観劇の予定と今日の予定
「はあ、ご馳走様でした!」
「ご馳走様でした! お腹いっぱいになりました!」
「ご馳走様でした! いやあ、お腹いっぱいで幸せです!」
「はい、お粗末様。じゃあもう片付けていいな」
満面の笑みの草原エルフ三兄弟のご馳走様の声に俺も笑ってそう言ってから、残りのおにぎりと少しだけ残った揚げ物を片付けておいた。
「ああそうだ。昨日ヴァイトンに確認したら、彼から劇団に連絡を取ってくれてな。ちょうど週末だし、二日目の夜の公演で彼女達の分まで席を確保してくれたぞ」
にんまりと笑ったハスフェルの言葉に一瞬何の事だか分からず首を傾げたが、彼女達の分まで席を取ったと聞いて何の話か分かった。例のミュージカル秋の早駆け祭り編だな。
「おお、公開二日目かよ。そんな日程に割り込んで大丈夫なのか?」
さすがに無茶なんじゃあないかと思ってそう言ったんだけど、ハスフェルとギイは揃って苦笑いしている。
「別に公開初日でも、あの様子なら問題なく入れてくれそうな反応だったよ。一応、さすがに申し訳ないから初日は外してくれって言ったら、二日目で用意したからって言われて、俺達だって割と本気で本当に大丈夫なのか確認したんだからな」
何故かドヤ顔でそう言われて、もう笑いしか出ない。
「あはは、まあ大丈夫だって言ってくれたんなら大丈夫なんだろうさ。ええと、それじゃあ彼女達に連絡してあげないといけないよな」
今日は従魔達のブラッシングタイムにする予定だったんだけど、携帯も無線もないこの世界、念話が通じるのは仲間内だけだし、伝言したければその場へ行くしかない。まあ、また雪の中を走っていくのもマックス達が喜ぶし良いかと思って出かけるつもりになったら、また二人が笑って首を振った。
「そっちも、もうギルドから彼女達に連絡済みだよ。俺達がスライムトランポリンの体験会に参加している間に早々に連絡してくれたみたいで、ありがとうございます。当日を楽しみにしています! って、二人からの歓喜の伝言が返ってきたよ」
さすがのヴァイトンさんの手配の早さと手際の良さに、もうただただ感心するしかない。
「そっか、ありがとうな。それじゃあ四日目からお祭り終了までスライムトランポリン開催で、それが終わったら一日休憩で次の日に観劇の予定だな」
「で、それが終われば狩りに出発ですね!」
オリゴー君とカルン君の嬉しそうな声に、俺達も笑って頷き合った。
確かにこの所ずっと街の中だったから、郊外を思いっきり走ったり、ちょっとはあの新しいヘラクレスオオカブトの剣でジェムモンスター狩りもしてみたい!
「ああ、だけど狩りに行くのは俺の胸当てが完成してからだからな!」
肝心の俺の防具がまだ仕上がっていない。まあ数日で完成するって言っていたから、さすがに祭りが終わるまでには完成するだろう。
「ああ、確かに防具がまだだったなあ。それならもうそろそろ仕上がっているんじゃあないか?」
「おお、楽しみだなあ。それなら、次に街へ行ったらエーベルバッハさんかヴァイトンさんに聞いてみるよ」
「装備一新ですね」
笑顔のランドルさんの言葉に、俺も笑顔で大きく頷いたよ。
ふふふ、楽しみだなあっと。
「ところで、もう今日は休憩でいいんだよな?」
何故か酒瓶を取り出し始めたハスフェル達を見ながらそう尋ねる。
「おう、そのつもりだよ。お前も飲むか?」
吟醸酒の瓶を見せてくれたので、うっかり頷きそうになったけど、ここはグッと堪えて首を振る。
「魅力的なお誘いだけど、それは夕食の時に頂くから残しておいてくれ。俺は今から従魔達のブラッシングタイムにするんだよ。前回使ったダンスホールでね」
前回、ブラシを色々買ってきた時、従魔達にブラシをするのにここだと値段を考えたくないくらいに高級な絨毯や家具が置いてあるので、何も置いていない板張りの広い部屋を探したんだよ。で、見つけたのが天井も高いし家具も置いていない板張りの部屋。通称ダンスホールだ。
だけどまあ、これまた値段がいくらになるのか考えたくないレベルの巨大なシャンデリアがぶら下がっていた事を考えると、実は本当にダンスホールだったのかもと、割と本気で俺は思っているんだけどね。
「ああ、そりゃあ良いな。じゃあ僕もご一緒して良いですか?」
アーケル君の声にリナさん達やランドルさんまで嬉々として立ち上がったもんだから、結局また全員揃ってそれぞれの従魔達にブラッシングをしてやるって事になり、一旦解散して部屋に戻り、従魔達を連れてダンスホールで集合になったのだった。
「さて、今回はどれくらい抜けるんだろうねえ」
そう呟きながら、ブラッシング終了後のふわふわのもふもふに埋もれる幸せを考えて廊下を歩きながら一人で笑み崩れる若干不審な奴になっていたよ。
「おおい、ブラッシングしてやるから全員集合だ〜〜〜!」
上がったテンションのまま部屋に入るなり大声でそう言ってやると、真っ先にすっ飛んできたのはマックスと狼コンビ、くっつきあって和室のコタツで寝ていたらしい猫族軍団と鱗チーム、うさぎコンビも飛び出してくる。
他の子達も遅れてなるかと言わんばかりにすっ飛んで来て、扉を開いた位置で立っていた俺は、そのまま勢い余って廊下の床に押し倒される。
「ぶわあ、お前ら、ちょっと待てって! ステイ! ステヒ〜〜〜!」
残念ながら猫達にはステイは効かない。ちなみに狼コンビにも効かない。ってか、ステイで落ち着いて座ってくれるのはマックスだけだって。
猫族軍団を筆頭に、何故か全員が巨大化して飛びついて来て揉みくちゃにされた俺は、悲鳴と共にもふもふの海に沈んでいったのだった。
いや、もふもふなのはすっごく幸せで、良いんだけど、さあ。さすがに、息が、出来ない……ってば……。