてくれれば大丈夫だから、よろしくな」
って事で追加分は丸投げしておき、いつもの敷布を敷いてから自分の分をまずはシルヴァ達にお供えする。
「今夜はすき焼きにしてみました。俺のいた世界では生卵をつけて食べていたんだけど、ここではちょっと無理そうなので、ゆるゆるスクランブルエッグにしてみました。少しですがどうぞ。あっちの鍋には、また追加が出来るから、よかったら向こうからも取ってください」
まあ、こう言っておけば鍋から持っていってもらえるだろう。
いつもの収めの手が、俺を撫でてからお椀を撫でて持ち上げる振りをし、お鍋もしっかり撫でてから消えていった。それを見送ってから、小さく笑って自分の席にお椀を持ってくる。
当然のように、小鉢を手に物凄い勢いでステップを踏んで待ち構えているシャムエル様。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜っじみ! じゃじゃ〜〜ん!」
久々の味見ダンスを見て小さく吹き出し、差し出された小鉢にたっぷりのゆるゆるスクランブルエッグ入れてからお肉や野菜などを入れてやる。
「はいどうぞ。熱いから、気をつけてくれよ」
小鉢と言っても、手の平くらいはある大きなお皿なので、ガッツリ取れるよ。半分近く無くなったお椀を見て苦笑いした俺は追加を取りにもう一度鍋に向かった。
しかし、既に一面クリアーされてしまっていた鍋は、ギイとランドルさんが手分けして追加の肉と野菜などの具を大量に入れて作ってくれているところだった。残念!
ってか、どれだけ入れたんだよ。肉と野菜が鍋からこぼれんばかりに盛り上がっているんだけど……。
「もう一つ鍋を出すから、こっちでも作るか。これはいくらなんでも入れすぎだって」
笑いを堪えつつそう言い、もう一つ携帯コンロと大きめの鍋を取り出す。
「おう、ありがとうな。さすがにちょと入れすぎたなって話していたところさ」
照れたように笑ったギイが、そう言って新しい鍋に割り下をドバドバと入れる。
「じゃあ、こっちのを移しますね」
ランドルさんがせっせとトングを使って野菜と肉を新しい方の鍋に移動してくれているのを見て、もうお任せする事にする。
「ううん、スクランブルエッグが無くなりそうだな。これを食べたら追加分を作っておくか」
小さくそう呟き、一旦自分の席へ戻ってまずは取ってあった分を冷めないうちにいただいた。ゆるゆるスクランブルエッグがめっちゃ保温効果を発揮していて、肉も野菜も熱々だよ。
若干猫舌な俺は少し冷ましてからいただいたよ。ううん、甘めの味が染みて美味しい。牛肉ってやっぱり美味しいなあ……。
しみじみと味わいつつお肉や野菜を平らげてから、取り出した別の大きめの片手鍋に、また大量のゆるゆるスクランブルエッグを作っておいた。まあこれはすぐに出来るからな。
ギイとランドルさんが用意してくれた二つのお鍋が出来上がり、俺も大急ぎで争奪戦に参加したのだった。
ううん、この人数で鍋をするならいくら大きな鍋だっていっても、最低三個か四個くらいは用意しないと競争率が高過ぎるって事が判明したね。次からはそうしよう。